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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第10話 嵐を呼ぶ中間考査
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第10話 嵐を呼ぶ中間考査 4/5

「ここにいたのか!」


 翔虎(しょうこ)は小さく呟いて携帯電話を取りだしたが、


「ごめんね尾野辺(おのべ)くん」


 そこへ応接セットから新田(にった)が戻ってきた。


「あ、先生……」

「どうしたの、尾野辺くん?」


 翔虎の様子がおかしいと感じたのか、新田は翔虎の視線を追って自分も窓に目を向けた。


「え?」


 新田は絶句して、


「ちょ、ちょっと……」


 二、三歩後ずさりする。


「先生逃げて!」


 翔虎は新田と窓ガラスの前に立ちはだかった。すでに窓のすぐ外まで迫っていたストレイヤーは、右手の剣を振り上げて窓ガラスに叩きつけた。

 ガラスの割れる音と、新田の悲鳴が保険室内に響き、ストレイヤーは窓枠を乗り越え室内に侵入してきた。


「先生?」


 水野(みずの)も姿を見せたが、その光景を目にして、悲鳴こそ上げなかったが、新田と同じように絶句し、固まってしまった。


「先生!」


 翔虎は、悲鳴を上げた直後に気を失ってしまった新田の体を支えていた。

 ストレイヤーは値踏みするように、翔虎、気を失っている新田、立ち尽くす水野、を順に見回す。

 翔虎は、新田をベッドに寝かせると、


「うわぁー!」


 と悲鳴を上げて廊下に出た。


「……わざとらしかったかな?」


 ドアをきちんと閉めて廊下に出た翔虎は、そう呟きながら、隣の部屋に入った。

 保健室のある棟は理科室や視聴覚室などの特別使用教室が固まっており、試験中は無人となるため、先ほどのガラスが割れる音や新田の悲鳴を誰かが聞きつけるということはなかったようだ。

 廊下には誰の姿も見えなかった。

 翔虎が入った部屋は、使われていない空き部屋だったようだ。その部屋の窓を開けて外に出る。

 周囲を見回し、誰もいないことを確認すると携帯電話を操作する。地面と校舎の一部を材料としてえぐり取って、翔虎はディールナイトに変身。ヘルメットをフルフェイスに展開させながら、保健室へ走った。


「やめろ!」


 ストレイヤーが割り破った窓から保健室に躍り込んだ翔虎は、そう叫んだ。マスクを通して外に聞こえる声は加工されている。

 その声にストレイヤーは振り向いた。

 左手で水野の襟首を掴み、スリットが入った顔を近づけている最中だった。

 叫ぶや否や、翔虎は保健室に来る途中で錬換(れんかん)していた剣〈スペードシックス〉を振りかぶり飛びかかった。その刀身はストレイヤーの左腕肘部分に斬りつけられ、ストレイヤーの左前腕は水野の襟首を掴んだまま切断された。

 支えを失った水野が床に崩れ落ちる前に、翔虎はその体を受け止める。

 水野は気を失っていた。


 ストレイヤーの切断された肘から先はすぐに塵となって消えたが、足裏から保健室の床材料を吸い上げ、失った左腕をすぐに再生する。

 翔虎は水野の体を抱えたままベッドまで駆け寄った。

 一番手前のベッドには気を失った新田が寝かされたままだ。その隣のベッドに水野の体を横たえようとしたが、背後に迫る風切り音に翔虎は咄嗟に身を(ひるがえ)す。直後、細く鋭い剣先が翔虎のヘルメットのすぐ横をかすめた。

 翔虎は半ば投げ出すように水野をベッドに寝かせると振り返り、襲ってきた第二撃も、翔虎はほぼ紙一重で(かわ)した。


「来い」


 翔虎は間合いを取って剣を構える。

 ストレイヤーは水野から翔虎へと興味の対象を移したかのように、体と剣先を翔虎に向けた。

 ストレイヤーの突き、フェンシングのような構えから矢継ぎ早に繰り出される突きを、翔虎は剣でさばき続ける。


 突きを受け流して攻撃を斬り込むチャンスを得た。

 翔虎は両手に持った剣を大きく背後まで振りかぶったが、後ろに据えられていた棚のガラス扉に剣先が当たり、その動きは止められてしまった。

 ガラスと中にしまわれていたビンの割れる音が保健室に響いた。棚から数本のビンが飛び出て床に転がる。

 ストレイヤーは体勢を立て直して再び突きを繰り出した。


「くそ、狭い室内じゃ勝手が違うな……」


 そう言いながら攻撃を躱した翔虎の剣がベッドを仕切る衝立に当たり、乾いた音を立てた。

 翔虎は剣を両手に持ち直し、剣道のように正面に構え、


「狭い場所なら、斬るよりも突きのほうが有効か……リーチもこちらのほうがある」


 翔虎の言葉通り、ストレイヤーの細身の剣は、翔虎の〈スペードシックス〉の三分の二ほどの長さしかなかった。

 しかし、実際に狭い保健室で突き同士による戦いが始まっても、ストレイヤー有利の状況は変わらなかった。

 翔虎が両手で構えて剣を突き出すのに対して、ストレイヤーは片手で体を半身にして突きを繰り出してくる。腕の長さ分で剣自体のリーチの差はほとんど消されてしまっていた。

 加えて、ただでさえ細いストレイヤーの体は、半身にすることでさらに翔虎から見た投影面積を小さくし、狙いにくいことこの上ない。

 最後に差が付いたのは、攻撃の回数だった。軽くしなやかなストレイヤーの剣は、翔虎が一撃繰り出す時間で二手も三手も余計に突きを浴びせてくる。


「広い場所におびき出すか……」


 翔虎はそう呟いて、


「ストレイヤーがあの二人に興味を向けないうちに――」


 翔虎がベッドのほうに目をやると、横になっているのは新田ひとりだけだった。確かにそこに横たえたはずの隣のベッドに水野の体はなかった。


「え? どこ――」


 翔虎は保険室内を見回そうとした拍子に何かを踏みつけて転んでしまった。ストレイヤーの連続攻撃に押されて後ずさりしていたことも災いした。棚から落ちたビンが足元に転がっていたことに気が付かなかったのだ。


「わっ!」


 背中と後頭部を床にぶつけて、翔虎は仰向けに倒れてしまった。

 ストレイヤーは床に転がった翔虎に剣先を向けた。翔虎は盾を装備していない。一刻も早く保健室へ向かうために、〈スペードシックス〉のみ錬換して、まさに押っ取り刀で駆けつけたのだ。

 恐らく身を躱すだけの時間はない。翔虎は剣を目の前にかざして敵の突きを受けようとしたが、何かがぶつかる音とともに突然ストレイヤーの体勢が崩れた。


「君!」


 翔虎はストレイヤーの横に水野の姿を見つけて叫んだ。

 水野が椅子を頭上に振りかぶってストレイヤーの頭部に叩きつけたのだった。

 この機を逃さず、翔虎はヘッドスプリングで飛び起きると、強烈な前蹴りをストレイヤーに見舞った。

 敵の細身の体は蹴り飛ばされ背後の壁に激突した。

 走りよりながら、翔虎はタッチパネルにシャットダウンアタック発動を入力。壁から背中を引き剥がしたストレイヤーが剣を構えるより早く、光り輝く刀身をその胸に深々と突き刺した。

 保健室の床にはストレイヤーの残骸の塵がカーペットのように広がった。


 プログラムの回収を終えると翔虎は水野に向き直り、


「ありがとう。助かったよ」


 そう礼を言った。水野は少し笑みを見せると、その場にしゃがみ込んだ。


「大丈夫か?」


 翔虎は駆け寄ってその体を支える。

 水野は全身に汗をかいていた。汗で前髪が額に貼り付いた顔を水野はディールナイトのマスクに向けて、


「僕、体、弱くて、あんまり学校に来られないんだ……」

「じゃあ、ベッドに寝てろ」


 翔虎は水野を抱き上げ、ベッドに寝かせた。

 隣の新田はまだ気を失ったまま、寝息を立てて穏やかそうに眠っている。


「体、大事にしろよ――しなさい……」


 翔虎は、ディールナイトは女性であるということを今思い出したかのように、急に言葉遣いを変えて、割られた窓に向かったが、


「あ、待って……」


 水野の声に足を止めて振り向いた。


「あの……」


 赤い顔でディールナイトを見つめる水野は、荒い息を漏らしながら話しかける。


「どうし――ました?」


 翔虎はベッドの隣に足を運び屈み込んだ。


「あの……顔、見せてくれませんか……」

「……ごめんなさい。それはできない」


 水野の頼みに翔虎は首を横に振った。


「そう……ですか。じゃ、じゃあ……」


 水野は右手をゆっくりと上げて、


「握手……」


 翔虎はマスクの下でにっこりと微笑み、両手で水野の手をしっかりと握った。


「ありがとう……」

「もう寝なさい」

「はい……」


 水野は満足そうに微笑むと、目を閉じて寝息を立て始めた。

 翔虎は水野の体に毛布を掛け、音を立てないように窓から出て行った。

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