姫様と獣王領への旅 ヴァンプロード領内
ヴァンプロード領内の旅路はとてもスムーズに進みました。元々普段から影蜘蛛隊が巡回しているので、魔獣などもほとんど居ませんし、たまに出てきてもすぐに糸でぐるぐる巻きにされていました。姫様の近くですので凄惨にならないよう注意はしているようですが、本来ならその場で牙を突き立て体液を啜ると言う光景になっているはずですので、何も言わないでおきましょう。
最初は影蜘蛛隊が付いてくることは、正直好ましく思っていなかったのですが、ジャンが御者をつとめてくれましたので、私は姫様と馬車内で一緒に過ごすことが出来たので幸せです。元々私が御者もやる予定でしたので、露払いも気にしないで姫様と過ごせると言うのは降ってわいた幸運と言えるでしょう。
「レイラ、この獣人の特性って書いてあるのは本当なの?」
「はい、こちらに記載されているここの、こういう理由でこうなったと言われていますね」
馬車の中には姫様の着替えや食料などを多めに積んであるので、私は姫様と隣同士で座っています。そこで姫様の勉強を顔を近付けて教えることが出来る…あぁ!幸せです!
1日目はヴァンプロード領内の村で夜を明かしましたので問題はなかったのですが、2日目は獣王領付近にまで進んだこともあり、近場に村がなかったので姫様には馬車の中で寝ていただくことになりました。二人で寝るほどのスペースはありませんので、私は影蜘蛛達と夜番をしています。
「お前は本当に姫様と居るだけで幸せそうだな。前は無愛想の化身みたいだったのに」
そう言いながらジャンがやってきました。
「それはもう、姫様こそが私の生き甲斐ですから」
だからこそラルク様も姫様の侍従に私を付けたのでしょうから。
「昔のお前を姫様に見せてやりたいよ。今でこそ人間の写真なんて技術もあるらしいけど、当時じゃ考えもしなかったからな」
あの頃の私…姫様にお見せしたくはありませんね。当時に写真がなくて本当に良かったと思います。
「あまり騒がないで下さいよ?姫様が起きられたら貴方と言えど、半殺しまでは覚悟してくださいね?きっちりと半分逝かせていただきますから」
昔の話をされたので脅しの意味も込めて睨むと、ジャンは両手を肩ほどまで上げて去って行きました。
私も多少は睡眠を取っておかなければ…明日の昼過ぎには獣王領に入るでしょうから。