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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第45話 黒か白か
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第45話 黒か白か 4/5

 翔虎(しょうこ)(なお)は、亮次(りょうじ)の部屋に寄った。直の口から、学校でのことを聞いた亮次は、


「まさか、こんなに早く、こんな形であの男性のことがわかるとはな。しかも、チェックメイトの正体らしき人物まで……」


 腕を組んで座卓に置かれた世良(せら)の名刺を見た。


「亮次さん、これから、どうします?」


 直が訊くと、亮次は名刺を取り上げて、


「まさか、ここに殴り込むなんていうわけにもいかないからな。〈ジョイ・パートナー〉か。大きな会社なのかい?」

「いえ、地元の小さな芸能プロダクションですよ。とても、ディールナイトを巡る戦いに関与しているとは思えないような。あそこで名前が売れてるタレントって、峰岸葵(みねぎしあおい)だけなんじゃないですか」

「そうなのか。あ、あの、第二生徒会の子の所属は、ここじゃないのかい?」

「ゆーのんですね。全然違いますよ。ゆーのん、ことYU-NO(ユーノ)は、〈アーシークロミア〉っていう大きな事務所ですよ。ここは有名タレントやモデルが大勢所属してるんですよ」

「なるほどな。どれ、ホームページくらいあるだろ、ちょっと見てみようか」


 亮次は座卓からパソコンの前に移動してブラックアウトしていたモニターを復帰させた。インターネット閲覧画面を呼び出すと、検索欄に〈ジョイ・パートナー〉と入力する。検索結果の一番上に、〈株式会社ジョイ・パートナーホームページ〉の文字が現れた。亮次はマウスカーソルを持って行き、文字列をクリックする。

 表示されたホームページを、亮次の後ろから直と翔虎も覗き込む。亮次はカーソルで〈所属タレント・モデル〉の欄をクリックした。


「結構大勢所属してるんだね」


 格子状の枠に並んだ顔写真を見て、翔虎が言った。


「うん。でも、大手はわからないけど、こういう小さな事務所のタレントやモデルさんって、専業なんてほとんどいないらしいわよ。普段は普通の仕事やアルバイトをして、仕事があるときだけ芸能活動をするんだって。ジョイ・パートナーで専業タレントなのは、葵ちゃんだけだって聞いたことあるよ」

「へえ、厳しい世界なんだね」


 直の言葉に、翔虎は改めて画面を眺めた。その間に、亮次は峰岸葵の欄をクリックして、葵のプロフィールを表示させていた。


「ちょっと、亮次さん、何見てるんですか」

「い、いやね、意外と凝った作りだなって思って……」


 直の鋭い声に、亮次はマウスを動かす手を止めた。プロフィール画面は、身長体重などの基本情報の他に、宣材写真が数枚置かれ、マウスオーバーすると写真が拡大表示されるなどの機能があった。亮次が動かしたカーソルは、葵の水着姿の写真の上で止まっていた。

 直は手を伸ばして亮次の手からマウスを奪うと、モニターをトップ画面に戻した。


「あ、ここ」


 直はトップページに表示されたメニューのひとつにカーソルを持って行く。


「所属タレント・モデル募集中?」


 翔虎がそのメニューに書かれた一行を読み上げた。直がクリックすると、別ウインドウが開き、

〈ジョイ・パートナーでは、所属タレント・モデルを随時募集しております。以下アドレスに上半身と全身が写った写真を添付のうえご応募下さい。郵送の場合は、以下住所宛にご応募下さい〉

 説明と一緒にメールアドレスと、会社の住所が記載されていた。


「亮次さん、殴り込みは無理ですけど、これならいけるんじゃ?」

「いけるって、まさか、直……」


 直の静かな声に、翔虎は不安そうに訊いた。


「チェックメイトの正体の世良っていう人にも接近できます」

「直!」


 翔虎の声は構わず、というふうに直は亮次に話しかけ続ける。


「私、旅館で会ったときも、今日も、オーディション受けないかって誘われたんですよ。向こうからの誘い水だから、一切怪しまれることもないと思います」

「直! 危険だって!」

「どうしてモデルのオーディションに行くことが危険なの?」


 ここでようやく直は翔虎を向いた。


「だって、敵の本拠地かもしれないんだぞ!」

「私たちの正体はバレてないんだよ。危ないわけないじゃん」

「で、でも……」

「どうですか、亮次さん」


 直は再び亮次に声を掛けた。


「そうだな……内情視察という意味では、絶好の機会かもな」

「な! 亮次さんまで!」

「翔虎、何をそんなにいきり立ってるの?」

「いきり立つって……そういうんじゃなくって……」

「直くん、確かに翔虎くんの言う通り、何があるかわからない。私もついていこう」

「亮次さんは、葵ちゃんに会うのが目的でしょ」


 直の声に、きりり、とした表情になった亮次は固まった。


「ぼ、僕も……」

「ちょっと! 子供のお使いじゃないのよ。そんなに何人もぞろぞろ連れて歩いてたら、おかしく思われるって」

「で、でも……」


 直に捲し立てられて、翔虎は声のトーンを落とした。


「直くん、もう何人か誘ったらどうだ? 人数が多いほうが向こうの目も分散されて、何かと都合がいいんじゃないか?」

「あ、それはいいアイデアですね。そうですね……あけみも誘おうかな。ちょっと地味だけど、ああいったタイプも需要あると思うんですよ」

「直くん、私は、何と言っても部長さんと生徒会長さんを推薦するね」

「推薦って、亮次さん、何キャラなんですか……」


 翔虎が静かに突っ込んだ。


南方(みなかた)先輩と会長ですか。そうですね、あの二人を連れて行ったら、みんなそっちに視線が釘付けで動きやすくなるかも」

「こころくんみたいな、個性的な子もいいんじゃないか?」

「あー、でも、こころ先輩は南方先輩が行くって言えば、勝手についてくるかも」

「プールで一緒だった、サッカー部のマネージャーと、もうひとりの子はどうだい?」

香奈(かな)(かえで)ですか。いいですね。みんなで行こうかなぁ……」

「直、遊びに行くんじゃないんだぞ」

「何よ、翔虎は来なくていいからね」

「ちょ! 何でだよ!」

「付き添いは亮次さんひとりで十分だから」

「何で亮次さんはよくって、僕は駄目なんだよ!」

「ねえ、翔虎、さっきから何に怒ってるの?」

「お、怒ってるとか、そういうんじゃ……亮次さん! いいんですか?」

「私は問題ないと思うよ」

「この人、付き添いにかこつけて峰岸葵に会いたいだけだ!」

「直くん、そうと決まれば、さっそく写真を撮ろう」

「ええ……って、あーダメだ。こんなことなら日曜日に美容院行くんだった! 週末に行ってきますから、撮影はそのあとにして下さい!」


 直は髪の毛をいじって悔しそうな表情になった。


「直くん、週末に美容院に行って応募して、次の週末に面接、なんてなったら、もう期末試験の直前だろ。早いほうがいいよ」

「うーん……でもなー……」


 直は鞄から鏡を出してしきりに覗き込んで、


「やっぱり、今はダメ! 私、明日、南方先輩たちにこのことを話すんで、メンバーが決まってから具体的に作戦を立てましょう」


 直は鏡をしまって、


「あ、というかですね、私、直接声を掛けられたんだから、わざわざ写真応募なんてしなくても、その世良っていう人に直接電話すればいいんですよ! 南方先輩たちも、旅館で同じように声を掛けられてたんだし」


 直は、ぽん、と両手を合わせて、座卓に置かれたままの名刺に目を向けた。


「そ、その世良っていう人、誰それ構わず、会う女の子みんなにそう言って声掛けてるんじゃないの?」

「何、翔虎。今日はいやに突っかかってくるね」


 直は、手を合わせたまま、じとり、と翔虎を睨む。


「つ、突っかかるとか、そういうんじゃないから……」

「よしっ……」


 直は携帯電話を取り出すと、世良の名刺に書かれた携帯番号を眺める。


「え? 直、もう電話するの?」

「亮次さんが言ったように、期末試験があるから、早いほうがいいでしょ」

「で、でも、まだ南方先輩や会長に話もしてないし……」

「先に、この世良って人のアポを取らないと。社会人だから忙しいだろうし。みんなの都合がつかなくても、いざとなったら私ひとりでもいいよ」

「ひとりでって、直!」

「しーっ!」


 ダイヤルし終えた直は携帯電話を耳に当てると、人差し指を唇に当てて翔虎を睨んだ。


「……出ないわ」


 呼び出し音を数回鳴らしても応答はなく、直は携帯電話を切った。


「直、この隙に、南方先輩か会長に電話したら?」

「うーん、それは明日学校で、でいいかな」


 直は携帯電話をしまうと、


「それじゃ、亮次さん、私たちはもう帰りますね」


 と腰を浮かし、


「何か進展があったら連絡しますから。ほら、もう遅いよ、翔虎も、帰ろ」


 翔虎にも帰宅を促した。



「ねえ、翔虎は、オーディションに行くことに反対なの?」


 亮次のアパートからの帰り道、直は翔虎に訊いた。


「反対とか、そういうのじゃなくって……」

「じゃあ、どうして阻止しようとしてたの?」

「そ、阻止しようとなんて、してないじゃないか」

「してたよ」


 翔虎は黙った。直は、返答を待っていたようだったが、翔虎が何も言わないため、諦めたように正面を向いた。


「な、直ならさ……」


 唐突に翔虎が口を開いた。


「ん?」


 直は首を傾げて翔虎を見る。翔虎は、直とは視線を合わせずに、


「……直なら、絶対受かっちゃうって」

「受かるって……もしかして、オーディションに?」


 翔虎は、こくり、と頷いた。直は、ぷっ、と吹きだして、


「どうして?」

「どうしてって……」


 が、翔虎は、そのあとを続けず、直と目を合わせもしなかった。


「ねえ」

「わっ!」


 直が突然、覗き込むように翔虎に顔を近づけて、翔虎は声を上げた。二人は立ち止まる。直は、間近から翔虎の目を見たまま、


「ねえ、どうして私が受かっちゃうの?」

「そ、それは……」

「それは?」

「直……か、かわいいから……」


 翔虎は言ったあと、顔を赤くして横を向いた。直は、きょとんとして固まったが、


「ぷっ……何それー! 翔虎!」


 吹き出すと、堪えきれないといった様子で笑い出した。


「な、何がおかしいんだよ!」

「だってー……真顔で何言ってんの? 翔虎ー」


 電柱に手を突いて笑う直を見て、翔虎はさらに赤くなる。


「ねえ」


 直は電柱から手を離して、翔虎のそばに寄ると、


「私がオーディションに受かると、翔虎は嫌なの?」

「い、嫌とか、そういうんじゃ――」

「嫌がってたじゃん。翔虎は私にオーディションを受けてほしくない。で、翔虎は私がそのオーディションに受かると思ってる。この二つの事柄から導き出される答えは、翔虎は、私がオーディションに受かることを嫌がってる」

「……」

「でしょ?」


 直は首を傾げた。翔虎は何も答えない。直は翔虎の目を覗き込み、


「心配?」

「え?」

「私が、モデルとかタレントになると、心配?」


 翔虎は黙って頷く。直は微笑むと、


「バカ」

「な、何がバカなんだよ!」

「ふふ」


 直は翔虎の頭を撫でると、


「心配しなさんな。これは相手の懐に潜り込むんで偵察する作戦なんだから」

「そ、それはそうだけど……」

「それにさ、受かるって決まってるわけじゃないじゃん。私なんて、どう見てもモデルとかタレント向きじゃないし」

「そ、そんなことないだろ……」

「何? 翔虎は私に受かってほしいの、受かってほしくないの? どっちなの?」

「そ、それは……」

「ねえ、翔虎、少し背伸びた?」

「え?」


 唐突に話題を変えられ、翔虎は直を見つめる。直は、


「私、翔虎と目を会わせるとき、もうちょっと屈んでたと思うんだけど。ね、背、伸びたでしょ?」

「さ、さあ、別に普段計ってないから……」

「ふふ、高校の間に追い越されちゃうかもね」

「そ、それは……」


 直は、もう一度翔虎の頭を撫でて、手を離すと、


「じゃあね。翔虎、また明日」


 直は、すぐそばの翔虎の家の玄関を通り越すと、手を振り、走っていった。  

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