告白
抱きつかれている。僕が彼女に。
その事実に驚き、混乱する。
どうしてこうなっているのか、なぜ彼女が僕に抱きついているのか全くわからない。
「えっと、なにが……」
彼女の顔を見ようと首を限界まで曲げる。
しかし、彼女は僕の背中に顔を押し付けているようだった。
彼女の息が当たっているのか、背中の一部が少し熱い。
手を伸ばし、彼女の手に触れる。
この体勢だと彼女の顔が見えない。
話をするためにも一度離してもらおうとし――
「――離れないでください」
しかし、その言葉と共に、女の腕の力が強まる。
見ると、僕の服を握る彼女の手に力が入り、白くなっていた。
「……離れたくないんです。ずっと一緒にいたいんです
……今だけじゃなく、明日も、明後日も、来年も、その先もずっと」
……今だけではなく、将来も?
それは、つまり――。
「……駄目ですか?あなたはどうですか?私と一緒にいたくないですか?」
「……僕は」
僕はどうなのか?
僕がこれからも彼女と一緒にいたいのか?
「……」
……そんなもの、考えるまでもなく決まっている。
一緒にいたい。ずっと、彼女がそう望んでくれる限り。
今の僕にとって、彼女と一緒にいるのが一番の幸せで、他の何よりも大切だ。
「……」
そして、だからこそ、僕はこれまで何も出来なかった。
ここ最近、彼女の向けてくれる感情に、もしかしてとは思っていたけれど。
それでも、間違えて彼女が居なくなるのが嫌だった。
だって、僕には正解がわからない。
ずっと一人でいたから、人生経験が薄すぎて、なにもわからない。
でも、僕が駄目な人間だということは分かっていたから。
そんな僕が彼女に好かれる事なんてないと思っていて――
「――あなたは、私のことをどう思っているんですか?」
「……僕が、君の事を?」
……それはもちろん、大切な人だ。
……いや、違うんじゃないか。
なんとなくだけど、彼女が言っているのはそういうことじゃない気がした。
「……つ、つまり……私のこと……好きですか?」
「……」
……ああ、そうか。
流石にここまで言われれば、僕だって彼女の言いたいことがわかる。
そして、同時に湧き上がってくる感情があった。
嬉しさと、情けなさ。その二つの感情が。
嬉しさは、もちろん彼女が言ってくれた言葉についてだ。
ありえないんじゃないかと思っていたけれど、もしそうだったら、とも思っていた。
もしそうだったら、どれほど嬉しいだろうか、と。
そしてもう一つの情けなさは、彼女にここまで言わせてしまった事だ。
年齢はもう立派な大人なのに、こんなに大切な事を彼女にやらせてしまった。
結局、もしかしたらと思っていたことが正しかった。
つまり、僕は逃げていたのだ。断られるのが怖くて、その役目を彼女に押し付けた。
「……」
腹部にある彼女の手を見ると、手が小刻みに震えている。
こんなになるような思いをして、さっき彼女はああ言ってくれたのだ。
……情けないけれど、せめて、最後くらいは僕が頑張るべきだろう。
「その、そちらを向いてもいいかな」
「…………嫌です」
断られてしまった。
でも、この言葉は顔を見て告げるべきだと思う。
「……君に、伝えたいことがあるんだ。頼むよ」
「…………どうしてもですか?」
「……うん」
「…………………………………………はい」
長い沈黙の後に、彼女は頷いてくれた。
彼女の手から力が抜けて、動けるようになる。
ゆっくりと振り向くと、彼女の顔が見える。
目が赤くなっていて、申し訳ない。僕にもっと勇気があったら彼女にこんな顔をさせないですんだのに。
大きく一度深呼吸をする。
そして、彼女を抱きしめた。




