姫様と獣王様の答え
「どうせ…うん、開けっ放しだ。ただいまー親父居るー?」
訪問鈴があったのですが、イールフさんは鍵が開いてるのを確認するとそのまま入ってしまいました。
私達はドアの前で待っているとイールフさんが戻ってきました。
「親父が入ってきてくれってさ」
そういって奥へと行ってしまいましたので、私達も後を追いかけました。そうしてイールフさんについていった先では、ライネン様がテオ様と一緒にテーブルに座っていました。縦長のテーブルの一番奥、私達が入ってきた扉の正面に座っていたライネン様は私達が入ると立ち上がり歓迎の意を示してくれました。
「おぉレイラ!顔を会わせるのは久しぶりだな!出来ればこっちから会いに行きたかったんだが、これでも忙しくてな!それで…そっちの嬢ちゃんがルージェちゃんか!初めましてだな!俺が獣王ライネンだ!」
姫様はライネン様が挨拶をすると前に出て会釈をしました。本来は私が後ろに控えるべきなのですが、力こそ至上を掲げる獣人ですので、奇襲を警戒して私が前を歩いておりました。
「初めましてライネン様。ヴァンプロード家ラルクの娘、ルージェと申します。この度は急なお願いにも関わらずお時間をいただき、ありがとうございます」
「そんな堅苦しい挨拶は俺にはいらねぇけどな…ふむ、レイラ、ちょっと嬢ちゃん弱すぎじゃないか?」
姫様が挨拶をしていると言うのに堅苦しいですました上に姫様が弱い!?確かにライネン様や私に比べれば大体の者は弱いに分類されるでしょう。これでも姫様は領内であれば十分通用する強さはお持ちです。
「当主になりたいんだってな?それなら今言っとくぜ?当主、しかも5大家長になるならその程度の実力じゃ無理だ。なれない訳じゃねぇ…ただな…死ぬぜ?」
「姫様はそんなに弱くありません!それにいざとなれば私が出ますので」
「レイラ。今は俺と嬢ちゃんが話してるんだ。これは当主、ひいては5大家長としての話だ。今はお前が口出しするときじゃねぇよ」
いつもの私に求婚するときのような部分の一切無い言い方。これがライネン様の家長としての顔なのでしょう。
「いつだってレイラが側に付いていれるわけでもない。それこそ代表戦争にでもなれば何が起こるかわかりゃしねぇ。ラルクの野郎だって俺が生きてる間に先にくたばるなんて思いもしなかったぜ」
だから強さだ。そう仰るライネン様の言葉にも一理あるのでしょう。獣人は生まれからして独特でしたし、強くなければ死んでしまうような状況が長かったですから。それも昔の話で、今は有事ではありませんのでもう少し変わってもいいとも思うのですけれど、ね。
「まぁ俺にしては珍しく説教染みた言い方になっちまったが…言えることは1つだ。やる気があるなら俺んとこで修行つけてやるよ」
姫様はライネン様がしゃべっている間ずっと無言でした。その表情も平静を貫いており、私の方がよっぽど熱くなってしまっていたようです。ライネン様の修行の言葉のあと、しばらくうつむいていた姫様でしたが、その上げたお顔には決意がこもっておりました。
「お願いするわ。強さだけでどうにかなるとは思えないけど、いつまでも守られてるわけにはいかないものね。当主になったら私は守られる側でなく守る側になるのだから」
姫様…!なんと立派な決意を…姫様がそう仰るのであればこのレイラ、姫様をきっちりしっかりと最強クラスまで育て上げましょうとも!
「そうか!んじゃ嬢ちゃんの修行には…イールフ。お前が見てやれ」
なぜイールフさんにそれを頼むのでしょう!?ここに適任が居るではありませんか!私の視線に気付いたライネン様は笑っています。あぁ、何か嫌な予感が…
「それで嬢ちゃんの修行の間は…レイラ!俺と決闘だ!俺が勝ったら結婚だからな!」
やはり…!私は予想通りの展開に頭を悩ませることになりましたが、それ以外の人物には予想外の出来事だったようで、姫様、イールフさん、それに未だに一言もしゃべっていない、テオ様もこちらを驚きの表情でみてきました。
「なんでレイラにライネン様が決闘を申し込んでるのよ!?しかも結婚って!?どういう関係なの!?」
「親父が結婚しないのはある人に勝つためって…それがレイラさんだったのか!?」
「やっぱりレイラさんってただ者じゃ無いんだよね…」
そんな反応を示すお三方に私は否定を大にして叫ぶのでした。
「私は結婚するつもりはありませんから!以前のように完膚なきまでに叩き伏せて差し上げます!」
結局ライネン様に会うと決闘は避けられないようです…この脳筋は本当に…!