4. 真相
プルルルル……。
電話が鳴った。
聞き慣れない音だったから、私は一瞬、それが電話の音だと分からず戸惑った。
そう!
ついに家の電話を変えたの。
両親が旅行から帰るなり、私は不審な電話が続いたことを訴え、お母さんを連れて電気屋へ駆け込んだ。
そして、黒電話からかなり時代を飛び越して、FAX付き、ナンバー・ディスプレイ対応の機種を買ってもらったのだ。
黒電話にはかなり愛着があったから、正直結構寂しい。
でも、これで番号非通知の電話には出なくて済むし、不審電話は着信拒否もできる。
不審電話どんと来いだ!
……いや、まあ来ないなら来ないでいいんだけど……。
はたして、今回の電話は……、あれ、ケータイの番号だ。
誰からだろう、と思いながらグレーの受話器を上げる。
「はい」
「ああ、さっきはごめんねぇ」
何の前置きもなく、年配のご婦人の声で言われた。
「え? さっき?」
私は、だいぶ前から家でだらだらしていた。
ということは……、またまた間違い電話なの?
「あら? さっちゃん……じゃあないみたいね。ごめんなさい。間違えました」
プツッ。ツー、ツー……。
電話はあっさりと切れた。
もしかして……。
私はある予感がして受話器を戻し、自分のケータイのアドレス帳で電話番号検索をかけてみた。
すると案の定、登録があった。
つまり、今の電話はこいつからだったのか……。
私は、ケータイの画面に表示された「沢田史子」の文字を見つめた。
フミこと史子は、私が高校時代に仲の良かった友人だ。
声真似が得意で、学生時代から、教師や芸能人のモノマネをしたり、犬猫やハトの鳴き声を真似たりなんかもよくしていた。
卒業前から声優養成所に通い始めていたが、つい先日同窓会で顔を合わせた時、ようやくデビューが決まったと言っていた。
今までの妙な電話は、全部フミの悪戯だった、ということなのだろうか。
しかし一体何のために……。
私はそのままフミにケータイで電話をかけた。
「あ、もしもし?」
電話から聞こえてきたのは、いつものフミの声だ。
「もしもしフミ? さっきの電話、何なの?」
「ああ、ついにバレたか。どうして分かったの?」
フミはすぐに自分の罪を認めた。
でも、大して悪いと思ってないみたいな言い方に、私はカチンときた。
「電話に番号が表示されたから」
不愛想に言うと、
「あれ? 美保んち、まだ黒電話だって言ってたよね」
と聞き返された。
ああ、さては、だから私を悪戯の標的に選んだんだな。
「あんまり変な電話が続くから、買い替えてもらったんだよ!」
思わず叫ぶと、
「え!? あたしのせい? ごめん……」
フミの声が急にしょぼんとした。
「……まあ、いいけど。新しい電話、悔しいけど便利だし」
相手が弱気になると、かえって強気に出られなくなる私なのである。
「そう? 本当にごめんね。ちょっとしたイタズラのつもりだったんだけど……。ほら、美保、ご両親が旅行でしばらくいなくなるって、この前言ってたでしょ。その時なら絶対美保が電話に出るし、あたしだって気付くか試してみようかと思って。きっと最初の電話で気付かれるかなーと思ってたの」
「ああ、あの告白は傑作だったね! でも全っ然、気付かなかった。男にしか思えなかったわー」
電話越しだったせいもあるかもしれないが、緊張で少し上擦る男性の声だとしか思わなかった。
誘拐の電話のときなんかは特に、かなりドスのきいた男の声だったし。
「本当? 成人男性の声はさすがに無理があるかと思ったけど、電話だったからかな」
「いわ、ホント、声優まじ凄いね。というかフミ凄いね」
「えへへー。いやー、次の日も確認のために電話したけど、美保があたしだって気付いた様子が全然ないから、いっそバレるまで続けてみようかと……悪ノリしました。すみません」
電話の前でうなだれるフミの姿が見えたような気がした。
「いやしかし、声じゃなくて番号でバレるとは……。喜んでいいんだか何だか。もしアレだったら電話の代金弁償するからね。遠慮せずに言ってね」
「いいよいいよ。まだ使えるものを捨てるのって結構勇気がいるから、いいきっかけだったよ」
「そう? そう言ってもらえると、ちょっと気が楽になるけど」
そこから、私達は雑談に入った。
フミが初めてもらった仕事についてや、私に恋人ができない話(だって出会いがないんだもん!)なんかをして、そろそろ切ろうかという頃に、私は言った。
「でも、フミが悪戯電話の犯人だってこと、親には言わないでおくね」
「別に言ってもいいよ」
「いや、でもさすがに言いづらいもん。うっかり警察に通報しちゃうところだったよ。あれはいくらなんでも酷いよ」
「え、そんなに酷かった? でもお金までは要求してないし、詐欺ではなかったでしょ?」
「え? お金要求したじゃん。なんか半端な金額……」
「……え?」
どうも話が食い違っている。
嫌な予感がして、私は確認のためこう言った。
「詐欺じゃなくて、脅迫電話の方だよ。娘を誘拐したとか……」
「え? 誘拐? 何それ」
フミは、何のことか全然分からないようだった。
「……え?」
ここでフミが嘘をつく理由はない。
ということは、あの電話は……。
ど、どうしよう……。
最後まで読んでいただきありがとうございました。