第4話 東都学園高校の面々 1/5
「ショウ、お前、出て来て大丈夫なのか?」
翌朝、登校した翔虎は、廊下で担任教師の木下に声を掛けられた。
「……あ、はい、もう大丈夫です」
「それならいいんだけどな。成岡からタクシーで病院に行ったなんて聞いたから驚いたぞ。中学の頃もそういうことよくあったのか?」
「いえ、違うんです。本当に大丈夫なんで。昨日はたまたま……」
「そうか。進学して環境が変わって、自分でも分からないうちにストレスを抱えてたのかもな。何かあったら遠慮なく言ってくれよ」
木下は翔虎の肩を叩いて再び廊下を歩いて行った。
「今日は部活動見学のオリエンテーリングだ」
ホームルームが開始され、木下は教壇から語りかけた。一年四組に欠席者はなし。
「この後九時から、全校が解放されて、各部活が活動や勧誘を始める。入る部活は良く吟味しろよ。新入生獲得のために、接待モードになってる部もあるからな。入ってみて、こんなはずじゃなかった、なんてことにならないようにな」
翔虎は黒板側の壁に掛かっている時計を見た。現在時刻は午前八時四十五分。木下も自分の腕時計を覗き、
「じゃあ、少し早いがホームルームは終わりにするか。一応、九時五分前まで教室は出るなよ。では」
木下は今日の日直を見る。出席番号順で日直第一号になった廊下側最前席の青木は、起立、礼、の号令を行い。ホームルームは終了した。
「ショウ、どこに入る? やっぱりサッカー部か?」
弘樹が訊いてきた。
木下が去った教室は、昨日のように席割りをシャッフルしてグループごとに固まっている。
翔虎も昨日と同じく、直、弘樹との三人グループを形成していた。
「いやー、中学とはレベルが違いすぎるでしょ。特にうちの中学とでは」
翔虎はそう答えた。
「だよな。ショウが不動のセンターバックだったんだからな。いや、怒るな」
「いいよ。自覚してるし。直はどうする?」
翔虎は直に話を向けた。
「まだ決めてない」
直の返事はどこかそっけない。
「そうなんだ。中学は部活じゃなくて図書委員だったしね。似たような部活があるかも」
「そうだね」
直がやはりそっけなく答えると、ドアが開く音がして教室の生徒たちが廊下へ出始めた。時計は八時五十五分を指していた。
「ショウ、俺、さっそく野球部見てくるわ」
「おお、がんばれ」
弘樹は立ち上がると、翔虎の声に手を上げて答えていち早く廊下に飛びだしていった。
翔虎も直と一緒に教室を出る。
「ねえ、翔虎、部活入るの? ディールナイトがあるのに?」
直は並んで歩く翔虎に小声で話しかけた。
廊下は歩く生徒たちの足音や話し声の雑踏で満ちているため、会話が他の生徒に聞かれることはなかった。
「ああ、そのことを心配してくれてたのか。わかってるよ。でも、あからさまに消極的な態度も取れないじゃん。普通にしていないと」
「じゃあ、翔虎は帰宅部ね。高校サッカー選手権出場の夢は諦めてもらうね」
「そんなの元々ないから。でも、帰宅部だと親がうるさいんだよなー」
「ああ、翔虎の両親はそうかもね」
「何かいいところないかな? いつでも好きな時間に抜け出せて、場合によっては出なくても構わなくて、余計な体力や気を遣わないで済んで、家族への体裁も取れる部活」
「随分と虫がいい条件だけど、そうなっちゃうよね。文化部あたりのどこかやる気のない部なら……私も一緒に探してあげるよ」
「ありがとう」
四階の部室棟は文化系部活が軒をそろえており、どの部室も門戸を解放し、看板を立てて新入生の勧誘行為に勤しんでいる。
「翔虎、手分けして色々覗いてこようよ」
「そうだね」
そう言葉を交わして、二人はそれぞれ反対方向に歩いていく。
翔虎は、とりあえず、といったふうに、近くの部室に足を踏み入れた。




