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間章 裏

この話は本日二話目です。


今日初めての方は前の話から読んでください



 久しぶりに玄関を潜る足は、思っていたよりも軽かった。


「ただいまー」

「……お帰りなさい」


 挨拶をすると、母がすぐに顔を出してお帰りと言ってくれる。

 二ヶ月ぶりに見た母さんは、なんだかとても懐かしく見えた。


「よく帰ってきたね」

「うん」

「……すっかり元気になって」


 そう言った母さんの目は少し潤んでいた。

 まだ軽く挨拶をしただけなのに。

 ここを離れるときの私がどれくらい酷かったか、そして、そのことがどれくらい心配をかけていたのかがよくわかる。


「……ごめん」

「いいえ、本当によかったねえ」


 母さんの手が私の頭に触れ、ゆっくりと撫でる。

 その手はとても優しく、暖かかった。



 ◆



 階段を上り、自分の部屋へと向かう。

 母さんとは軽く話して別れた。


 どうせ今日からしばらくこの家に居るのだ。

 話はゆっくりとすればいい。


 扉を開けて中に入る。

 部屋の中はがらんとしていた。


 まあ、当然だ。引っ越す時にほとんどの物を運び込んだのだから。

 空っぽで以前住んでいたときとは似ても似つかない。

 

 ……でも、匂いは変わっていない気がした。


「…………?」


 少ししんみりしていると、部屋の外から階段を上る音がした。

 母さんが上がってきたのかと扉を開ける。


 と――


「――姉さん」

「久しぶり」


 そこには、大体二年ぶりに見る顔があった。


 病気になったときに一度帰ってきて、それ以来だ。

 姉さんは普段は遠くの大学に通っていて気軽には帰ってこられないらしい。


「下でお茶でも飲まない?」

「……うん」


 予想していなかった人に驚きながらも、私は頷いた。



 

「最近どう?」


 この言葉から近況報告が始まった。

 姉さんが最近大学院に進学した事、私が家庭料理とはいえまた料理を始めた事。

 姉さんが所属する研究室の事、私が住んでいるアパートの事。


 お互いの事を色々話していく。

 ……でも、あの人のことはどう説明していいかわからないので、隣の部屋の人と仲良くなったと言った。


「……ふうん」


 すると、姉さんがなんだか意味深な笑みを浮かべる。

 

「なに?」

「元気になったのはその人のおかげ?」

「……へ!?」


 なんでわかったのか。わけがわからなくて混乱する。


「だって、明らかに表情が違うもの。すごく楽しそうな顔しちゃって」

「え、えっと」


 そ、そうなんだろうか。

 自覚してなかったから、いきなり言われてもどう反応していいかわからない。


「付き合ってるの?」

「は!?」


 いきなりなにを言っているのか、この人は!?

 そんなのありえないだろう。だって、あの人は男で、私も元は男で――。


「でも、今は女でしょ?」

「え」


 それは……たしかにそうだ。

 たしかにそうなんだけど、それは……。


「東京の方だとさ、もう珍しくないんだよね。そういう、性転換した人と元同性のカップル」

「……え?」

「だってそうでしょ?五年前のあの日から性転換した人は全人口の五パーセントほど。日本人で言えば大体六百万人、東京都民で言えば、大体五十万人もいるんだもの。そりゃあそういう人もたくさんいるわよ」


 うちの大学にもいるしねーと笑う姉さん。

 私はというと、正直、頭の中がぐちゃぐちゃで上手くものが考えられない。


 珍しくない?性転換した人が付き合うのが?

 それはつまり、私が付き合ってもおかしくないっていうことで?


 私とあの人が……付き合う?


「えっと、その……」

「まだ良くわかってないのかな?」


 よく考えておいた方がいいかもね、という言葉を残して姉さんは部屋から出て行った。

 

「……」


 私は……どうすればいいんだろう。

 姉さんが残した言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。




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