1. 告白は突然に
ジリリリ……ン。
電話って、どうしていつもこう突然かかってくるんだろう?
まあもっとも、ベルが鳴る前に、
「鳴りますよ」
なんて予告があったりしたら不気味だけど。
でも、なにも着替えの最中にかけてくることないじゃない!
とはいえ、相手には私が見えないんだからしょうがない(というより、見られてたらすごく困る)。
両親が旅行に出かけているため、今は家に私しかいない。
私は仕方なく、半分脱ぎかけていた洋服を着直して(だって、脱いだままだと寒いでしょ?)、黒電話の受話器を取った。
あっ、黒電話って知ってる? ダイヤル式で、本体も受話器もコードもみんな真っ黒な古い電話のこと。FAXも留守電もできないんだよ!
……え、ダイヤル式が分からない? えっと……。電話番号を押す代わりに、回して電話をかけるんだよ。「0」を回すときは距離が一番長くて大変なの。
多分、今となってはマイナーな黒電話。だけど、私は結構気に入ってる。
ああ、そんなこと言ってる場合じゃなかった。問題は電話そのものじゃなくて、話の内容!
私は受話器を取って、
「はい」
とだけ言った。
小さい頃は、
「はい、毛利です。」
って名乗ってたんだけど、最近物騒だし、やたらと個人情報を明かさないほうがいいと思って、いつからかそうしてる。
「毛利」っていうのは私の名前ね。毛利美保……ってああ、また話が横道にそれてる。
「あの、昨日のことなんですけど」
電話の相手は、そう言った。私が全く知らない男の声で。
昨日のことって……?
私がそう問い返すよりも早く。
「昨日は楽しかったです! それであの、返事を聞かせてください! 僕はあなたが好きです。昨日あの橋でした告白に、あなたは答えてくれなかった。でも! 僕は本当に……」
男は一息にそこまで言って、ゼーゼーハーハーしていた。彼の緊張が、聞いているこちらにまでつたわってくる。でも私は、他にどうしようもなく、
「あの……、失礼ですがどちら様でしょうか?」
と訊いた。
「え? あ……。長谷川さん、ですよね……?」
「いいえ」
本当のことだったので、私は無情にもきっぱりとそう答えた。
……ていうか、番号くらい確認してから電話かけなよ……。
で、最初に相手の名前、ちゃんと確認しなきゃ。
「し、失礼しました!」
がしゃん、と電話が切れた。
ツー、ツーという音を聞きながら、もしかしたら、その「長谷川さん」が嘘の電話番号を教えたのかもしれないと私は思った。
今時、ケータイじゃなく固定電話の番号を教えている時点で、かなり怪しい。
つまり今の男は、そうやって遠回しに振られたのかもしれない……。
私は、名前も知らないその男が哀れで、着替えを中断させられた怒りも忘れてしまった。