01-001.(仮)◆異世界へ、村に。
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◆異世界へ、村に。
■ここには各部の要約を書くことに。
・現実世界で黒トラに誘われ、異世界へ。そこはゲーム調の見栄えの世界だった。
・暴漢に襲われている女剣士を見かけたり、スライムを拾ったりながら、ココカラ村につく。
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■異世界に運ぶ黒トラ
私は、もっと楽な世界に生きたかった。そう思い、家を飛び出し、あてもなく車を走らせた。
人里から遠く離れ、狭い小道を走っていた。しかし、その道幅がだんだん狭く、そしてねじれ始めた。
車が道にはまる。前進も後退もない。にっちもさっちも動かせない。
私は、車載電話で助けを求めようとした。だが、そんなものはなかった。
いくら探しても、あるはずのものが、なかった。
車載電話を取り付けた記憶は、夢だったろうか。
携帯電話もスマートフォンも、持ってはいない。車載電話があるつもりだったからだ。
私は、仕方なく、徒歩で、わけの分からない道を歩いていった。
そろそろ辺りは暮色がかかっていた。
*
あれから、どれほど歩いたろう――
すでに夜道となった。おぼろげな視界の中、とぼとぼ、歩く。
そこに一匹のトラ。トラだ。真っ黒い、トラがいる。
――いいや、実のところ、暗くて、トラかどうかは判然としなかった。だが、その曖昧ながら、ハッとさせてくれる姿に、ただただ「トラだ!」、そう感じた。
最期は、トラに食われて死ぬのかもしれない。そんな最期は思いもしなかった。
私は、ぼんやりとする意識の中で、恐怖心が、「ぬるく」なってきた。なんというか、「感覚が麻痺した」ということに近いのだろうか。
私がトラに、真正面から、ジリジリと近づくと、トラも、穏やかに、こちらへ近づき、頭をもたげた。
格好いいな可愛いな、触ってよいか?
「キュグゥゥゥワ」
私はトラの首元を抱きしめた。そしてトラはうまい具合に身体を閃かせて、私を、背中の上に回した。
今、私は、見知らぬ黒トラの背中で、穏やかにリラックスしている。トラはどこかへ向けて、のっしのっしと、歩を進めている。
夜が更けたこともあり、ウトウトしてきた。
私は、いつしか、トラの背中に、寝た。
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■ここは素晴らしき新世界
長い眠りから覚めたかのようだ。
私は気づくと、色彩豊かな、『森』にいた。
そこでは、すべてが違っていた。
とても、ファンタジーだった。
とても、ゲーム的だった。あるいは、アニメ的、マンガ的だった。
なにしろ、目に映る景色はすべて、朗らかなアニメ調というか、ゲーム調というか、そういう爽やか、かつ新鮮な視界だったからだ。
それは生物、すなわち自らの姿形も、例外ではない。
私の見た目もまた、マンガで描かれるような、……ハッキリ申せば『美化』されている姿だった。(ま、それはあくまで、現実世界と比べて、ということだが)
水たまりに自分の姿が映る。
かつて、格好良くも悪くもない平々凡々なオジサンは、ここにきて、やや渋めに美化された、おじ様になった。それが私だ。
……多分、夢かな。夢を見ているのかな、まだ。
だが、それは考えづらい。
なぜなら私の見る夢はいつも、悪夢だったからだ。
そして、今見る景色とは真逆の、モノクロ、低コントラストな夢。
私はいつも、夢の中では、いつも陰惨な気持ちだった。その夢の内容が、残酷だったからではない。ただ、その夢の中にいるだけで、残酷な、息の詰まる、生きていないような……そういう心持ちだった。
まるで、現実以上に現実的なものを、濃縮したかのような……、よろしくない夢ばかり、睡眠中は見ていた。
それに比べて、今いるこの世界は、素敵だ。素晴らしすぎる。
(ま、まだこの世界について、てんで何も知らないのだけれど)
それでも! 美しい!
*
美術館の鑑賞を終えた気分になって、ようやく、
「え、そういえば、これは現実なのか……?」
我に返った。
私の言葉は、意味がない。
現実でないことは、明らかだ。
あるいは、「今までいた世界ではない」、といったところだ。
なぜ現実ではないと決めつけるのか? それは、そもそも、目に映る木々も地面も空も、自分も、その造形がアニメ調・マンガ調なのだから。
(そんなことは、見れば分かることだ。だが……、だが、……、それを、すぐに受け入れるだけの器が、私には、ない。理解を超えているのだ)
(……そ、そうだ。そういえば、トラだ! 黒トラはどこへいった?)
私は、トラのことを考える代わりに、この世界について考えることを放棄した。
*
(もしかすると……、黒トラの背中にいた記憶さえ、夢だったのかな)
どこまでが幻で、どこまでが現実が、もはや自信がない。
そもそも、今は、現実と言っていいのだろうか……?
――また、考えが袋小路を行っている。もう考えることはよそう。
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◆誰かと誰かが立ち回り
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■誰かと誰かが立ち回り
景色を堪能しながら、森を散歩した。
これからのことは考えない。気楽に行こう。
そうしていると、向こうの方から、何やら口論らしきものが聞こえてきた。
目を凝らして見てみると、いかつい男が5人、女が1人いた。
互いに刀剣の類を構えている。危なっかしいもんだ。
そして男衆と、女1人が、敵対関係に見える。
彼ら彼女らが武器を携帯していることから見て、この地方は治安がよろしくないのだろうか? と察した。
*
(そういえば、こういう感じの展開、どこかで見たことあるな……)
ゲームだったろうか。いや、違う。そうだ、ネット小説か。
数年ほど前からだったが、小説の1ジャンルとして、異世界転生モノ(あるいは異世界転移モノ)が流行りだした。
私もまた、夢中になって読み漁った時期があった。
そして、その手の小説では、暴漢に襲われる女の子ヒロインを助け出すのが、習わしような面も、あったかな……
私は、かつて見た小説のワンシーンを、現状と重ねたのだった。
しかし、私は、その手の主人公にはなれなかった。
殺し合いは、怖い。そして、他人同士の殺し合いなら、なおさら、関わる気は、ない。
私は、その人達と関わりにならないよう、別方向に進んだ。
遠くで、刃と刃がガキンガキンぶつかり合う音を聞きながら。
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◆生きているスライム
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森を下って歩いていくと、段々と木々は少なくなり、そして、原っぱに出た。
原っぱだ。見渡しの良い、原っぱ。
遠くまで見える。なにやら、青いブヨブヨとした『ビックこんにゃく玉』とでも言い表せば良いのか、そういうものが、いくつかいた。そして、それは生きているようだった。
(未確認生物……つまり、UMAとかいう類になるか? しかし、こんなにいっぱい……)
(いや、もしや……、これが、かの有名な……、『スライム』? というやつか?)
おそらくそうだ。『ビックこんにゃく玉』は『スライム』のことだったのだろう。
スライムは、昔、理科の実験だったかで、作ったことがある。ただ、あれは生きていないスライムだった。
でも、向こうにいるスライムらしきものは、生きているとしか思えないような動きをしている。
あれは……どういう仕組なんだろう。
(せっかくだから、もっとじっくり観察したいな)
幸いにして、スライムの外観は、可愛らしいくデフォルメ|(程よく変形)されている。
可愛らしいものに、目がない。私は、ホイホイ、近づいてしまった。
すると! スライムは、タックルしてきた!
私は弾かれ、地面に倒れる。
「おお、おお……! 元気だな」
私は立ち上がり、諦めずに、スライムを観察する。凝視する。
スライムも、こちらの様子を伺っているようだ。
「さあ、受け止めるから、飛びかかれ」
今度のスライムの攻撃は、ジャンピング・ボディアタックだ。
それを私は、弾力ありながら柔らかに抱きとめ、離さない。
「オーヨシヨシ。面白いヤツだ、なぁ」
私は、スライムの気が済むまで、撫で回した。マッサージした。少しずつだが、コリがほぐされているような手応えがあった。
*
いつまで、そうしていただろう。
気がつけば、スライムはリラックスして、静かになった。
周囲には、別のスライムたちが、こちらを取り囲み、眺めている。
私が立ち上がると、周囲のスライムたちは、ピョンピョンと、先導してくれた。
どこへ誘うのか分からないが、そもそも、ここがどこなのかも分からない自分は、適当についていった。
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◆ココカラ村
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スライムたちの行く手に現れたのは、小さな集落だった。
人間が、いるようだ。村と呼べば良いのかもしれない。
粗末な武装をした人間が現れ出て、いきなり、スライムたちとの交戦状態になった。
人間たちは、果敢にも、スライムをクワで襲う。
「ストーップ! ストォーー!!」
私は制止させる。が、効果はなかった。
人間たちは、私の抱きかかえたスライム一匹を除き、全て殺してしまった。
(殺してどうするのか? もしかして、これは食べられるのか?)
私はスライムが、お菓子のように見えなくもないことに気づいた。
1人の人間が私に近づき、問いただしてくる。
「いったい、何のつもりだ?」
少々怒っていらっしゃる。なので、穏やかに聞き返した。
「ここは……、どこだろうか?」
「質問しているのはこっちだ。まず答えろ。いったい、お前は、ここで何をしている?」
「何を、って……? 私はスライムについてきただけでね。ここいらに人里はー、ここだけか?」
「はぐらかすな。その胸にあるスライムは、いったい何だ? お前のペットか?」
「ペット? ああー……、ペットにできたら、そりゃ、いいな」
「このスライムたちは、お前に従属しているのか?」
「ジュウゾク? ジュウゾクって? どういう意味かな」
相手はため息をついた。
「このスライムは、お前の命令を聞くのか?」
「いや、そうでもないが。だって出会ったばかりだものな」
「出会ったばかり? ウソをつくのも下手だな。野生の魔物が、安々と懐くわけ、ないだろう」
「ん? ああ、この子か。このスライムは、ギュッと抱きしめて、なで続けたら、気持ちよさそうに寝たんだ。何しろ、スライムを見るのは初めてだったからな、ワクワクしちゃって。にしても、これは『スライム』、で間違いなかったんだな、なるなる」
私たちが、押し問答をしていると、別の人が会話に参加した。
「とりあえず、まぁ、入れてやんなさいな。悪い人には見えね」
その一言のおかげで、私は、その集落の中に入れた。
「ようこそ、旅のもの。何も知らないようだから言うが、ここは『ココカラ村』という、ちっちゃな村だ」
「あー、ココカラ~」
(ココカラ~伝染るんです♪)
聞いたことがある、ような気がしただけで、知らない村だった。
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