獣人
彼女が部屋に帰った後。
少し気になって、獣人について調べてみる事にした。
「……考えてみれば、僕は獣人について調べた事がないな」
予兆もなく突然変化する事や、性別が変わってしまうこと、骨格から変わってしまうことくらいは知っているけれど、それ以上のこと――。
――テレビのニュースでやっていた以上のことは知らない。
僕の周りに獣人はいなかったし、興味もなかったからだ。
……でも、もうそんなことは絶対に言えない。
彼女のため、と言うと恩着せがましいけれど、困っている時に力になるためにも知識は必要だろう。
PCに手を伸ばし、電源を入れる。
立ち上がったパソコンで簡単に検索した。
「……」
表示されたサイトを開き、情報を探す。
最初に開いたそのサイトには、どうやら獣人の種類ごとに様々な情報が書かれているようだった。
犬獣人に猫獣人、それに彼女と同じ羊獣人。
それぞれの獣人の人間との違いと、特有の習性が載せられている。
羊獣人は……。
羊の絵の下に記載されている情報に目を通していく。
特徴は目や髪など色々あったけれど、その中で一番大きく取り上げられているのは、角についての情報だった。
どうやら、羊の獣人の最も大きな特徴はその大きな角であるらしい。
大きく、形が複雑で、凹凸も多い。
そして、数ある角持ちの獣人種の中で、その角は最も敏感なのだと書いてあった。
特に敏感な根元は、汚れなどから違和感を感じると、それをかゆみとして認識してしまうらしい。
掃除が大変で、羊の獣人のほとんどが角に関連する悩みを抱えているようだ。
それは、先程彼女が言っていたことでもある。
「これは本当に大変だ……」
思っていたよりも遥かに大変そうで驚く。
書かれている過去の事例では、痒みが酷くて不眠症になってしまった人や、耐えられなくなって角を切断してしまった人もいるらしい。
そして、角を切断した人は今も幻肢痛ならぬ幻角痛に悩んでいるそうだ。
「彼女がそうならないようにしないと」
何かそれを防ぐ方法はないかとページの中を細かく確認する。
結論を言うと、その中に書いてあったのは、痒みが酷いようなら医者に連れて行けということだった。
「なるほど……まあ、そうか」
確かに、素人が適当な事をするよりプロに任せたほうがいいだろう。
もっともな言葉に納得し、ページを閉じようとする。
「……ん?」
その寸前、一つの広告が目に入った。
『最高級ブラシ!!
羊の獣人の方におススメ!これで痒みも完全解消!!』
「……」
商売上手だな、と思った。
◆
ブラシの注文を終わらせ、立ち上がる。
少し高かったけれど、あれだけ世話になっているのだ。これくらいはいいだろう。
彼女の使っていたあれは、どう見ても歯ブラシだった。
そんなものをいつまでも使っていたら、きっと角にも良くないだろうし。
「……さて、もう寝るか」
布団に入って目を閉じる。
ブラシが届くのは明日だ。彼女も喜んでくれるといいんだけど。
◆
「……………………?」
ふと、目が覚めた。
辺りはまだ真っ暗で、深夜だろうと言う事がわかる。
なぜこんな時間に目を覚ましたのだろうと首をかしげ――
――気づいた。
ゴリ、ゴリ、と言う何かを削るような音。
それが隣の、彼女の部屋の方から聞こえてくる。
「……?」
何かしているのだろうか。少し気になる。
でも、詮索するのもあまりよくないだろうともう一度ベッドに横になった。
と、そこで音が止まる。
どうやら終わったらしい。僕も目を閉じた。
「……」
キンコン。
「……ん?」
扉からチャイムの音。
キンコン。
もう一度。
聞き間違いじゃない。
ベッドから起き出して、扉へと向かった。
扉を開ける。
「……こんな夜遅くに、ごめんなさい
……その、私」
扉の先には、彼女が泣きそうな顔で立っていた。




