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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第51話 クリスマスコスプレ大作戦
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第51話 クリスマスコスプレ大作戦 1/5

 戦いを終え、戦場であった廃工場をあとにした翔虎(しょうこ)(なお)は、町から遠かったこともあり、亮次(りょうじ)に迎えに来てもらわず、飛行ユニットを使って帰路に就いた。

 道中、言葉少ないままに自宅近くに到着し、変身を解いた二人は、同時に大きくため息をついた。それは第二生徒会との戦いを終えたという安堵よりも、疲労感のほうが多かったせいかもしれない。ため息のあと、大きく深呼吸した翔虎が、


「これで、ひとつ終わったんだな」

「そうね。長い戦いだったわね」


 直も感慨深そうに言った。


「直、でも、僕がひとつ気になったのは、チェックメイトが出て来なかったっていうことだ」

「ああ、言われてみれば、そうね。これまでも何度か第二生徒会の加勢に現れてたものね」

「これで、残るは、チェックメイト、ゾディアークと、ジョーカーズか」

「ストレイヤーもね。えーと、残り……いくつ?」

「ジョーカーズが保持してる武装もあるから、残りの数を把握しずらいな」

「亮次さんと会議する?」

「……またにしよう。今日は疲れた」

「そうね。何て言っても、テスト期間中だしね」

「……そうだった」

「翔虎、明日は遊びに行ったらダメだよ。ちゃんと家で勉強するのよ」

「わかってるよ。出掛けようったって、疲れて無理だよ」

「寝てばっかりでもダメだよ。じゃあね、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 二人は手を振り合って帰宅した。



 期末考査の最終日、最後の試験時間終了のチャイムが鳴った瞬間、全校に生徒たちの安堵のため息が漏れた。

 帰りのホームルームを終えた三年二組の教室で、帰り支度を整えた烏丸紘一(からすまこういち)が席を立つと、


「烏丸くん、ちょっといいかしら」


 生徒会長霧島凛(きりしまりん)が教室に入ってきて声を掛けた。凛は烏丸を生徒会室に連れて行く。


「何でしょうか」

「烏丸くん、これは受け取れません」


 生徒会室に入ると、凛は烏丸から提出された、第二生徒会会長の辞任願いを机に置いた。


「せっかくの第二生徒会。初代会長が辞任だなんて、後輩たちに格好つかないわよ」

「会長、第二生徒会という組織自体が、もう……」

「続けてくれるわよね」


 凛は烏丸の目を見る。烏丸は深々と一礼してから、


「……はい、わかりました」


 烏丸は自らが提出した辞任願いを懐に収めた。凛は微笑んで、


「よし、決まりね。ねえ、烏丸くん、クリスマスパーティーは出席するんでしょ?」

「ええ、出席というよりは、生徒のみんなが羽目を外してしまわないかと見回りをしようと思いまして」


 それを聞くと凛は、くすりと笑って、


「なあにそれ。烏丸くんらしいわね。でも、大丈夫よ、そういうのは正規の生徒会の仕事だから」

「いえ、そういうわけには」

「ま、話っていうのは、それだけ。烏丸くん、今後とも頼りにしてるわよ」


 凛に言われると、烏丸はもう一度頭を下げた。


 東都学園高校では、毎年二学期終業式の次の休日に、校内上げてのクリスマスパーティーを催すこととなっていた。体育館での立食パーティーと、そこでのステージイベントが行われる。



 生徒たちを緊張から解き放った試験終了を告げるチャイムは、一年四組の教室にも響き渡っていた。


「終わったぁー!」


 深井弘樹(ふかいひろき)は机に顔を付け、手脚をばたばたと動かした。


「何だよヒロ、気味が悪りーよ!」


 後ろの席の翔虎が怪訝な表情で言った。一年四組は何回か席替えを行っており、今は翔虎、弘樹、寺川巧(てらかわたくみ)の三人組に直も加えた四人は、固まった一角に席を並べていた。弘樹は顔を上げると、隣の寺川と後ろの翔虎に、


「テラ、ショウ、遊びにいこうぜ」

「愚問だぞ、ヒロ。試験最終日が終わって遊びに行かない高校生がどこの世界にいる」

「テラ、名言が出た」


 弘樹に同調して会話を交わす寺川と翔虎を見ながら、翔虎の隣席の直は、


「すぐに気を抜くのは、お前たちの本当に悪い癖だな。冬休みは短いんだから、あまり浮かれてもいられないわよ。それに、明日の終業式が終わったら、その翌日はクリスマスパーティーじゃない」

「ああ、そうだった」


 翔虎は頭に手を当てた。今年の終業式は十二月二十二日で、一番早い休日は翌日、二十三日の天皇誕生日となる。よって、終業式が終わったら次の日に即、クリスマスパーティーとなる予定だった。


「何だよ、ショウ、お前、クリスマスパーティーのこと忘れてたのかよ。珍しいやつだな」

「あ、いや、ちょっと色々と忙しくてさ……」

「そういや、お前、土曜日も途中でいなくなったよな。やっぱりカラオケは最低三人いないときついぞ。すぐに順番が回ってくる」

「あ、ああ、あれは……」


 弘樹と寺川からの追求を受けた翔虎は、ちらりと直を見た。直は、じとりとした視線で翔虎を見ていた。



 文芸部室には、美波(みなみ)とこころの二人だけが集まっていた。美波は試験前に、「今日の部活はなしにします」と翔虎と直に伝えており、矢川(やがわ)も了承済みだった。部室の窓には昼間だというのにカーテンが引かれ、ドアも施錠されていた。密室と化している文芸部室の中では、


「どう? こころちゃん」

「みなみな先輩! やったです! 最高です!」


 美波が腰を曲げてポーズを取り、その前ではこころが喝采を送っていた。美波の制服は机の上に畳まれて置かれている。現在美波は、白と青のビキニアーマー、すなわちディールナイトのコスプレ衣装を身に(まと)っていた。右手にはボール紙で作った剣も持っている。


「でもこれ、凄くよくできているです」


 こころは美波の肩アーマーを指で突いた。


「でしょー。こういうのに凝ってる友達がいてね。何かのイベントで使ったものを貸してもらったの」


 美波はその場でくるりと一回転した。


「し、しかし、みなみな先輩がディールナイトのコスプレをすると、ディールガナーになってしまいますな。いや、本物のディールガナー以上に、ここの大きさが……」


 こころは、はあはあ、と息を漏らしながら美波の胸に手を当てた。


「こればっかりは仕方ないよー。実際以上に大きく見せることはできても、小さくはできないからねー」

「で、当日は尾野辺(おのべ)のやつがこれを着るわけですか、想像しただけで、うぷぷ……」


 こころは手で口元を押さえた。


「ううん、翔虎ちゃんのは別に用意してあるわよ。直のもね」


 と美波は部室の隅に置かれている袋を見た。


「え? そうなんですか」

「うん。何でもディールナイトとディールガナーのコスプレって、結構人気みたいで、色々なところで衣装が作られてるの。だからね、こころちゃん、もしかしたら、パーティー会場はディールナイトとディールガナーだらけになる可能性があるわよ」

「えー、それじゃあ、尾野辺のやつが目立たなくなっちゃうです。つまんないです」


 こころは口を尖らせた。



 翌日。二学期終業式が行われ、壇上では学園理事長、神崎雷道(かんざきらいどう)の話が続いている。

 翔虎と直は、チェックメイトがゾディアークのことを見て『神崎』と呟いたことを知ったあとから、毎週月曜日や行事の度に壇上に立つ神崎の姿を、注意深く観察することにしていた。そして休み時間や放課後に顔を合わせては、観察した印象、すなわち、ゾディアークの正体が神崎理事長であるか、を報告しあっていた。だが、その答えはいつも同じ、「わからない」


 終業式が終わると体育館では、生徒会メンバーが中心となってクリスマスパーティーの準備が行われた。準備メンバーは、生徒会、第二生徒会に加え、手の空いた生徒有志で構成されている。円山友里(まるやまゆり)、烏丸たちも準備作業を行っているのを見た翔虎は、「ちょっと様子を見てくる」と直を先に文芸部室に向かわせて、自分は準備の手伝いに入った。


「烏丸先輩、手伝います」


 翔虎はテーブルを運んでいる烏丸に近づいた。


「おお、尾野辺くんか」


 烏丸は微笑んで翔虎を迎える。翔虎は烏丸と協力して机を運びながら、


「先輩、第二生徒会の様子は、どうですか?」

「どう、って?」

「あ、いえ。ほ、ほら、相変わらず忙しくしてるみたいだし……」

「いや、そうでもないさ。試験期間中に怪物騒ぎが起きるかと心配されていたけれど、それもなかったしね」

「ええ、そうですね。おかげで試験に集中できました」

「はは。尾野辺くん、その言い方だと、まるで怪物が出現するのに備えてたみたいに聞こえるぞ」

「え? い、いや、違うんですよ! そんなことじゃなくて、僕は純粋に心配をしていてですね……」

「わかってるって。尾野辺くん、そんなにムキになって否定しなくても大丈夫だよ」

「そ、そうですよね……はは」


 所定場所に机を置いた翔虎は、額に浮いた汗をぬぐった。労働によるものか、動揺したせいで吹き出たものなのかはわからない。翔虎は周囲を見回して、友里の姿に目を止めた。


「烏丸先輩、円山先輩に、何か変わりはないですか?」

「ん? どうしてだい? 円山くんのことが気になるのか?」

「あ、そ、そういうわけじゃなくてですね……」

「そうだ。尾野辺くん、ここはいいから、円山くんのところを手伝ってあげてくれないか」

「は、はい」


 翔虎は烏丸を離れ、友里のもとに近づいていった。


「円山先輩」

「ん? ……ああ、君は確か、一年の」

「はい、尾野辺です」

「ああ、そう、尾野辺くん。ゲームセンターでは世話になったね」


 翔虎は、「はは」と頭を掻いた。


「ふふ、君のことは、霧島会長や美波からも聞いているよ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、美波のお気に入りなんだろ」

「え? お、お気に入りって……」

「美波好みの、かわいい男の子だもんな」

「は? い、いえ……」

「ふふ。確かに、かわいい顔してるよな」


 友里は笑みを浮かべながら翔虎の頭を撫でた。


「ちょ、ちょっと……」


 翔虎が顔を赤くして狼狽えると、友里はますます面白がって、髪をくしゃくしゃとかき回した。


「ふふ、ごめんね」


 友里は笑いながら翔虎の髪を整えてやる。


「円山くん、この飾り付けはどうする?」


 壁際に立てた脚立の上から、中村(なかむら)が友里を呼ぶ声が聞こえた。


「ああ、それは……」


 と脚立の下に歩いて行く友里に翔虎もついていく。


「おお、尾野辺くんじゃないか」


 翔虎の姿を見つけた中村が声を掛けてきた。


「な、中村先輩、体、大丈夫ですか?」

「いやー、まだちょっと腰の辺りの痛みが引かなくてね……ん? 尾野辺くん、どうして私の体が悪いこと知ってるんだ?」

「あ! い、いや、そ、そうです、中村先輩、何だか動きが、ぎこちなかったから……」

「本当かい? 凄いな尾野辺くん、動きを見ただけで体の不調を見抜くなんて、漫画に出てくる格闘家みたいだぞ」

「い、いや、ははは……」

「ああ、そういえば、尾野辺くんは剣道やってたんだよな。そのせいかな」

「そ、そんな達人レベルでは、到底……」


 翔虎は突きだした両手を振って否定する。それを聞いた友里は、


「そうなのか。じゃあ、うちの烏丸会長とも接点があるのかな?」

「はい、僕の母親が剣道の師範で、烏丸先輩も教え子だったんです……あ、そうだ、僕、烏丸先輩に円山先輩にことを手伝ってくれって言われて」

「そうか、じゃあ、中村、代わってもらうか?」

「そうしてもらえると有り難い。この体勢は腰にくるものでね」


 中村は腰を支えながら脚立を下りた。「すみません」と詫びの言葉を口にする翔虎に、「どうして尾野辺くんが謝るんだ」と中村は笑った。 

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