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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第1話 ディールナイト誕生!
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研究員の日記 四月十一日(プロローグ 3/25)

 研究員の日記 四月十一日


「あの〈遺跡〉は、チューブの中に入れたものを破壊するだけだと?」


 昼休みに私は研究施設内のラウンジで、テーブルを挟んで向かい合った山根(やまね)という名の先輩研究員に訊いた。


「わからんよ」


 山根はそう言って砂糖とミルクを投入したコーヒーカップの中身をマドラーでかき回して、


「まあ、得られた実験結果を見たら、そうとしか言えんがね」

「一旦消えてしまうのには意味があるんでしょうか」

「色々試してみたんだよ」


 山根はコーヒーをひと口飲んでから、


「チューブの中に入れたものが一度消えた状態で、またチューブを開けて別の物を入れて動かしてみた」

「どうなったんです?」

「動かなかった。全く同じ操作をしても、何も起きなかった。新しく入れたものを取り除いて、操作をすると、今度は間違いなく動く」

「チューブの中は?」

「同じだよ。前に入れて消えたものがボロボロになって帰ってくる」

「どういうことなんでしょう」

「仮説はあるな。あの遺跡は、物質転送装置なんじゃないかっていう」

「物質転送……あのチューブの中に入れたものが消えるのは、どこか別の場所に……テレポーテーションしてしまうからだということですか?」

「ああ、どこかにあの遺跡とまったく同じ物がもうひとつあって、そこのチューブの中に飛ばされるんじゃないかと。それなら、さっき俺が言った、一度中のものを消した状態で、もう一度別のものを消すことができない、ってのも説明が付くだろ」

「転送先に、前に消したものがすでにあるから、新しく別の物を送ることはできない、ということですか?」


 山根は頷いて、コーヒーを喉に流し込んでから、


「そして、ものを消した状態で、もう一度同じ操作をすると、転送先の遺跡のチューブにあるものが、再びこちらに送り返されてくる、ってことだな。

 こちらから向こうの遺跡を操作出来ているということになるが、エレベーターみたいなものだと思えばいいな。エレベーターが一階にあっても、最上階から呼び寄せることができる。

 あと、今のところ意味のない機能だから、使うことはないが、装置発動のタイマー機能もあるんだよ」

「タイマー機能?」

「約五秒から十五秒くらい遅れて装置を起動させることができる。カメラシャッターのセルフタイマーのようなものだ。この機能の意味がわかるか?」

「そのものずばり、タイマーということですね。ひとりでも自分自身の転送ができるように。タイマーをセットしてチューブに入る。タイマーの時間が来たら装置が作動する、ということですね」


 山根は頷いて、もう一度コーヒーを飲み、


「そうだ。こんな機能が付いてるんだ。転送装置っていう仮説も真実味を帯びるだろ?」

「しかも、セルフタイマーという機能から考えるに、やはり、あれは人間が入るものだと? それにしたって、転送されたものが破壊されてしまうというのは、どういうことなんでしょう?」

「それについてはさっぱりだ」

「向こうの遺跡にも、同じように誰かがいるんでしょうか?」

「そいつらが、わざわざ送られてきたものを壊してるってか?」

「そこまでは……」

「今の話だって、仮説の域を出ない。誰も確認したわけじゃないんだからな」

「確認……」

「しかしな、あそこまで辿り着くのも大変な苦労だったんだぜ。マニュアルも何もない状態から、おっかなびっくり、やりながらな」


 確かにそれには全面的に同意する。山根の話は続く。


「人里離れた山奥の洞窟の中から、あんな奇妙な部屋が見つかっただけでも大事なのに、『何とか動かしてみろ』だとさ。偉い人はいいよな。視察とか言って一度見に来ただけで、後は遠く離れた安全な場所から命令するだけだ。もし変なのに触って、爆発でもしたらどうするんだって」


 全くその通りだ。

 最初は遠隔操作のロボットで試したそうだ。壁の計器のような模様は、どうやら操作パネルらしいとは見当を付けていたが、ロボットの樹脂製の指が初めてそれに触れ、おぼろげな光を放った時は、悲鳴と歓声がロボットの操作ブースにこだましたと聞く。

 色々なパネルの操作順を試し、中央の透明なチューブを開け、閉めて、チューブ内を光らせるまでの手順を発見するまで、数週間の期間を要したという。


「あのチューブの中に何か入れてみようと最初に言い出したのは、やっぱり所長ですか?」

「もちろんそうだよ。あの人は何でもやってやろうって考えの人だからな」


 昨日の実験結果をひと言も発することなく、黙って見届けていた藤崎所長。

 何でも、チューブの中に入ってみると真っ先に言ったのも所長だったという。所員全員が止めたが、その判断は正しかったということだ。


「『この大きさ、どう見ても人が入るものだろ』とか言い出してな。さすがに、いきなり人体実験をやるなんてわけにはいかないから、最初は空の段ボール箱を入れたんだよ。チューブを開けて、閉めて、光らせる。段ボール箱が消えたときは、そりゃ驚いたよ。その状態でもう一度同じ操作をしてくれとすぐに指示を出したのも所長だ。その結果を見たら、さすがの所長も顔を青くしてたがね」


 再び光で満たされるチューブの中、光が止むと、消えた段ボール箱は帰ってきたが、ズタズタに引き裂かれた状態になっていたという。昨日、私が見たパソコンのように。


「それからは何をやっても結果は同じさ」


 山根はコーヒーを一気に飲み干した。


 その後の実験結果は、全て記録で読んだ。添付されていた写真やアーカイブ映像でも確認した。

 椅子、棚などの家具類、テレビ、掃除機などの電化製品、食料品から植物に至るまで、あらゆるものを試してみたが、結果は一緒だった。

一度目の操作で消えて、もう一度操作をすると帰ってくる。ただし、例外なく粉々に、ズタズタに破壊されてしまった状態で。


「人体はともかく、動物実験は行っていないんですか?」

「みんなやってみたいって思ってるよ。でも、所長がそういうの嫌いでな」

「動物好き、なんですか?」

「ああ、家は、犬やら猫やらハムスターやら、動物園みたいになってるって話だ。だがまあ、動物実験に着手するのも時間の問題だろうな。いかな所長とはいえ、いつまでも上からの命令を突っぱね続けることはできないだろう」

「そうですよね……ちなみに、明日は何で実験するんです?」

「パソコンだよ」

「またですか?」

「今度はモニターやキーボードなんかも一緒に入れてみるそうだ。何が変わるとは思えないけどな。あのパソコン、どうせもう使わなくなった旧式のものだからな。廃品処分でも兼ねてるのかもしれん」


 山根はそう言って笑い、時計を見てから席を立つと、空になったコーヒーカップを持ち、手を振ってラウンジを出て行った。

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