母と息子と観葉植物と……
「無事でなにより」
スマートフォンから聞こえてきた一言が、少しだけほっと息つく時間をくれた。ただそれはわずか数秒だけで終わり、次の一言を聞いて急に腹が立ってきた。
電話口向こうの相手は、早口に告げた現状を軽く受け流し、いつも通りのほがらかな笑い声をあげているだけである。
言ったことが聞こえないのか、理解していないのか、このまま通話終了を押したくなる。
俺と電話の相手は、母親と息子、という二者の血縁関係であるのだが、常に日本で暮らす側である俺には、母のいる向こう側がどこなのか全く見当がつかない。
だが、国内だろうが、海外だろうが、こちらの言いたいことはすでに伝えた。朝登校前の慌ただしい時間に今、目の前の状況を告げて、帰らないから、という即答はなんなんだと。
切羽詰まった声が聞きたかったわけではないが、明るい声を聞きたいわけでもない。高校生とはいえまだ未成年である自分の子どもが、地面に飛散するガラス片に踏みつけられ、力なく横たわる草木を見た心情を母親は察してくれないようだ。
「あのさ……笑っている場合なのかよ?」
「あはは、一人息子の一樹君が無事ならそれで充分充分。それにたかが観葉植物が盗まれただけでしょ? 気にすることはなに一つないよ」
「たかがって。それ、今度お客さんに渡すからちゃんと世話しておいてって言ったのはどこの誰だよ?」
「北条花枝様だが、何か問題?」
「……もう切るぞ」