研究員の日記 四月二十六日(プロローグ 8/25)
研究員の日記 四月二十六日
翌日、研究所ほぼ全メンバーを集めた大規模な会議が開かれた。
人体の転送(本当に転送なのかはまだ不確定だが)が成功した以上、今後は当然転送先の調査が主な目的となる。
田中の証言により、向こうにも同じような装置があることが確認された。
問題なく作動するのであれば、向こうからこちらに人を転送させることも可能なはずだ。時間を決めてこちらから転送操作を行う必要はないことになる。
一度にひとりしか送ることができないため手間は掛かるが、複数の人員を送り込み調査を行うこともできる。
果たして送られた先はどこなのか。地球上の別の場所なのか?
田中の話では、呼吸はもちろん、体を動かすのにいつもと違った感覚はなかったという。であれば、大気も重力も地球と同じかそれに極めて近い場所であるはずだ。
気温は体感で摂氏二十度くらいだったという。裸では寒さを感じる気温だ。地球であれば、両極に近い位置や赤道直下などではないだろう。もっとも、地球以外の場所に転送されていると考えるのは、あまりに荒唐無稽な話だが……
問題は向こうでの調査方法である。
まずは場所の特定が先決だが、なにしろ〈向こう〉へは何も持って行くことはできないのだ。正確には持っては行けるが、全て例外なく破壊されてしまう。向こうで組み立て直すことが可能な破壊レベルではない。
とりあえずの方向性は決まった。
五名ほどの調査チームを組織し、ひとりずつ向こうに送り込む。全員が転送し終えたら、向こうの遺跡の扉を開けて外の様子を確認する。気温、天候、目撃できる動植物、風景。また、夜であれば星の位置などから、ある程度の地域は絞り込めるはずだ。
問題はこちらに敵意を持った何かしらと遭遇した場合である。
なにしろこちらは丸腰で挑まなければならないのだ。地球上のどこかであれば、現地民と意思の疎通を図ることはできるだろう。チームには語学に堪能な所員も選出された。
調査チームが編成され、調査決行は一週間後に決まった。私もそのひとりに選ばれたことを光栄に思う。
明日からはミーティングと万が一の場合に備えた訓練に費やされる。胸の高鳴りが止まらない。光の柱に包まれて向かう先。いったいどんなところなのだろうか。