水族館
予定していた日曜日になった。
幸いな事に天気は快晴で、気温もちょうどいいくらいだ。
「……最近、車を使う事が増えたなあ」
アパートの前まで車を移動させながら思う。
きっとそれだけ外出が増えたという事なんだろう。
「……」
「……」
「……」
「お、お待たせしました」
車の中で少し待っていると、彼女が部屋から出てくる。
今日の彼女は涼しげなワンピースに上着を羽織っていた。
髪もいつもとは違い、軽く編みこんである。
……なんとなく、幼い外見と合わさってどこかのお嬢様みたいだと思った。
「じゃあ、行こうか」
「はいっ」
しかし、わざわざこんな整った格好をして来るなんて、少しは楽しみにしてくれていたんだろうか。
もしそうなら、計画したかいもあったというものだ。
◆
一時間程度の運転が終わり、問題なく目的地に到着する。
事前に取っておいたチケットを使って中に入った。
「わあ、大きい水槽ですねえ」
「ここまで大きいのか……」
入ってすぐ、視界を埋め尽くすような大きさの水槽に圧倒される。
テレビなんかでは見ることがあるけれど、実物は想像以上に大きかった。
「……サメが」
「迫力があるなあ」
目の前を一際大きなサメが通る。
「……むう」
「……? 何かあった?」
腕を軽く引っ張られて振り向くと、彼女が服の袖を掴んでいた。
さっきまで横にいたのに、なぜか一歩下がったところに立っている。
「……何と言いますか、こう、私の中の羊的な部分が警告を出しているような……」
「……」
……なにか、草食動物的な勘でもあるんだろうか。
足早に最初の水槽がある大部屋を抜けた。
そして、展示されている生き物を一つ一つ見ていく。
例えばアジの水槽とか。
「……美味しそうとしか思えません」
「……そうかな……そうかも」
段々と水槽が生簀に見えてきた。
◆
ペンギンのふれあいコーナーにも行った。
「妙に私のところに寄ってきますね……」
「不思議だなあ」
彼女の足元に一匹、また一匹と寄っていく。
「あー、獣人の人で偶にいるんですよねえ、ペンギンに好かれる人」
「……そうなんですか?」
理由を飼育員の人が教えてくれる。
話を聞くと、科学的な原因はまだわかっていないようだ。
「……あの、歩けないんで助けてくれませんか」
最終的に十匹くらいのペンギンに囲まれていた。
◆
ちょうどイルカのショーも開催されていた。
「イルカって一部の地域で食べられているらしいですよ。美味しいんでしょうか」
「……イルカはあんまり食べたくないかな……」
イルカが目の前で大きく宙返りする。
水槽の水が飛んできて、少し服が濡れた。
◆
一通り見て回って、昼前くらいに外に出た。
水族館は思っていたよりも楽しめたと思う。彼女も笑顔を見せてくれていたし、結果的に今回の外出は成功だったんじゃないだろうか。
「お昼にしましょう」
「そうだね」
水族館の近くの自然公園に移動する。
ベンチがある広場に行くと、敷物を広げて食事をしている人が多くいた。
「……」
しかし、少し意外だなあ、と思う。
何が意外かというと、獣人のカップルだ。
普通の人間男性と獣人女性のカップルや、獣人男性と人間女性のカップルが結構いる。
今日だけでも十組くらいはいただろうか。水族館は七~八組くらいで、今この公園に二組いる。
……もしかしたら、僕が思っていたよりもそういうカップルは多いのかもしれない。
「どうぞー」
「ありがとう」
彼女が作ってきてくれた弁当を受け取る。
……ひょっとして僕たちも傍から見るとそう見えているんだろうか。
彼らのようなカップルに。
……実際にはそうじゃないんだけど。
「……ふう」
軽く頭を振って余計な考えを頭から追い出す。
今は弁当を食べる時間だ。
「……美味しい」
「よかったです」
おにぎりを口に運ぶと水を吸って柔らかくなった海苔の味がする。
それはコンビニで買えるものとは違って、少し新鮮だった。




