第3話 高校生活始まる 4/4
「亮次さん、あいつ、〈ダイヤ〉の〈2〉でした」
土煙舞う林の中から出て来た翔虎は左腕のタッチパネルを亮次に見せた。
「そんなものはいい! 体は大丈夫か? 大丈夫じゃないだろ!」
亮次は駆け寄った。
「大丈夫です。弾を受けた衝撃で痺れてただけみたいです。痛みも、もう引いてきました。ナノなんとかアーマー、結構いけるみたいですよ」
翔虎はそう言って左肩を回した。亮次はその回す腕を掴んで止めて、
「無茶するな! どうしてあそこで突っ込んだ。たまたま連続で銃撃されなかったからよかったものを……」
「勝てたのは亮次さんのおかげですよ」
「私の?」
「はい、亮次さんがあいつの銃を見てリボルバーだって教えてくれたから。リボルバーって、ほとんどが装弾数六発だから。あの時点で五発撃たれてたから、あと一発耐えれば弾切れだなって。装填の間こっちが殴り放題だと思って」
「馬鹿! あいつが逐一装填してたらどうするつもりだったんだ」
「それはないかなって。あいつ、僕がちょっとでも隙を見せると即撃ってきたじゃないですか。常に狙いを付けてなきゃ、そんなことできないだろう。それなら、途中で弾の装填なんてしないんじゃないかなって」
「……はあ、まったく。大した度胸だよ、君は」
「度胸じゃない。戦術ですよ」
「生意気なことを。でも医者は行くんだぞ、念のため」
「はいはい。亮次さん、お腹空きました」
「お昼もだいぶ過ぎたものな。よし、じゃあ、ラーメンでも食べに行くか。もちろん奢るよ」
「やったー」
変身を解除した翔虎は笑顔で両手を上げた。
「ラーメン食べたら医者も行くんだぞ」
「わかってますよ」
亮次と翔虎を乗せたオレンジのSUVは、翔虎おすすめのラーメン店にカーナビを目的地登録して走り出した。
「あ、直から」
助手席に座る翔虎は、携帯電話の着信を受けた。
「もしもし……うん、大丈夫、もうやっつけたから……え? 怪我はないよ。……本当だって。もうホームルーム終わった? ……うん、ありがとう。そうだ、直もこれからラーメン食べに行く? 亮次さんが奢ってくれるって」
翔虎はハンドルを握る亮次を見た。亮次は微笑んで翔虎を見返した。
亮次の運転する車は学校近くのコンビニで直を拾い、三人でラーメン屋に向かった。
「駄目! ラーメンの前に病院でしょ!」
後部座席に乗り込んだ直は、翔虎の口から戦いの様子を聞き終えるなり、そう怒鳴った。
「大丈夫だって――」
「駄目!」
直は翔虎の反論を封じて、
「亮次さん、目的地を病院に変更」
「直ー」
翔虎の声を無視して、直は運転席と助手席のシートの間から手を伸ばして、カーナビの目的地を消去した。
「ねえ、翔虎、亮次さんも」
目的地をラーメン屋から病院に変更した車の中で、直は改まった口調になり、前座席に座る二人に話しかけた。
「どうしたの?」
と、翔虎は視線だけを後ろに向けて訊いた。
「あのね、あの後、ホームルームが終わって、クラスの話題なんかが耳に入ってきたんだけど。翔虎、亮次さん、昨日のビルの屋上での戦い、誰かに見られてたみたい」
「何だって?」
「本当かい?」
翔虎と亮次は同時に声を上げた。
「だ、誰に?」
振り返って訊く翔虎に直は、
「クラスメートの誰かの知り合いみたい。ビルの屋上で、怪物と鎧を着た人が戦ってるのを見た、って。鎧の人が怪物を倒して、女の子を助けて屋上から降りていったって。テレビの撮影かと思ったそうだけど、カメラもないし、何より、倒された怪物が塵になって消えちゃったから、これはただ事じゃないな、って」
「も、もしかして、顔……」
「ううん、それは大丈夫みたい。その目撃した人も、かなり距離があるビルの窓から見てたから、顔まではわからなかったって言ってたそうだから、あそこにいたのが翔虎と私だってはバレてないよ」
「これからは、ヘルメットを展開してフルフェイス状態にして戦ったほうがいいかもな」
亮次の言葉に、翔虎は、
「そうですね。あれなら完全に顔バレは防げますね」
「そんなこともできるんだ。そっか、じゃあ、ディールナイトの正体が翔虎だって、さらにバレにくくなるね」
「直、さらに、って何だよ?」
「その目撃してた人が言ってたそうなの、戦ってた鎧の人は女の子だった、って」
「え?」
「そう、鎧の人、ディールナイトは女の子だと思われてるんだよ」
「ま、まあ、無理もないか、遠目で、あんな格好じゃ……」
「近くで見ても、女の子にしか見えないぞ」
笑みを浮かべながら言葉を挟んできた亮次を、翔虎は眉を吊り上げて睨んだ。
「ま、まあ、いいじゃないか……」
「何がいいんですか!」
「いや、亮次さんの言う通りよ」
「直! 何が?」
「ディールナイトが女の子だと思われてる限りは、翔虎が疑われることは、まずないじゃない」
「……ああ」
「そうでしょ? あの格好してるのが男だなんて、誰も絶対に思わないよ」
「うーん……」
翔虎は腕を組んで唸った。
「じゃあ、町中に宣言する?『この僕、尾野辺翔虎がビキニのディールナイトに変身して町を守ります!』って」
「そんなことするわけないだろ!」
「だいたい、よく考えたらさ、正体隠す必要ある? 正体がバレたら動物にされるわけでもないのに」
「あるだろ! 変態だと思われるよ、あんな格好してるなんてことがバレたら!」
「ヒーローに格好は関係ないんじゃなかったの?」
「それと、正体がバレることとは別だよ!」
「ふふ、ディールナイト、謎のヒーロー、か……」
直は運転席と助手席の間に出していた顔を引っ込め、後部座席に座り直すと、
「あ、ヒーロー、じゃなくて、ヒロイン?」
「いいから!」
「病院に着くぞ」
と、亮次が笑いながら口にした。フロントガラスの向こうには、病院の建物が見えていた。
「ただの打ち身だって。湿布貼ってもらっただけで済んだ」
病院の待合室に戻ってきた翔虎が、椅子に座って待っていた直と亮次に言った。ブレザーを右腕に提げて、ワイシャツ姿の翔虎は、言い終えてから左肩をぐるりと回す。
「……よかった」
直が安堵の表情を浮かべた。
「じゃあ、今度こそラーメン食べに行こうよ」
そう言って翔虎は提げていたブレザーを羽織る。
「もう……」
直は、仕方がないな、と言って立ち上がって、
「翔虎、ちょっと待ちなさい。あのあと大変だったんだからね。ホームルームが終わってから、先生は保健室に翔虎の様子を見に行くって言い出して。保健室に行くと保健の先生から聞いて、翔虎が来てないってばれちゃうから、タクシー呼んですぐに病院に行きましたって押しとどめて――」
「ありがとう、直」
翔虎は立ち止まって振り向くと、微笑みながら言った。
「……わかれば、いいわよ」
直は小さく呟いた。
「亮次さんも、早く!」
翔虎は病院の玄関へ歩き出した。直の隣に追いついた亮次は、直に、
「どうだ、かっこいいだろ?」
「何がですか?」
「翔虎くん」
「そ、そうですか?」
「ああ、かっこよかったぞ。機転も利くし」
「あまり、危ないことやらせないで下さいね……」
直も玄関に向かって歩き出した。亮次も二人の後ろ姿を見つめ、微笑んで後を追った。
――2016年4月4日




