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回りを見回すが、俺、フィル、大きな竜、多分焔ちゃんがいるだけ。
風がさわさわと吹いているが、それ以外はなんともない、いつもの風景だ。
「この声、竜から?」
フィルの方を伺いながら聞くと彼はうん、とうなずいた。
「彼が僕のパートナーの焔ちゃん。大きいでしょ?焔ちゃん、彼が次の賢者だよ」
竜は俺の方に顔を近づけ、にこりと笑ったような気がした。
「よ、若造。賢者に選ばれるなんてお前もついてないなー」
「え、あ、ど、どうも?ついてないって?」
声に驚きつつ、なんとなくそうかなーと思っていたので質問をしてみる。すると彼は普通に答えてくれた。
「そりゃ、こんなわけのわからん世界に連れてこられてさ、気が狂うくらいの長い時間を普通とは違う存在として留まる。本当迷惑なことだと思わないか?」
確かに、なんの因果か知らない間にここに連れてこられて、断ることも許さず何年...いや、何百という長いときを過ごさないといけないなんて、拷問にも似たものだろう。
そう考えると、どうして俺が、と思えてきた。
最初から乗り気ではなかったけどね
「迷惑ですよ。やらないと帰れない、なんてはっきり言って脅しと同然。でも、帰れないなら仕方がない。頼もしい先輩に色々教えてもらっていますし、駄々をこねてもこの状況は変わりませんから」
これは経験といっても過言じゃない。嫌だ嫌だと言って立ち止まっていてもなにも変わらない。変わらなかったんだ。
「これは予想外だな。フィルより大人じゃねーか!まだガキなのにそこまで考えるとは、それに髪と眼を見ただけだがこいつは縛られるのが長いと見た。」
「あ、焔ちゃんもそう思う?彼のもとの国って日本らしいよ!ユズキと一緒!やっぱりすごい国だと思わない?あと、僕より大人ってどういうこと!?」
「あん?そのまんまだ」
「酷い!!でも混乱したっておかしくないじゃんか!急にこんなとこに来て契約とか継承とか説明もなしにやらされたんだよ!?友梨ちゃんにもずっと会えないって言われるしぃ!!」
「んなの俺が知るか!」
わいわいきゃいきゃいと言いあいをし始めた二人を見ているとなんだか、おかしくて。笑い顔見上げてきた。
「ふ、ふふっ、あははははっ、なんか、子供の喧嘩みたいっふふっ」
笑うと、二人はキョトンとした。その表情もまたおかしくって、笑いが止まらなかった。
「フィル、お前が変な顔してるからだぞ」
「焔ちゃんが変なこと言うからだよー!」
そんな二人を見て、また笑いがこぼれる。あぁ、楽しいな。
「まぁ、香月が笑うのなら、悪くないかな?」
「ま、お前は泣いてばかりだったからな。ニホンという国の住民は謙虚らしいからな、泣くのも笑うのも良いことだしな」
二人に気を使われてきたので笑いをなんとか殺そうとした。
「ふふっ。気を使わせてすみません。でもっ、二人ともなかよくって、ふっ、兄弟みたいだなって。あははっ」
が無理でした。だって、本当に楽しくって。
「あー、まぁ長い間一緒にいたらなぁ?」
「楽しいときもずっと一緒にいたからねー?来世でもよろしくね!」
「あぁ?まだ世話焼いてほしいのかよ」
「今度は僕が焼く番かもよ?」
「お前が世話を焼く?ありえねぇーな!」
「なにをぅ!?」
言葉通りだけなら喧嘩しているようにも聞こえるが、二人の表情は穏やかだ。多分気心知れているから、ならではのじゃれあいなのだろう。ほほえましいし、聞いてて面白い。
「ほれほれ、俺に構うのもいいが若造にちゃんと説明してやれ。どうせお前のことだ本名で呼んでるんだろう?俺たちがいなくなってからじゃ遅いぞ」
少し残念そうにしたフィルが仕方ないなぁと話始めた。俺からしたらなんの話だろう?と首をかしげていた。
「んとね、本名はわざと隠しているんだよ。ここは時空が歪んでいて他者、えーと、この世界の住人は入れないから今は関係ないけど、外じゃ呪いや魔法で溢れてるんだ。ほら、昨日も少し魔法やったでしょ?あんな感じのやつの応用。日本とかじゃよくない?陰陽師とかが名前を使って呪いをかけることあるらしいよね?あれを考えてくれると分かりやすいかな。僕も名前は色々あるんだよ?本名はフィオレット・ルーベンスって言うんだけど、長いからフィルかフィオのどちらかで呼ばれることが多いよ。あ、でも友梨ちゃんと結婚したら名字変わるかも」
えへへーっとわらってそういったフィル。顔がすごく緩んでますよ。しあわせそうで何よりだけど。
「偽名の方が良いってこと?でも、ここって日本名じゃへんなんだよね?」
「そうだね、多い名前はアメリカやイギリスっぽいやつだね。んー、香月、ルナ何てどう?」
「はい?なんでルナ!?まるで女みたいな名前じゃん」
よく、映画とかで女の人の名前であった気がする。そうじゃなくても女の子っぽいかわいい名前だよなルナって。
「月って意味なんだ。だからどうと思ったんだけどな」
少し恥ずかしそうに、でもはっきりといったフィル。焔ちゃんもいいんじゃね?と頷いている。
「まぁ、偽名だし、せっかくフィルがつけてくれたのなら、ありがたく使うけど」
目を会わせて言うのが恥ずかしいので、少しそっぽを向いていったら、彼らからなんか生暖かい視線を感じた。
鏡で自分を見なくても、顔が赤くなっているだろう。すっごく顔が熱い。あぁ、もう。恥ずかしくて穴に引きこもりたい気分だ。