病院
朝、車を出し、彼女が部屋から出てくるのを待つ。
時間は早めだ。まだ早朝と言ってもいい時間。病院なのだし、速めに行ったほうがいいだろうと、こうなった。
「すいません。お待たせしました」
彼女が部屋から出て、こちらに駆け寄ってくる。
その姿は日ごろとは少し違う、外出用の格好で……一つ、大きな違和感があった。
「……その角の……カバー?、どうしたの?」
彼女の角に、クッションのようなものが付いている。
赤と白の模様が付いた可愛いらしいやつが。
……もしかして角につける飾りのようなものなんだろうか。
「ああ、これですか……これは、その……車だと聞きましたので……」
「……?」
歯切れが悪い。
言いづらい事を聞いてしまったんだろうか。
「以前、父の車に乗った時にですね……座席に角が刺さったことがありまして」
「……」
「大きな穴が開いたんです」
……獣人って本当に大変だなあ……。
◆
一時間と少し後、無事に病院に着いた。
病院も、もう入り口は開いているようで、ちょうどいい時間に着けたかもしれない。
「じゃあ、行ってらっしゃい。僕はここで待っているよ」
「……え?一緒に来てくれないんですか?」
え?
「……僕も?」
「……お願いします。一人じゃちょっと不安で」
……
なぜか、僕も付き添う事になった。
……こういうのって普通家族だけなんじゃないだろうか。
少し居心地が悪い。
……患者との関係とか聞かれたりしないだろうか。
多分大丈夫だとは思うけれど、僕は物心付いてから家族と一緒に病院に言った記憶がほとんどないので自信がない。
もし聞かれたらその場合なんて答えるべきなのだろうか。
正直に、近所のものです、でいいのか。
「次の方、どうぞー」
悩んでいると、医者に呼ばれた。
彼女と一緒に診察室に入る。中にいたのはまだ若い女性の方だった。
「本日はどうされました?」
「……その、角が痒くて」
彼女と医者が話をするのを後ろから見守る。
「ちょっと見させてもらいますね。
……あー根元の皮膚が炎症を起こしてますねー」
皮膚?角じゃなくて?
疑問に思っていると、女医さんに手招きされる。
促されるままに近くに寄り、覗き込むと、根元のところ、白い髪の隙間から見える皮膚が確かに赤くなっていた。
「近いところなんで仕方ないんですけど、皮膚が痒くなったのに角が痒くなったと勘違いすることが多いんですよ」
……なるほど。確かに間違えそうだ。
昨日も背中の感覚と似ているとか言っていたし。
「それでですね、根元が赤くなっている原因なんですけど、ちゃんと掃除してないか、ブラシが合ってないとそうなりやすいんです。今回の場合は……掃除はされているのでブラシですかね。
今、ブラシはなにを使ってます?」
「…………その、この歯ブラシを」
彼女が恐る恐るポケットから歯ブラシを出す。
昨日も使ったやつだ。
「……あまり良くないですね。専用のものを使った方がいいです。
今回の炎症も、幅が広い歯ブラシで角と一緒に皮膚を強く擦ったからかもしれません」
「……はい」
「あとは……できれば、ですけど、やっぱり見えにくいところですし、炎症が治るまではブラシは他の人にやってもらったほうがいいかもしれません」
「……はい、わかりました」
途中、女医さんがちらりとこちらを見た気がした。
◆
それから、無事に診察を終えた。
そして、薬局へ向かい、炎症止めの塗り薬を貰うと、すぐに家へと車を走らせる。
帰路も順調に進み、昼前には家に着いた。
「今日はありがとうございました」
「いや、これくらい大丈夫だよ」
本当に。
普段からしてもらっている事に比べると、これくらい大したことじゃないと思う。
「…………あの、今日の夕飯の後、なんですけれど」
「なんだい?」
「…………今日もブラシ、お願いしてもいいですか?」
彼女が俯きながらそう言った。あの女医さんが言っていたことだろうか。それくらいはもちろん構わない。
……しかしなぜだろう。角度的に顔は見えないけれど、なぜか耳が赤くなっている。
「もちろん」
「……はい、ありがとうございます」
言い終わると走るように彼女が部屋に戻る。
その様子に首をかしげながら、僕も部屋に戻った。
――と、その時、横から声をかけられた。
「宅配便でーす」
どうやら、注文していた荷物が届いたようだ。
作者は医者ではないので、診察パートは想像でかかれています。
そのため違和感があっても少しくらいなら見逃してもらえると助かります。
でももし、これはありえない、てくらいおかしい所があったら教えてもらいたいです。




