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間章 表


 それは、ゴールデンウィークを前日に控えた金曜日のこと。

 いつものように仕事を終え、家に帰ろうとしていた僕は横から声をかけられた。


「なあ」

「……? はい」


 一瞬、僕にかけられたものか悩み……僕以外にはいないことに気付いて返事をする。

 横を見ると、そこにいたのは直属の上司だった。


 いかにも出来る男、という外見のその上司は、実際に出来る人で、その上話も分かるので部下からは人気がある。


「なんでしょう」

「お前、最近顔色がいいな」

「……そうですか?」


 突然の言葉に首を傾げ、悩む。

 ……もしかしたら、そうなのかもしれない。


 自覚は無かったけど、少なくとも食生活はここ二ヶ月ほどで急激に良くなっている。

 彼女の作る料理はとても健康的で、味が濃く野菜が少ないコンビニ弁当とは比べ物にならない。


「どうした?恋人でも出来たか?

 ……って、ああ、最近はこういうことを聞くとハラスメントだ、とかって言われるんだっけか」

「いえ」


 悪い悪い、と言う上司に首を振る。

 ハラスメントだなんていうつもりはない。この人がこれまで僕に気を使ってくれていた事くらいわかっているつもりだ。


「……恋人とかは、別に」


 一瞬彼女の顔が浮かんだけれど、頭の中で否定する。

 彼女と僕はそういう関係では決してない。


 ……かといって、じゃあどんな関係なんだと聞かれれば少し困るけれど。


「へえ」


 すると、上司は軽く目を見開いて、笑った。

 

「まあ、体調がいいのはいいことだ。その調子でゴールデンウィーク明けも頼むぞ」

「はい」


 上司はポンと僕の肩を叩いて去っていった。



 ◆



 家に帰ると、部屋に電気がついていなかった。


 彼女は今このアパートにはいない。

 帰省中で、実家に帰っているはずだった。


 ……久しぶりだな。


 薄暗い玄関に、がらんとした室内。

 少し前までは当たり前だったけど、最近はずっと彼女がいたので逆に新鮮だった。


 部屋に入り、電気をつける。

 空っぽの机が電灯の光を反射した。


 ……恋人、か。


 上司の言葉が蘇ってくる。

 彼女と僕はそんなのではない。


「……もしそうなら、嬉しかったんだけどね」


 彼女がとてもいい人だというのは、僕も良く知っている。

 最初に会ったのが三月の始めごろで、今は四月の終わり。もう二ヶ月近くも一緒にいるのだから。


 ……でも。


「彼女が嫌がるだろうし、ありえないよねえ……」


 僕がつまらない男であるということを横に置いておくとしても、無理だろう。

 何せ彼女は――


「――元男、なんだから」


 普段はそんなそぶりを見せないから、つい忘れそうになるけれど。

 彼女は病気で女性の姿になった、元男なのだ。


 その事実がある以上、恋人になるというのは現実的じゃない。

 

 ……もし仮に、僕が病気で女性になったとしよう。

 そのときに男と付き合えるかと聞かれれば、僕はNOと答えると思う。

 

 そしてそれは、きっと彼女も同じだ。


「残念だけどね」


 苦笑しながら椅子に座り、久しぶりにコンビニ弁当を開いた。

 彼女がいないので、帰り道に買ってきたものだ。

 二ヶ月ぶりのコンビニは新発売の商品が結構あって、少し得した気分だった


「……味が濃いなあ」


 一口食べて、すぐにそんな感想が出た。

 食べている弁当は、新商品のガッツリ肉が入った大きなハンバーグのやつだ。


 彼女が作るものは和食が多いため、肉が少ない。

 だから、たまには大きい肉を食べようと思って買ったのだけれど……。 

 

「……微妙」


 昔からつい最近まで、美味しいと思って食べ続けていたコンビニ弁当。

 それはあんまり美味しく感じられなかった。




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