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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第56話 雨に濡れた嘘
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第56話 雨に濡れた嘘 4/4

「て、寺川(てらかわ)くん、ちょっと待っててね」


 (なお)がそう語りかけると、寺川は、「は、はあ……」と言ってその場に座り込んだ。直は翔虎(しょうこ)の手を取って寺川と十数メートルの距離を置き、


「ねえ、どうする?」

「どうする、ったって……」


 翔虎は寺川を見た。ストレイヤー体に変身している寺川は、体育座りをして所在なげに曇り空を見上げている。


「直、そもそも、何があったんだ? テラも富士崎(ふじさき)先輩みたいに、特別な脳波の持ち主だったってことか?」

「それがね、最初は普通だったんだよ。いや、普通ってのは変か。いつもの憑依された人みたいに、のべつ幕なしに暴れ回って。でもね、プールのガラスを突き破って、斜面を転がって、壁に頭をぶつけちゃったの、寺川くん。それで、起き上がると……」


 直は肩越しに一度寺川を見て、


「ああなっちゃってた、ってわけ」

「なるほど。頭を打って、脳波が乱れるか何かしたんだろうな。それでたまたま、ストレイヤー化しても自我を保っていられる状態になった、と……」


 翔虎も納得したようにヘルメットの顎に手を当てる。


「翔虎、どうしよう」

「決まってるだろ。シャットダウンアタックで倒す」

「翔虎!」

「だって、別にいつものことだろ。ストレイヤーが人間に憑依して、それを倒す」

「でも、寺川くん、意識があるんだよ」

「第二生徒会だってそうだったろ」

「あの人たちは敵だったから。今の寺川くんは、何にもわかってないのよ」

「だからといって、このまま放っておけないだろ」

「それはそうだけど」

「大丈夫、〈SRDO(サード)〉を使うんだから。何なら、テラ相手なら〈SRDO〉なしでもいいくらい――」

「ダメに決まってるでしょ!」

「冗談だって」


 翔虎はタッチパネルを操作して〈SRDO〉を発動させた。パネルが緑色の枠で囲まれ、それを確認した翔虎は自分が放り出して地面に転がっているグレートソードに目をやる。


「ねえ、翔虎。まさか、あれでやるんじゃ?」

「そうだけど?」

「さすがにあれはまずいって!」

「せっかくもう出してある武器なんだから、ちょうどいいだろ」

「もっと痛くなさそうなやつにしたほうがいいって」


 と直は、落ちているグレートソードに向かって歩いて行こうとする翔虎の腕を取って止めた。


「仕方がないな……じゃあ、これで」


 翔虎は、剣〈スペードシックス〉を錬換して右手に持つ。


「その剣でやるの?」

「そうだけど?」

「もっと痛くなさそうな武器がいいんじゃ」

「大丈夫だって。グレートソードに比べたらかわいいものだろ。円山(まるやま)先輩なんて、日本刀でぶった切られたんだぞ。女子なのに凄い根性だよ。サッカー部員なら、剣の一刀の痛みくらい耐えられる。将来、長友(ながとも)を目指す男なら、これくらい何ともない」

「長友と剣で斬られることは何にも関係ないと思うけど」

「早く済ませちゃおう」


 翔虎は直に言うと、


「お待たせ、テラ――かわくん」


 と刀身の腹を左手にぽんぽんと当てながら、寺川に近づいていった。


「え? な、何ですか?」


 寺川は、体育座りのまま両手を後ろに突いて、少し後ずさる。


「ちょっと立ってくれるかな。寺川くん」

「え? な、何をするんですか?」

「いいから、いいから」


 翔虎は、掌を上に向けた左手をくいくいと振って、寺川に立ち上がるよう促す。バイザーの向こうに不安そうな表情を浮かべながらも、寺川は言われた通りに立ち上がって、気をつけの姿勢になった。


「じゃあ、ちょっとじっとしててね……」


 翔虎はタッチパネルを操作してシャットダウンアタックを発動させる。


「おわっ!」


 ディールナイトの持つ剣が突然光を放ち始めたのを見て、寺川は、びくりと体を震わせる。翔虎は柄を両手で握ると、腰を落として剣を薙ぎ払う体勢になる。


「ななな……も、もしかして、俺を斬るんですか?」

「そうだよ」

「ちょ、ちょっと!」

「大丈夫、全然痛くないから」


 その様子を遠巻きに見ている直は、「嘘つけ」と呟いた。


「ま、待って下さい!」


 寺川は両手を前に出して、ぶんぶんと振った。


「何? 君、時間がないんだよ。早く始めさせてくれないかね」

「ディールナイト、口調が変ですよ。ど、どうして俺が斬られなくっちゃならないんですか?」

「君ねえ、今処置しないと、いつまでもそんな姿でいることになるんだよ、いいの?」

「え、そ、それは……じゃ、じゃあ、背中にして下さい。背中のほうが正面よりも何倍も痛みに耐えられるって聞いたから」

「君、『バキ』を読んでいるね。いい心がけだね。じゃあ、後ろを向いて」

「は、はい……」


 寺川はくるりと反転して、翔虎に背中を向けた。


「じゃあ、行くよ」

「よ、よっしゃ……来い!」


 振りかぶった剣を翔虎が、まさに薙ぎ払おうという刹那、


「――ストップ!」


 直から声が掛けられ、翔虎は振り出そうとする手の動きを止めた。


「何だよ! な――ディールガナー」


 翔虎が手を止めると、剣はシャットダウンアタック有効時間を過ぎて塵に変わって消えた。直が甲を向けた手を上げて、人差し指だけを、くいくいと曲げて翔虎を呼んでいる。


「ちょっとそのままで待ってて」


 と寺川に声を掛け、翔虎は直のもとに小走りで近づく。


「直、どうしたんだ?」

「あのさ、今気付いたんだけどさ、私たち〈SRDO〉に拘りすぎてた」

「どういう意味?」

亮次(りょうじ)さんに〈SRDO〉を作ってもらう以前に、私たちがストレイヤーに憑依された人間にとどめをさすとき、どうしてた?」

「え? それは……錬換でストレイヤー体を剥いで、コアを引き剥がして……あ!」

「でしょ。それをやればいいじゃん」

「あまりに〈SRDO〉が便利すぎて、きれいさっぱり、すっかり見事に忘れてた」

「ね。私も。だいたい〈SRDO〉の設計思想が、暴れ回る相手に接近して錬換をぶつけるのが非常に困難だし、人間相手に武器を使うのが問題があるっていう理由だったわけだから」

「協力してくれる相手に対しては、わざわざ〈SRDO〉で攻撃して、痛い思いさせる必要なかったってことか」


 直は、うんうんと頷いて、


「まあ、剥がしたコアがストレイヤーになっちゃう前に倒さないとだから、手間は増えるけどね」

「……第二生徒会の人たちに悪いことしちゃったな」

「そうね……」


 二人はヘルメットの下で冷や汗を流した。翔虎は気を取り直したように背筋を伸ばすと、


「じゃ、じゃあ、テラに対してもそれでいこう。それをやるにしても、シャットダウンアタックが必要なことは変わらないから、直も手伝ってくれ。僕がコアを引き剥がして放り投げるから……」

「私が撃ち抜けばいいのね」


 直は小型リボルバー銃〈ダイヤツー〉を錬換してキャッチした。


「そういうこと」

「うん、そうと決まれば」


 二人は並んで寺川のもとに近づいていった。


「やあやあ、何度もお待たせしてしまって、悪いね、寺川くん」

「い、いえ……」


 手を振りながら声を掛けてきたディールナイトを見て、寺川の視線はディールガナーの右手に移動した。


「あ、あの、それは? 今度は俺、撃たれちゃうんですか?」

「ううん。違うのよ」


 直は立てた手をぶんぶんと左右に振って、


「これはね、寺川くんを直接撃つためのものじゃないのよ」

「じゃ、じゃあ、間接的には撃つっていうことですか?」

「い、いや、そうじゃなくってね……」

「つべこべ言わずに立っててくれるかな、寺川くん」


 翔虎が言うと、寺川は「は、はい」と、また背中を向けた。


「ああ、いや、今度は前を向いたままのほうが都合がいいんだ」


 翔虎は寺川の肩を両手で掴み、くるりと 反転させる。


「いやー、あれをやるのも久しぶりだな。あれは結構力がいるから」


 翔虎は、わきわきと両手を開いては閉じる動作を繰り返して、ストレッチのように腰を左右に曲げる。


「な、何が始まるっていうんだ……」


 寺川はバイザーの向こうに一層不安そうな表情を浮かべた。直は、


「大丈夫よ。これからやるのは、本当に全然痛くないやり方だから」

「じゃ、じゃあ、やっぱりさっきのは、痛いやり方だったってことじゃないですか!」

「いちいち細かいね、君も……ディールガナー、準備オーケー?」

「オーケー」


 直はシャットダウンアタックを発動させて、リボルバー銃を光に包んだ。それを見た寺川は、また「ひゃっ!」と悲鳴を上げる。翔虎もタッチパネルを操作して、ドラムを〈クラブ〉と〈J〉に合わせ、バイク〈クラブジャック〉の錬換待機を行い、


「寺川くん、歯を食いしばれ」

「い、痛くないんですよね?」


 ごくりと音を立てて、寺川は唾を飲み込んだ。


「いくよ……」


 翔虎が平手を振りかぶり、直は銃を構えて射撃体勢を整える。と、そのとき、


「あっ!」「えっ?」


 翔虎と直は同時に叫んだ。寺川の体から、ストレイヤー体の鎧が塵となって崩れ去った。


「……あ、あれ? もとに戻ってる……?」


 寺川は水着姿に戻った自分の体を見回した。翔虎と直は顔を見合わせる。寺川は体に残った塵を払い落とすと、


「な、何だかわからないけれど、戻れました。ありがとうございました」


 と、お辞儀をして、「もとに戻ったら寒っ!」と体を震わせながら斜面を上り、プール施設へと帰っていった。

 直と寺川が割り破ったガラスの内では、大勢の人たちが心配そうに寺川を迎え入れた。真っ先に寺川に駆け寄ったのは(かえで)だった。


「寺川くん! 大丈夫だったの? 怪我は?」


 楓はバスタオルを寺川の肩に掛けてやる。


「あ、ありがとう、大友さん。だ、大丈夫、戦いに巻き込まれて外に放り出されちゃったけど、ディールナイトとディールガナーに助けられたよ。怪物も……二人が倒してくれたし」


 寺川は、自分が怪物化したことは伏せて話した。寺川の周囲には、弘樹(ひろき)香奈(かな)、あけみ、水野(みずの)も駆け寄って、口々に心配そうな声を掛け、元気な寺川を見ると安堵の声を漏らした。


「そ、そう言えば、成岡(なるおか)さんは?」


 寺川は周囲を見回したが、近くに直の姿を見つけることはできなかった。


「……やってくれたのか。直くんが」


 亮次はひとり、寺川たちを遠巻きに眺めていた。自分の携帯電話で、ついさっきストレイヤー反応が消えたことを確認したあとだった。



 プール施設の外、翔虎と直は、


「い、今の、テラが自分で変身を解除したんだよな?」

「うん、間違いない。翔虎も私も何もしてなかったもの。本人にその意志はなかったかもだけど、無意識にもとに戻りたいって思って、変身が解除されたのかもね」

「それじゃあ、まだストレイヤーは、テラの中に?」

「うん……」

「なあ、直」

「何?」


 翔虎と直はゴーグルを向け合い、


「直、テラがストレイヤー化するところを見たのか?」

「う、うん」

「じゃあ、何が変身のきっかけだったか、わかる?」

「えっ? それは、わからない。私といて、突然、だったから……」

「直と? 二人だけだったってこと?」

「ううん。楓も一緒だったんだけど……あ、楓はトイレに行くって言って、いなくなったんだっけか」

「……」

「どうしたの? 翔虎」

「い、いや……」


 翔虎は直の、ディールガナーのゴーグルから視線を外した。


「翔虎こそ、わからない? 深井(ふかい)と三人で、いつも一緒にいるでしょ。寺川くんのしたいこと、欲求とか、私より知ってるんじゃない?」

「そ、それは、僕にも……わからない」


 翔虎は視線を空に向けた。ぽつり、と、黒いゴーグルに水滴がいびつな楕円模様を作った。頭上に垂れ込めた黒い雲が、ため込んていた水を雨として地表に落とし始めていた。


――2017年1月15日

現在、ディールナイトとディールガナーが使える武装は……


スペード 2 ダガー

スペード 3 ショートソード

スペード 4 レイピア

スペード 5 ジャベリン

スペード 6 ロングソード

スペード 7 バトルアックス

スペード 8 バトルハンマー

スペード 9 ハルバード

スペード 10 グレートソード

スペード J ???

スペード Q ウイップソード

スペード K サムライソード

スペード A ディールナイトエース


ダイヤ 2 小型リボルバー銃

ダイヤ 3 小型オートマチック銃

ダイヤ 4 大型リボルバー銃

ダイヤ 5 大型オートマチック銃

ダイヤ 6 ショットガン

ダイヤ 7 サブマシンガン

ダイヤ 8 アサルトライフル

ダイヤ 9 スナイパーライフル New!!

ダイヤ 10 対物ライフル

ダイヤ J ガトリングガン

ダイヤ Q ???

ダイヤ K ロケットランチャー

ダイヤ A ???


クラブ 2 スローナイフ

クラブ 3 トンファー

クラブ 4 ???

クラブ 5 チェーンハンマー

クラブ 6 チェーンソー

クラブ 7 ドリルアーム

クラブ 8 パイルバンカー

クラブ 9 大型ブーメラン

クラブ 10 ???

クラブ J バイク

クラブ Q ローターユニット

クラブ K ???

クラブ A ディールドローンα


ハート 2 小型シールド

ハート 3 大型シールド

ハート 4 ワイヤーアーム

ハート 5 ショベルアーム

ハート 6 タワーシールド

ハート 7 シザーピンチ

ハート 8 フレキシブルアーム

ハート 9 ???

ハート 10 パワーブーツ

ハート J バギーカー

ハート Q ウイングユニット

ハート K ???

ハート A ディールドローンβ

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