第11話 あなたの秘密 1/6
火曜日から金曜日に渡り行われた一学期中間考査は終了した。
初日の数学試験以来、試験時間内、時間外に関わらずストレイヤーが出現することもなく、翔虎は試験に集中することができた、とは言えないかもしれない。
ストレイヤーが出現しなかったというのは結果であって、試験期間、翔虎は、「いつまたストレイヤーが出てくるか?」という緊張と戦いながら試験を受けていたはずだ。
「翔虎、よく頑張ったね」
最後日最終科目である現国の試験時間終了を告げるチャイムが鳴り、教室が開放感に満たされる中、直が翔虎に掛けたその言葉は、そういった労いも含めてのものだったに違いない。
「ありがとう、直」
そう答えた翔虎の表情には、明らかに安堵の色が見えた。
「ショウ、どうだった?」
「お前、テストが終わる度に同じこと訊いてくるな」
直の次に翔虎に声を掛けたのは弘樹だった。
「で、どうなんだよ?」
「現国なら、ばっちりだね」
翔虎は安堵に余裕を加えた表情で答えた。
「くそ、ショウは中学の時から国語の成績は悪くなかったもんな」
「はっきりと『よかった』って言えよ。何だよ『悪くなかった』って。そんなニュアンスの日本語を使いこなすくらいだから、現国はヒロも期待していいんだな?」
「……」
「おい!」
黙ってしまった弘樹に翔虎が突っ込みを入れる。
「ショウ、ヒロ」
二人に後ろから声を掛けたのは寺川だった。
「明日、暇?」
「お前な、試験後に暇じゃない高校生がどこにいるんだよ」
振り返って答えた弘樹は、すぐに横に向き直って、
「あ、ショウはいつでも暇だな」
「なにおう」
「部活も文芸部だろ。ただ本読んでるだけだろ?」
「何だよその偏見。決して暇ではないぞ」
「ショウは暇じゃないのか?」
寺川の声に翔虎は、
「用件によるな」
「明日さ、ジェイオン行かない?」
「南の?」
「そう」
〈ジェイオン〉とは、全国展開している大型スーパーで、翔虎たちの住む町にも数店舗展開している。
〈ジェイオン南店〉は、東都学園高校に一番近い店舗で、駅から学校までのバス路線の途中にあるため、放課後など東都学園生のたまり場ともなっている。休日に買い物に訪れる生徒も大勢いる。
翔虎も何度となく買い物したことのあるおなじみの店舗だった。
「何だ、買い物か?」
ジェイオン南店を訪れる目的を寺川に訊く翔虎。寺川の答えは、
「それもあるけどさ、峰岸葵が来るんだよ」
「え? 葵ちゃんが来るの?」
話題に食いついたのは弘樹だった。
「そう。もちろん歌うぜ」
「いいね。俺、葵ちゃんって生で見たことないんだよね」
「めちゃかわいいから」
「よし、ショウ、行くぞ」
弘樹は翔虎に顔を向けて言った。
「うん、別にいいけど」
「何だよ。そのテキトーな返事は。あー、ショウには南方先輩がいるからな」
「関係ないだろうが!」
峰岸葵。
翔虎たちの住む地域で主に活躍している、いわゆる〈御当地アイドル〉だ。
御当地アイドルながら、全国区のテレビ番組に出演したことも数回あり、リリースした最新CDが全国ランキング二十位以内に入ったことは、地元で結構な話題となった。
「何時から?」
弘樹の質問に寺川は、
「午後一時から二時までラジオの公開生放送で、その後トークと歌。三時か四時くらいに終わると思う。買い物もあるから、開店の十時集合でどうだ?」
「オーケーだ。ショウもいいか?」
「うん」
と、答えながら翔虎は直を見た。その視線を受けた直は、
「あ、私、明日はあけみと買い物だから」
「どこ行くの?」
「多分、翔虎と同じところ」
「じゃあ」
弘樹が会話に入り込み、
「一緒に葵ちゃん見ようぜ」
「遠慮します。そんなに暇じゃないですから」
直は言いながら帰り支度を整えると翔虎を見て、
「翔虎、私、あけみのとこ寄って行くから、部室に行くのは遅れるわ。南方先輩に伝えておいて」
「あ、僕、今日は帰るわ」
と、翔虎は力なく答えた。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「ちょっと疲れたから、早く寝る……」
そう言う翔虎の表情に疲労の色が追加された。
「そっか」
と、直も、改めて労いの表情を浮かべ、
「じゃあ、あけみのところ行く前に部室に寄っていく。じゃあね」
直は鞄を持って歩き出したが、教室のドアで振り返り、
「翔虎、早く寝るのよ。……葵ちゃんを見るために」
「そ、そんなのじゃないから!」
翔虎の声を最後まで聞かず、直は、ふふ、と笑って教室を出た。
「ショウ! お前、葵ちゃんのことを『そんなの』とは何だよ!」
「そうだそうだ」
弘樹と寺川の声が教室の雑踏に加わっていた。




