冬至に昇る朝日
「きれい、ね」
五十鈴川にかかる宇治橋のちょうど真上にある太陽を見上げ、女は呟いた。
他にも参拝客は多くいたが、隣の女の言葉を聞き逃さなかった男は、無言で女の手をにぎりしめた。
一ヶ月前、冬至の日の出を二人で一緒に見たいと、女は甘く男に強請った。
「来て良かった」
「うん」
この1か月の間で色々あった。
別れも覚悟した。
「また観に来よう」
「次は夏至がいいな」
夏至には近くの二見興玉神社から朝日が昇りここから月が昇るらしいと、旅館の当主が昨日教えてくれた。
「それまでに、用意する」
何もつけていない彼女の左手の薬指をそっとなぞる。
「そういうのって、サプライズするものじゃないの?」
そう言って彼女はケラケラ笑った。
「好みとか希望、あるだろう?」
「あるけど……
そんなに高いモノじゃなくていい」
結納して、籍入れて、結婚式して。
大体これぐらい、と、試算した金額は今まで貯めた貯金と同額だった。
「一生つけるモノだろう?」
「ムリは、しないで?」
「見栄は、はらせて?」
すぐ遠慮する彼女。
お金はいざって言うときあった方が安心、そう言って、結婚式のプランもスゴくシンプルなものになりそうだった。
まぁ、オレも本音を言えばシンプルな方がありがたいけど。
それでも、一生に1回のことだ。
もっと見栄をはれば良かった、なんていう後悔はしたくない。
「ありがとう」
愛おしい、と思う。
「お詣りしよう」
そう言って二人で宇治橋を渡った。