2. 脅迫
ジリリリ……ン。
私の心地よい眠りを妨げたのは、黒電話のけたたましい叫びだった。
また電話だ。
あの男の人は結局「長谷川さん」に電話が通じたのかな? とか、まだぼんやりする頭で考えながら受話器を取る。
「――はい」
「お前の娘は誘拐した」
……は?
「返してほしくば九十九万円用意しろ」
は、半端やなぁ……。
じゃなくて。
私の「娘」って、ダレ?
一応言っておくと、私に子供はいない。
ついでに言うならダンナも、彼氏すらいない(ううう……。泣)。
つまり。
どういうことかというと……。
……まさかまた、間違い電話……?
この電話機、呪われてるんじゃ……。
いや、それともこの相手、ランダムな番号にかけてるのかも。
九十九万円ならちょっと安いし、娘を持ってる親は、娘の姿が見えなければ思わず払っちゃうこともないとはいえない。
……でも、その中の誰かが警察に通報したりすると大変なことになるんじゃないかな。
「念のため言っておくが、警察に通報したりすれば、娘の命は無いぞ」
……だから……。
「あの、私に娘なんていませんけど」
「…………」
ガチャ。
無言のまま、電話は切れた。
……なんだったんだろ?
とにかくこれで、やっと安らかな眠りの時間が戻ってきた。
受話器を置いた途端に「通報」の二文字は私の脳から消え去り、私は温かい布団の中へと帰っていった。