第31話 ディールナイト死すべし 5/5
「富士崎先輩!」
「大丈夫?」
翔虎と、すぐに立ち上がった直は寧々のもとに駆け寄る。
寧々は目を閉じて倒れたままだったが、その胸が上下に動いていた。直が口元に耳を近づけると呼吸音も聞こえた。
「い……生きてる……」
直はその場にぺたり、と座り込んだ。
「よ、よかった……」
翔虎も安堵の息を漏らした。
直は、浮かび上がっていたままのプログラム光球に手を当てて回収すると、
「翔虎、後ろ向いてて」
「え? どうして?」
「服の下に傷とかないか、調べるから」
「あ、ああ――」
翔虎は、くるりと回れ右をした。
直の調べで、寧々の体には特に外傷はないことが確認された。
「富士崎先輩、どうしよう?」
翔虎が気を失っている寧々を見下ろす。
「とりあえず、起こそう」
直は変身解除して、寧々の上体を抱き起こす。翔虎も変身を解除した。
「大丈夫ですか、富士崎先輩」
直は数回呼びかけて体を揺すると、寧々はゆっくりと目を開けた。
翌日の放課後、試験期間中ではあったが、文芸部室には部員全員に、凜、あけみを加えたメンバーが出そろっていた。
昨夜、直と翔虎は河川敷をパトロール中、ディールナイト、ディールガナーと交戦中の寧々を発見。寧々が倒されると、直と翔虎はディールナイト、ガナーに寧々を託され、家まで送り届けた。直はそう話を作り上げて皆に語った。
「富士崎先輩には、ジョギング中に倒れて気を失ったところを、たまたま私と翔虎が見つけて助け起こした。と言っておきました」
最後に直は付け加えた。それを聞いた矢川は頷いて、
「懸命な判断だね。自分が怪物になったなんて、知らないほうがいいもの」
「それで、寧々のことなんだけど」
凜が話を引き継いで、
「わかったわよ、寧々がディールナイトを恨んでいた理由」
「本当ですか?」
いち早く反応したのは翔虎だった。
「ええ、寧々の付き合ってる彼氏がね、ディールナイトのファンなんだそうよ」
「……え? それだけ?」
拍子抜けした表情の翔虎に、凜は、
「それはひとつのきっかけに過ぎないの。色々な事柄が重なって、寧々の心に大きなダメージを与えてしまったのよ」
凜は、こほん、と咳払いをしてから、
「まず、寧々がどうして陸上部を辞めたかっていうとね。あの胸のせいなの」
「む、胸?」
翔虎の言葉に、凜は頷いて、
「そう、寧々はね、高校一年の途中くらいから、急に胸が成長しだしたんだって。で、あれだけ大きいと、どうしても走るのに邪魔になるじゃない?」
「……ああ」
翔虎は呟いた。
「ねえ、想像した?」
直の突っ込みに、
「――し、してない!」
翔虎は慌てて首を横に振った。
「男子の視線とかも、すごく気になったらしくてね、我慢しきれなくなって、二年の一学期で陸上部を辞めたの。でも、寧々は走ることは好きで、だから誰の目も気にしないで済む夜中に、堤防道路をジョギングするのを日課にしてたそうよ。そんな中、彼氏がディールナイトのファンになったって知って。寧々はディールナイトを憎むようになったんじゃないかしら」
「……今の話で、どうしてディールナイトが恨まれなきゃならないんです?」
翔虎の疑問に、凜は、
「だって、寧々は自分の大きな胸に強いコンプレックスを持ってたのよ。それが理由で好きな部活も辞めた。そこへ、彼氏がディールナイトのファンだなんて知ったら、ねえ……」
凜は一同を見回した。全員が、うんうん、と頷いた。翔虎以外の全員が。
「え? え?」
翔虎ひとりだけが、きょろきょろと全員を見回す。
「尾野辺、お前、本当に鈍いですね」
こころは、ため息をついて、
「ディールナイトは、超が付くド貧乳じゃないですか」
「……ああっ!」
頭を抱えた翔虎を見て、凛は笑って、
「そうなの。寧々にしてみたらね、自分が大きな胸にコンプレックスを持ってる最中、彼氏が胸の小さいディールナイトのことが好きだ、なんて知ったら……」
「ディールナイト死すべし、か」
ため息をついて矢川が言った。
「そ、そんなことで?」
翔虎は少しばかり呆れた顔をして皆を見回す。
「そんなこと、なんて言うけど、翔虎ちゃん。女の子にとっては大事なことよ」
美波が翔虎を諭した。矢川は微笑むと、
「でも、それで憎しみの対象が彼氏じゃなくて、ディールナイトのほうに行くなんて、富士崎さんもかわいいじゃないですか。彼氏のことは憎めないってことでしょ」
「女心ですねー」
あけみも、うんうん、と頷いた。
「そんな。ディールナイトにとっては、完全な〈とばっちり〉じゃないですか! 理不尽です!」
翔虎が訴えたが、
「女の子の恋心には理屈は通用しないの。尾野辺くん、憶えておいてね」
凜が翔虎にウインクした。
「は、はあ……」
翔虎は顔を赤くして、
「それで、富士崎先輩は?」
「今朝話したけれど、怪物化していた最中の出来事は、全て夢だったって納得してくれたみたい。ジョギング中に疲労から倒れて、そこへディールナイト憎し、の感情から、あんな夢を見たんだって。一昨日も、ジョギング中に意識を失って、気が付いたら堤防道路の下で倒れていたそうよ」
「そうですか……」
翔虎は、そっと安堵の息を漏らした。それを横目で見た直も、かすかに微笑んだ。
「さあ」
凜は、ぽん、と手を叩くと、
「一件落着したんだから、もう帰った帰った。テスト期間中よ」
ええー、はいー、と、各々声を漏らしながら、文芸部室の集会は解散となった。
試験期間中にも関わらず遅くまで残っていたため、校門前のバス停でバスを待っているのは翔虎と直の二人だけだった。
翔虎は夕暮れも西の空に僅かに残るだけの空を見上げて、
「富士崎先輩がディールナイトを憎む理由はわかったけど、ストレイヤー化しても自我を保っていた謎は解けなかったな」
「そうね……」
直は翔虎を向いて、
「ねえ、翔虎」
「何?」
「ディールガナーよりもさ、ディールナイトのほうが圧倒的に人気あるよね」
「そ、そう?」
「そうだよ」
「活動期間が長いからじゃない? 最初に現れたっていうインパクトもあるし」
「みんな意外と小さいおっぱいの女の子が好きなのかな?」
「そ、そんなの関係ないよ! だいたい、おっぱいじゃないし!」
「そうね」
直は翔虎の胸に手を当てて、
「お、また付いてきたんじゃない?」
手を、さわさわ、と動かして翔虎の胸を撫でる。
「や、やめ……」
「あのディールナイトの胸鎧の中身が、この筋肉だと知ったら、みんながっかりするかな? いや、一部には、むしろ喜ぶ人もいるかも」
「やめろ!」
「ねえ」
直は翔虎の胸から手を離して、
「翔虎、勉強できてる? 富士崎先輩のことで勉強時間あんまり取れなかったでしょ」
「あ、う、うん、まあ」
「まさか、テスト期間中に小説書いたりしてないよね?」
「え? あ、当たり前じゃないか……」
「じゃあさ、今日は勉強見てあげようか」
「え? う、うん、じゃあ、お願いしようか……な」
「私が翔虎の家に行こうか? それとも、翔虎が家に来る?」
「じゃ、じゃあ、また僕がお邪魔しようかな……」
「ふーん……」
直は翔虎の顔を覗き込む。
「な、何だよ……」
「襲ったらダメだよ」
「な! わ、わかってるよ!」
翔虎は顔を真っ赤にして声を荒げた。
「あー、わかった、っていうことは、やっぱり、翔虎、あれは私のこと襲おうとしたって認めるんだね?」
「え?」
「でも、ダメだからね。今日はお父さんもお母さんも家にいるから。残念でした」
「なっ、直! ちょ――」
「翔虎が来るって、お母さんにメールしよ。翔虎、何食べたい? リクエスト聞くよ」
直は携帯電話を取りだして笑った。
――2016年10月21日
現在、ディールナイトとディールガナーが使える武装は……
スペード 2 ???
スペード 3 ショートソード
スペード 4 レイピア
スペード 5 ジャベリン
スペード 6 ロングソード
スペード 7 バトルアックス
スペード 8 ???
スペード 9 ハルバード
スペード 10 ???
スペード J ???
スペード Q ウイップソード
スペード K ???
スペード A ???
ダイヤ 2 小型リボルバー銃
ダイヤ 3 小型オートマチック銃
ダイヤ 4 大型リボルバー銃
ダイヤ 5 ???
ダイヤ 6 ショットガン
ダイヤ 7 サブマシンガン
ダイヤ 8 アサルトライフル New!!
ダイヤ 9 ???
ダイヤ 10 対物ライフル
ダイヤ J ???
ダイヤ Q ???
ダイヤ K ???
ダイヤ A ???
クラブ 2 ???
クラブ 3 トンファー
クラブ 4 ???
クラブ 5 チェーンハンマー
クラブ 6 チェーンソー
クラブ 7 ドリルアーム
クラブ 8 ???
クラブ 9 大型ブーメラン
クラブ 10 ???
クラブ J バイク
クラブ Q ???
クラブ K ???
クラブ A ???
ハート 2 小型シールド
ハート 3 大型シールド New!!
ハート 4 ワイヤーアーム
ハート 5 ???
ハート 6 ???
ハート 7 シザーピンチ
ハート 8 フレキシブルアーム
ハート 9 ???
ハート 10 パワーブーツ
ハート J ???
ハート Q ウイングユニット
ハート K ???
ハート A ???




