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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第63話 卒業式の惨劇
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第63話 卒業式の惨劇 5/5

 校庭に下りた翔虎(しょうこ)は、ゴーグルとマスクを展開すると地面からサブマシンガン〈ダイヤセブン〉を錬換(れんかん)して、引き金を引きながらリヴィジョナーに突進した。リヴィジョナーのとの間に立ちはだかっていた数体のイーヴィルは、連射弾により次々となぎ倒されていく。

 銃口が火を噴くのをやめた。マガジン内の残弾が尽きたためだった。翔虎はサブマシンガンを投げ捨てると、両手で剣を構えてそのまま突っ込んだ。リヴィジョナーの頭上に刀身が振り下ろされる。 左腕前腕鎧をモーフィングするように盾状に変化させ、リヴィジョナーは翔虎の一刀を受け止めた。すぐに翔虎は剣を引き、敵の腹部に狙いを定めて薙ぎ払う。リヴィジョナーは、その一撃も右前腕鎧を変化させた鉤状のいびつな剣で受け止めた。直後、盾は鋭い槍のような形状に変化し、ディールナイトのゴーグルを狙う。横に身を引いて翔虎は反撃を(かわ)した。


「くそっ!」


 翔虎はリヴィジョナーのもとを離れると、校舎に向かっている数体のイーヴィルを追った。走りながらタッチパネルを操作して地面を叩き、サブマシンガンを錬換しなおすと掃射した。校舎に向かっていたイーヴィルの群れはすべて撃ち倒された。その足で真横に迫っていたイーヴィルも蜂の巣にする。周囲に群がってくる敵を一掃するため、あっという間にサブマシンガンの弾倉は空になった。翔虎は剣を背中にマウントすると、グレートソード〈スペードテン〉を錬換した。さらに襲いかかるイーヴィルの群れは、振り回された大剣に吹き飛ばされた。


「戦いなさい、ディールナイト、ディールガナー。力を尽くして、傷だらけになって戦っても、生徒たちを守りきれなかった。その絶望は、あなた方の新たな力となることでしょう」


 リヴィジョナーは両腕を上げ、校庭上の空間に今まで以上に大きな穴を穿った。中から巨大なイーヴィルが這い出てくる。人型ではない、昆虫のゾウムシを思わせる形状のイーヴィルだった。全長は五メートルを超える。六本の節足を校庭に突き立てたイーヴィルは、頭部先端の角を地面に突き刺し、地中に潜り始めた。



「大変だ!」


 体育館に飛び込んできた生徒が叫んだ。正木(まさき)だった。卒業生、在校生、教師ら、全員の目が正木に向く。卒業生の名前を呼び上げる二組担任の声も中断した。


「か、怪物が! 早く逃げないと!」


 間髪入れず正木は叫んだ。


「怪物?」「久しぶりだな」「卒業式にまでかよ」


 正木の表情とは対照的に、それを聞いた生徒たちのそれは穏やかだった。


「また、ディールナイトが来てくれるだろ」「俺はディールガナーのほうがいいな」


 そんな声も聞こえ始める。「おい、静かにしろ」と生徒たちを収める教師の声も落ち着いたものだった。


「ち……違うんだ」


 正木は言ったが、その声は生徒らの声に掻き消された。卒業生席からひとりの生徒が立ち上がり、正木のもとに走った。第二生徒会会長烏丸紘一(からすまこういち)だった。


「君、怪物はどこに?」


 声を掛けてきた烏丸を見上げて正木は、


「お、屋上に……でも、今までと違うんです」

「違うって、何がだい?」

「何体、いえ、何十体も」

「何十体?」

「そうです、それに、今まで出てきた怪物とは、見た目も違っていて……あれだったんだ、僕が頭の中に見ていたのは、でも、どうして……」


 正木は青い顔になると、流れてきた汗を制服の袖で拭う。


「ディールナイトとディールガナーは?」

「もう来てくれています。でも、あの数じゃあ……」


 そのとき、体育館が揺れた。


「……地震?」


 烏丸は周囲を見回した。生徒たちの間にざわつきが広がる。


「と、とにかく、早く逃げないと――!」

「おい! 何だあれ?」


 正木の叫びに、他の生徒の声が被さった。その生徒は体育館の大きな引き戸を開けた隙間から校庭を見ていた。引き戸が全開にされ、校庭の様子が露わになると、


「ディールナイトが戦ってるけど……」「今までの怪物と違うぞ」「何あれ、気持ち悪い」


 驚愕や恐怖を帯びた声が生徒らの口々に上がった。


「携帯、繋がらないよ!」


 携帯電話を持つ生徒が言った。その声に他の生徒たちも自分の携帯電話を取り出す。そのどの画面にも、電波送受信不可能なことを教える圏外マークが表示されていた。


「理事長、どういたします? ……理事長?」


 教頭は神崎(かんざき)に声を掛けたが、神崎は反応を見せなかった。その視線は開けられたドアの向こう、校庭に突き刺さっている。


「あれは……どうして、あいつらが……ここに?」


 神崎の目は、校庭でディールナイトと戦闘を繰り広げている怪物の群れを向いていた。


「こっちに来るぞ!」


 悲鳴混じりの声が響き、生徒たちは一斉にドアから離れた。ディールナイトとの戦闘を抜け出た怪物が数体、体育館に向かって走ってきていた。


「ドアを閉めろ!」


 烏丸の声に反応し、数名の生徒が駆け寄ってドアを閉じた。

 校長は近くにいた教師に「事務所に行って警察と消防に連絡を」と告げていた。それを聞いた教師が体育館を出るより早く、出入り口に事務員が姿を見せ、


「せ、先生方……」


 と息を切らせながら、


「か、怪物が、校庭に……そ、それに……電話が通じません」

「何だって? 固定電話もか?」

「そうです……通じないんです」


 事務員が言った直後、生徒らの悲鳴が体育館に響いた。ドアの外側に何者かが激突したような轟音が聞こえたためだった。


「椅子でドアを塞げ!」


 烏丸の指示で、男子生徒らが椅子を持ち寄ってドアの前に積み上げ始める。が、外からの衝撃で椅子はすぐに崩されてしまった。


「みんな! 中央に集まるんだ!」


 烏丸は生徒たちを体育館中央に集合させた。戸惑い、泣き出す生徒たちは、円山友里(まるやまゆり)ら、第二生徒会を始め生徒会委員たちが補佐する。その中には(りん)の姿もあった。


「大丈夫よ、(あや)。心配しないで」


 すすり泣いている女子生徒の肩をやさしく抱いて、凛は言葉を掛けた。彩、と呼ばれた女子生徒は首を横に振ると、


「違うんです。怪物が怖いんじゃないんです。私、せっかくの卒業式が、会長や、三年生の皆さんの大切な卒業式が、こんなことになってしまって……それで……」


 目に涙が浮かんだ。凛は彩を抱きしめる。ドアにぶつかる音に、乾いた音が混じった。木製のドアに亀裂が走った音だった。体育館にこだまする悲鳴も大きくなる。

 凛は携帯電話を取りだし、〈Zodiarch〉と表記されたアイコンを見つめた。



「くそっ! 体育館に……」


 翔虎は、体育館ドアに体当たりする数体のイーヴィルを横目にグレートソードを振り続けていた。周囲には何十体ものイーヴィルが群がっており、翔虎は足止めを余儀なくされている。


「これじゃ、進めない……あっ!」


 翔虎と体育館を結ぶ線上にいるイーヴィルが次々に塵と化していった。


「直か!」


 翔虎は屋上に目をやった。

 屋上の敵を一掃した直は、錬換したマシンガンで翔虎の周囲に群がる敵を撃ち倒していた。翔虎は体育館まで開けた道を走りながら、


「直、ありがとう……直? 通じてないのか? どうしてだ?」


 ヘルメットの中で直に通信を入れ続けているが、直からの応答はない。


「翔虎……駄目なの? 何で?」


 屋上では直も翔虎との通信が通じないことに首を傾げていた。「まあ、いいか」と直はマシンガンを構えなおして、


「あの大きいの、何をしてるの?」


 校庭の隅で地面に体を半分程度潜らせているゾウムシのようなイーヴィルを見たが、校庭の敵への攻撃を再開した。

 体育館を揺らした震源は、この巨大イーヴィルだった。土を巻き上げてゾウムシが地中から頭部を上げた。その角にはケーブルが引っかかっており、角を上げたことでそのケーブル、校舎と外とを繋ぐ電話ケーブルは完全に切断された。


「これで外部との通信手段は絶たれました」


 切断されたケーブルが地面に落ちるのを見て、リヴィジョナーは、


「無線電波の(たぐ)いも遮断されています。これで、この学校は陸の孤島となりました」


 右手を上げて、空中に穴を開けた。そこからは、今まで現れていたトカゲ状のもの以外にも、カブトムシを思わせるもの、蜂のようなものなど、昆虫型を加えた様々な外見のイーヴィルが何体も出現した。昆虫型は羽を広げ、校舎方向に飛んでいった。


「空を飛ぶやつもいるの?」


 直は屋上に向かってくる飛行型のイーヴィルを捉えた。地上に向けていたマシンガンを水平にして、直は飛来する敵を迎撃にかかる。銃弾は次々に昆虫型イーヴィルを撃墜していくが、


「全然追いつかない……」


 かなりの数を撃ち落としていたが、敵の数は一向に減っていなかった。次々に投入される敵に撃破が追いつかない。直は接近戦の覚悟を決めたのか、屋上に伏せてマシンガンを構えた体勢から立ち上がると、アサルトライフルを手にした。左右脇、足首の四箇所のホルスターも拳銃で埋まっている。

 数十体のイーヴィルが直に群がり、羽音と銃声が交差する。

 数十秒後、銃声だけが聞こえなくなった。



 翔虎は体育館に、正確には体育館に向かうイーヴィルの背中を目指して走っていた。脚力ではディールナイトに分がある。敵との距離はどんどん詰まってきていた。が、


「うわっ!」


 突然翔虎は転倒した。しかも、前のめりに地面に突っ伏しただけでなく後方に引かれていく。


「何だ?」


 翔虎の足首には粘着質の糸が絡まっていた。その糸の先には、クモのような姿をしたイーヴィルがいた。六本の脚で立ち、二本の腕で翔虎の脚を絡めた糸を引いている。糸はイーヴィルの口から伸びていた。

 翔虎は反転して仰向けになると、腹筋を使って上体を起こし、自分の足首を束縛する糸にグレートソードを叩き付けたが、糸は弾性を持って剣を跳ね返した。それを見た翔虎は大剣を投擲する。剣はクモ型イーヴィルの胸を貫き、その体を塵に変えた。糸も同時に塵と化して消える。立ち上がった翔虎は再び体育館を目指したが、


「しまった!」


 先行する敵は、すでに体育館のドアに体当たりを仕掛けていた。

 翔虎の足はまたしても止められた。今度は体に何かが巻き付き、空中に引き上げられる。翔虎を捕らえたのは、カブトムシにムカデのような尾が付いたイーヴィル。翔虎の胴体に巻き付いているのはその尻尾だった。タッチパネルに指をやりかけた翔虎だったが、


「こいつらに錬換は効かないんだったな……」


 尻尾を掴むと、左右に引き始めた。


「ぐおお……!」


 節足のような尻尾は、翔虎の腕力で接合部から引きちぎられた。翔虎の体は空中に投げ出され、地面に落下する。低くバウンドして地面に転がった翔虎に、陸から空から、イーヴィルの群れが襲いかかった。白と青の鎧は、瞬く間にイーヴィルに埋め尽くされて見えなくなった。

 体育館のドアはすでに破られていた。



 怪物の群れが体育館内になだれ込んできた。生徒たちの怒号、悲鳴が館内にこだまする。


「会長ー!」


 彩が凛に抱きついた。


「彩! 離れて!」


 彩の肩を掴んで自分から離れさせた凛は、体育館の壁に背中をつけると携帯電話を操作した。一瞬、光に包まれた凛の姿は、フルアーマーの鎧姿に変身を遂げていた。背後の壁が大きく抉れている。館内の生徒は悲鳴を収め、一斉に息を呑んだ。


「か、会長……?」


 彩は呆気にとられた顔で、凛が姿を変えた戦士、ゾディアークを見る。

 変身するとゾディアークは駆け出し、体育館内になだれ込んできた怪物の先頭の一体に拳を叩き込んだ。その怪物は彩に跳びかかる直前だった。顔面にめり込んだ拳は後頭部に抜け、怪物は塵と化した。すぐさま凛は手刀を、蹴りを繰り出し、周囲の怪物を掃討にかかる。


「体育館の床は板張りだから、材料にできない。壁まで戻って錬換してる暇がないわ……」


 ゾディアークのマスクの下で、凛は表情を歪めた。


「あれは確か、ゾディアークとかいう戦士……正体は霧島(きりしま)会長だったのか……」


 円山友里(まるやまゆり)が呆然とした顔で、戦いを続けるゾディアークを見た。その周囲では、烏丸を始め第二生徒会のメンバーたちも目を見張っている。


 多勢に無勢が過ぎた。奮戦していた凛だったが、攻撃を当てるよりも受ける回数のほうが圧倒的に上回っていた。鎧には無数の傷が刻まれ、繰り出す攻撃も精彩を欠き始めている。

 ついに凛が片膝を突いた。イーヴィルの群れが凛の腕を、体を、脚を押さえつける。


「は、離しなさい……」


 凛の声は加工されずにマスクの外に漏れ出た。凛を取り囲む怪物は動きを止めていた。体育館の隅に避難した生徒、教師らにも襲いかかる様子は見られない。


「まだ、あなたのような存在がいたのですね」


 イーヴィルの群れが左右に引き、一本の道ができた。そこをゆっくりと、黒と金の鎧姿のリヴィジョナーが歩いてくる。


「この星の科学力は、どうにもいびつですね。そのような高レベルの科学力は、ここだけに見られる特有のものです」


 凛の目の前でリヴィジョナーは止まった。右腕を上げる。前腕鎧が剣状に変化した。右腕が突き出された。生徒らの間から悲鳴が上がる。リヴィジョナーの剣は側頭部を抜け、ゾディアークのヘルメットだけを破壊した。凛の素顔が晒され、長い髪が広がる。


「あなたも、子供でしたか」


 リヴィジョナーは両膝を突いてイーヴィルに押さえつけられている凛の顔を見下ろした。


「私を殺してくれてもいいわ。でも、他のみんなは助けて!」


 表情を持たないリヴィジョナーのマスクを、凛は鋭い視線で見て叫んだ。


「ええ、殺しません」

「えっ?」

「すぐにはね」


 リヴィジョナーが一歩横に立ち位置をずらすと、その後ろにはクモ型の怪物が立っていた。口から束ねられた糸を射出して凛の体を絡め取る。凜の腕脚を押さえつけていた怪物が引くと、クモ型イーヴィルは跳び上がって体育館の天井に張り付いた。そのまま糸を引き、凛を吊り上げ始める。凛は大の字に両手脚を広げた姿勢で天井に貼り付けにされた。

 それを見ると、リヴィジョナーは、固まった生徒、教師たちに向いて、


「今日という日、ここで起きる惨劇を皮切りに、人類の歴史を変えるための戦いが始まります。あなた方は、そのための尊い犠牲となるのです。ここで流れる血が、未来の人類をより良い方向に導く糧となるのです」


 リヴィジョナーの語りを、皆は黙って聞いていた。


「あ、あいつ、いったい何を言ってるんだ……?」


 友里は恐怖を貼り付けた顔で、理解できないというふうに小さく呟いた。リヴィジョナーの言葉は続き、


「あなた方は伝道師となるのです。ここで起きたこと、味わった恐怖を他の人間に伝えるための。ですが、その役割を果たすのは数人で十分です。これから私は」


 そこで一度言葉を切り、


「あなた方をひとりずつ殺していきます」


 悲鳴が上がった。すすり泣きも聞こえる。その様子を見回したリヴィジョナーは、


「いい声です。私たちを憎みなさい。そして、戦いなさい。あなた方の進むべき道を、正しい方向に修正するために――」

「ふざけないでよ!」


 怒声が上がった。明神(みょうじん)あけみの声だった。あけみは足を踏み出し、生徒たちの先頭に立つと、


「お前なんか、ディールナイトとディールガナーがやっつけてやるんだから!」

「あの二人でしたら、もう死んでいるでしょう」

「――えっ?」


 その言葉にショックを受けたのか、あけみは小さく呟いた。他の生徒たちもすすり泣きの声を止め、体育館には屋外で怪物がうごめく音だけが聞こえていた。


「ちょうどよい。最初はあなたにしましょう」


 リヴィジョナーは鎧が剣状になったままの右腕を水平に上げた。あけみは震える脚で一歩下がる。メガネ越しに瞳が潤んでいる。リヴィジョナーが右腕を突き出した。生徒の中から烏丸が駆け出したが、それよりも早く動いていた人物がいた。

 いびつな形状をした剣が腹部を貫き背中に貫通した。鮮血が流れ落ちる。その場にいる全員が息を呑む音が聞こえた。

 剣が引き抜かれると、刺された人物は傷口を押さえて突っ伏した。体育館の板張りの床に、真っ赤な血の花が開花する。

 あけみは尻餅を突いた。涙が頬を伝う。


「理事長ー!」


 烏丸が神崎(かんざき)に駆け寄った。神崎は烏丸の声に応えることなく、腹部の傷口を押さえ、まぶたを閉じて荒い息を吐いているだけだった。

 剣を振って血を払ったリヴィジョナーは、


「まあ、いいでしょう。生徒をかばって死ぬ大人。これもいい美談になりますしね。生き残るものは、しっかりと伝えて下さい。さて」


 と生徒たちに向いて、


「次は……」


 床に水滴が落ちた。天井に張り付けにされた凛の流した涙だった。歯を食いしばり、腕に、脚に力を込めているが、糸の戒めから逃れることはできない。その隣には、クモ型イーヴィルも番をするように天井に貼り付いていた。

 烏丸、そしてそのあとから、中村正則(なかむらまさのり)海老原海斗(えびはらかいと)と数名の男子生徒が跳びかかった。しかし、全員がリヴィジョナーに打ち飛ばされ、床に転がり、壁に叩き付けられた。友里、立花麗(たちばなうらら)野呂悠乃(のろゆうの)をはじめ、数名の女子生徒が駆け寄る。


「烏丸会長!」

「円山くん、俺は大丈夫だ。それより、理事長が……」


 神崎には保険医の新田(にった)と数名の女子生徒がつき、引き裂いた上着を傷口に巻いて応急処置をしている。海老原は麗が助け起こし、悠乃は中村の出血した頬にハンカチを当てている。他の男子生徒も女子生徒たちに助け起こされていた。


「美しいですね」


 その様子を見てリヴィジョナーは、


「美しい姿です。あなた方若者には、まだそのような美しい心がある。しかし、大人になればそれは失われてしまう。あなた方のせいではありません。そうしなければ、この世界で生きていけないからです。仕方のないことなのです。悪いのは、そんな世界を作った大人たちです。ですが、あなた方が大人になり、子供を産み、その子供が成長する頃には、この世界も変わっていることでしょう。もっとも……」


 と右腕を上げて、


「その生まれ変わった世界を見ることのできるのは、この中で数人だけですけれどね。残念なことですが」


 未だ神崎の血が払い切れていない刀身が、鈍く煌めいた。



 今や東都学園高校は、醜怪なイーヴィルの巣窟と化していた。校庭を埋め尽くし、校舎の周囲に無数に飛び交っていた。


「……何だ、これは?」


 東都学園前の道路に車で乗り付けた亮次(りょうじ)は、唖然として呟いた。運転席を下りて校門に近づく。


「あの怪物……あれは……私は、あれを……」


 亮次は頭を押さえた。


――2017年3月18日

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