継承の儀
家を出た先はまるでト○ロの森のように空気が澄んでいるような気がした。いや、田舎育ちだから山とかあったけど。まるで神社にでもいるような感じがする。
「ふふ、ここは気持ちいいよね!」
「ですね。とても清々しい気分になります」
答えてからフィルの方を向くと、彼の後ろに大きな木があった。その存在感は大きく、フィルより、そちらに気を取られそうだった。
「驚くよね、この木が神木さん!えっと、たしか世界樹とか、いろんな呼び方あったけど、僕は呼びやすいから神木さんって呼んでるよ。ユズキ...あ、先代ね?彼はゴシンボク?って呼んでたよ」
「は、はぁ。では俺は御神木と呼ばせていただこうかな、それで、俺はこれからどうしたらいいんですか?」
すると彼は少し考えるそぶりをしてから俺に向き直った。
「僕の時は神木さんに抱きついて、『先代のユズキ・フォレス後を継ぐフィル・フォレスです。神の代わりにこの世界を見守ります。御加護をお与えください。』だったかな?んー、200年も前のことだからなぁ、ともかくこんな感じだよ」
だ、抱きつく?まぁ、セリフはどこかでありそうだよなぁ、神社とかで。まぁ、神社はもっと奉りてとか使う気がするけど。
「は、はぁ。とりあえずやってみますね...って、なんか引き受けるようになってますがこれ断れないんですか?」
「ん?あ、うん!これを断ったら君はずっとここにいなきゃいけなくなるし、魔法とかも使えないんだよ。それに神が怒ると何が起きるかわからないって、僕の時はユズキに世界が破滅して、お前も滅ぶぞって脅されたよ」
「...うわぁ、引き受けたら?」
「んー。長い間この世界にいないといけないけれど、新しい子が来たら引き継ぎをする。それが終わればもとの世界のもとの時代へ戻れるらしいよ!間違いをおかさなければ」
「ま、間違い?」
嫌な予感がしてならない。とても怖いんだけど。
「えっと、ユズキ風に言えば自分が契りを交わしてはいけないってこと、らしい。一応神に仕える仕事らしいから体を清らかに?しないといけないらしい。交わしてしまったらそこから体は普通に老いていくし、魔力は急速に衰えていくらしい。そしてもう元の世界に帰れない。書かれていた内容ではね」
...まぁ、元々こんなところで恋をしたり、ハーレム最高!みたいにしたりそんなことは考えたことないし。平凡に過ごしたいし。
そりゃ、普通に元の世界に帰ったら普通に好きな人と付き合って結婚して家庭を築きたいとは思うけど、それは元に戻ったらの話だ。
「わかりました。ちゃんと継承してそこんとこ気を付けます。フォレスって賢者に共通した名前ですか?」
フィルはうんうん、と頷いて話始めた。
「そう、僕らの共通の名字だよ。ここではそう名乗ってね。はい、好きなように思うがままに継承の儀を執り行って!」
まるで子供のように俺を見てそういった。うん、この人28歳なのに、子供のようだ。身長高いのに、顔も整ってるのに、中身は子供のようだ。
はぁ、とため息をつき、御神木の前まで来てから膝をつき、御神木に手を触れた。
「先代のフィル・フォレスの後を継ぎます。私はカゲツ・フォレス。神の代わりに次の代までこの世界を見守っていくことをここに誓います。どうか神の御加護をこの身に授けください。」
なにやら眩しい光に包まれ、目を閉じる。
すると、身体中に暖かなものが流れた。多分これが魔力?なのではないかと思い、そっと目を開けばもう光は消えていた。ただ、体に暖かな力がたしかにあることを感じた。
「...で、どうしてそんなキラキラした目で俺を見ているんですか」
フィルがものすごく、目を輝かせて腕を広げている。
いや、飛び込まないし。どうしてこうなった。
「すっごい!髪の毛と目が綺麗に染まってるよ!魔力も僕より大きいし!さすが日本人!眼鏡のせいで地味に見えてたけど顔がとても整ってるね!」
「うわぁ、地味に戻りたい、切実に」
顔が良いとか、整ってるってのは誉め言葉に聞こえるけど俺は全く逆である。いいじゃん平凡!芸能とかで輝く人ってさ、裏とかあるし、なくても趣味だとか友達とかでわいわい騒がれるじゃん?耐えられないわ、ほんと、にこにこしてる人を尊敬するよ。だから平凡!普通!それが一番が俺の信条になったのだ。
「さて、継承の儀も終わったしお家に入ろう。もうすぐ日も暮れてくるから。夜は書庫に案内するよ。そこで先代たちの文を読んでみて?あ、僕の話を聞きに来てくれてもいいんだよ!」
「わぁい、本嬉しいなぁ~」
「あからさまにひどいね!!」
そんなやり取りをしながら家に入った。色々あったけどなんとかやっていけそうだ。髪と目の色以外。