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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第28話 ディールナイト古都へ(前編)
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第28話 ディールナイト古都へ(前編) 1/4

 高町(たかまち)はその後、翔虎(しょうこ)たちに付き添われて病院へ行った。

 待合室には、翔虎、(なお)矢川(やがわ)秋葉(あきば)(りん)、の付き添いの五人が待っていた。美波(みなみ)も来ると言ったのだが、さすがに辞退してもらい家に帰したのだった。

 ソファに座った秋葉は腕を組んで、


「しっかしなぁ……高町のやつ、急にぶっ倒れたんだって? そんなヤワなやつじゃねーんだけどな」

「色々と大変だったんだよ、きっと。僕たちみたいな素人を指導して、精神的にも……」


 翔虎が答えると、秋葉は、ふーん、と言って診療室のほうに目をやった。


 高町がストレイヤー化したことは、文芸部員とあけみ、そして凛以外のものには伏せられた。

 高町は美波と会った直後、疲労で倒れ、気を失い病院へ担ぎ込まれた。翔虎たちはそう口裏を合わせたのだった。

 ストレイヤー化した高町の姿を文芸部員とあけみ以外に目撃されていなかったのが幸いした。凛には美波が相談を持ちかけたのだ。

 秋葉は視線を戻し、


「おい、霧島(きりしま)と、……えーと」


 秋葉は直の顔を見て言葉を止める。直が、成岡(なるおか)です、と言うと、


「成岡か、お前らはもういいぞ。女の子が出歩く時間じゃねーし」


 時刻は午後九時に近かった。


「秋葉くん、意外と紳士なのね。私はてっきり、こんな時間まで女の子を連れ回すタイプかと思ってたわ」


 凜が笑いながら口にした言葉に、「うるせー」と秋葉は返した。


「私は大丈夫よ。生徒会長たるもの、生徒の一大事に放っておけないわ」

「私も大丈夫です。家には連絡しましたから」


 凜と直が揃って答えると、


「そうかい、そうかい。ま、あんがとな。高町のこと心配してくれて」


 秋葉は笑みを浮かべた。


 診療室のほうから足音が聞こえてきて、


「心配かけたな、みんな」


 待合室に高町が姿を見せた。


「高町、どうだった?」


 真っ先に駆け寄ったのは秋葉だった。


「ああ、何の異常もない。ただの疲労だそうだ。まったく、俺としたことが。ただ、どうして倉庫なんかにいたのか。それだけは思い出せない……」


 中町は難しい顔をして顎に手をやる。


「疲れてんだよ。そっか、じゃあ、あとは失恋の傷を癒すだけだな」


 秋葉は、わはは、と大声で笑って高町の背中を叩いた。

 高町は項垂(うなだ)れて顔色を悪くした。


「秋葉くんのこと、さっき紳士って言ったけど、撤回するわ」


 凜は呆れ顔でため息をついた。



 家の近くのバス停を下りた翔虎と直は、亮次(りょうじ)の部屋に寄った。

 今日の事は電話で報告し終えていたが、高町の体に異常がなかったことを付け加えた。


「……そうか、今までの例から、ストレイヤーに取り憑かれたとしても、体に何か異常が出るということはないようだな」

「そうですね。でも、亮次さん、それよりも……」

「ああ、わかっているよ、翔虎くん。他にも、すでにストレイヤーに取り憑かれている生徒がいるかもしれない。そういうことだな」

「はい」


 翔虎は返事をして頷いた。直は翔虎を見て、


「翔虎……今、二年生、修学旅行中だよね。二年生の中にストレイヤーに取り憑かれてる人がいて、もし、旅行先でそれが発現したら……」

「修学旅行先は、京都奈良だそうだね。当然、私のレーダーの感知範囲外だ……」


 亮次は腕を組んで唸った。


「明日、こころ先輩に何か異常がないか訊いたほうがいいかも」


 直の提案に翔虎も、そうだね、と同意した、そのとき、翔虎と直の携帯電話が鳴った。音はそれぞれ違うが、どちらもメール着信の音だった。


「あ、こころ先輩」


 直はメールを開いた。二人には同じメールが届いており、数枚の写真が添付されている。同時に送った宛先を見るに、美波、矢川にも同じものを送っているようだ。


「こころ先輩、はしゃいでますね」


 直はメール画面を亮次にも向けた。

 私が見てもいいのかい? と断ってから、亮次も画面を覗き込む。


鹿苑寺(ろくおんじ)、いわゆる金閣寺に、北野天満宮(きたのてんまんぐう)、こっちは二条城(にじょうじょう)だね……」

「亮次さん、詳しいですね」

「まあね。……旅行中、別に異常はないみたいだな。何かあったら、君たちに連絡が来るだろうが」


 写真の中のこころは、名所を背景に思い思いのポーズを取っており、修学旅行を満喫しているようだった。


「今、電話掛けてみる?」


 直が言うと、翔虎と亮次は顔を見合わせて頷き、じゃあ、と、直はこころにダイヤルする。


「……あ、こころ先輩。……ええ、見ましたメール。楽しそうですね。……え? 勝ちましたよ。高町キャプテンの活躍で。……え? 翔虎ですか?」


 直は翔虎の顔を見て、


「まあ、それなりに……そうなんです、出番あったんですよ。あ、そうそう、聞いてくださいよ、こころ先輩、南方(みなかた)先輩と高町先輩がですね……」


 直は延々と、こころとの会話を続けている。


「なあ、翔虎くん、いつ本題に入るんだい?」

「わかりません……」

「アイスコーヒーでも飲むか?」

「はい、いただきます……」


 亮次と翔虎は腰を上げて台所に向かった。


「……で、こころ先輩、そっちで何か変わったことはないですか?」


 ようやく直が本題に入ったのは、翔虎が二杯目のアイスコーヒーを空けた頃だった。


「……はい……はい……え? そうなんですか……」


 直は、ほぼ聞き役に回っている。しばらく相づちを打ち、こころの話を聞くと、


「……わかりました。すみません、遅い時間に……いえ、こっちは全然。じゃあ、お土産期待してます。おやすみなさい」


 直は携帯電話を耳から離して通話終了ボタンを押した。


「どうだった?」

「高町先輩のこと、めちゃうけてた。あんなに笑っちゃ悪いわよ」

「そうじゃなくて!」

「わかってる」


 直は、ふう、とひと息ついて、


「喧嘩っぽい騒ぎがあったんだって」

「喧嘩?」

「うん、こころ先輩がね、あの、(はやし)北見(きたみ)戸村(とむら)っていう三人の先輩と一緒の班なんだって」

「え? その三人って、こころ先輩をいじめてた?」

「今はもう仲直りして、友達だよ。でね、そこにもうひとり加えた五人の班なんだけど、林先輩っていうのが、団体行動がとにかく苦手らしくて」

「ああ、あのとき、こころ先輩に謝りに来た男の先輩か」


 翔虎は視線を上げて思い出すようにして、


「まあ、そんな感じの人だよな」

「でね、その林先輩が、しょっちゅう班から外れて、その度みんなが探しに行くんだって。で、修学旅行って、私服行動だから――」

「今はそうなのか?」


 亮次が話に入ってきた。


「そうなんですよ、亮次さん」


 と翔虎は、


「たまたま同じように修学旅行に来てる他の学校の生徒と揉め事を起こさないように。ようは、『てめー、どこの学校だよ』みたいな因縁付けを防ぐためです」

「そうなのか、私の頃は……まあいい、直くん、続けてくれ」

「はい。で、林先輩の私服ってのが、また目立つ格好で。先生に注意されたらしいんだけど、そこのところ、まだ抜けきってないみたい。でね、他の学校の生徒らしい人から因縁付けられるようなことも何度かあって」

「結局付けられてるんじゃんか」

「でね、また林先輩を見失って、探しに行ったら、人気(ひとけ)のない裏路地みたいなところで、他の学校の柄が悪いっぽい生徒数人が、喧嘩の後みたいにボコボコにされて寝転がってるのを見たんだって。その近くで、林先輩を見つけたんだけど」

「それを林先輩がやったって?」

「それがね、林先輩、そんな喧嘩なんてしてないって言うそうなの」

「憶えていない? ……記憶を失っている?」


 翔虎、直、亮次はそれぞれ顔を見合わせた。


「気になるでしょ?」

「まさか、林先輩にストレイヤーが取り憑いていて?」

「……どうする、翔虎、亮次さん」

「行ってみるしかないだろ」


 そう答えたのは翔虎だった。


「えー、でも、バリバリ平日だよ?」

「もちろん、僕ひとりで行く」

「学校はどうするのよ」

「休むに決まってるだろ」

「何て言うのよ。お母さんとお父さんにもだよ」

「病欠にする。親には……ヒロ、いや、テラの家に泊まってることにする。試合の助っ人のことがあるから、何も訊かずに口裏合わせてくれるはずだ。中間テストも近いから、合宿ということで。修学旅行は、明後日までだから、一泊くらいどうってことないだろ。亮次さん、車出して下さい。明日の朝出発しましょう」

「ちょっと待て翔虎くん」


 翔虎の提案を亮次が留めて、


「ここから京都まで、車でどれくらいかかると思ってるんだ。五時間、いや、七時間はかかるぞ」

「えっ? そんなに? じゃあ、電車?」


 亮次は部屋の掛け時計を見て、


「この時間では、もう無理だな。明日朝の始発を待つしかない」

「じゃあ、今から車で……いや、亮次さんの疲労が半端ないな」

「私は構わないよ。あまり早く着きすぎても、向こうの二年生が活動前だから……、夜中十二時に出るか」

「亮次さんさえ良ければ――」

「ちょ、ちょっと、ちょっと」


 直が両手を振って二人の間に割って入り、


「無茶でしょ。翔虎は車で寝てればいいけど、亮次さんの体力が持たないわよ。それに、お母さんとお父さんには何て言うのよ」

「さっきも言ったが、私は構わないよ。今も研究や調べ物で徹夜なんてザラだからね」

「だって、直。亮次さん頼もしい」

「翔虎のほうはどうするのよ」

「さっき言ったろ、テラの家に泊まることにする」

「そうじゃなくて、今夜からいなくなるんでしょ?」

「だから、今夜から泊まるんだよ。ちょうど試合があったから、その流れでってことで。あ、でも、着替えとか取りに一旦家に戻らないとまずいな。制服で京都を歩き回るわけにはいかないし」

「翔虎くん、着替えは途中か現地で調達しよう」

「オーケー。じゃ、さっそくテラに電話する。その間に直は、こころ先輩に、明日と明後日の班行動予定を訊いておいてよ」

「もう、しょうがないな……」


 互いの会話の声が電話に拾われないように、翔虎は台所に移動して電話を掛けた。


「……ああ、テラ。あのさ、折り入ってお願いが……」


 翔虎は寺川(てらかわ)にアリバイ工作を頼むことに成功した。


「次は、家だな……」


 続けて翔虎は自宅に電話を掛ける。


「ああ、お母さん。僕だけど。あのさ、今夜と明日……」


 母親の説得には苦戦しているようだった。


「大丈夫だって。もう高校生なんだから。……そう、学校にもテラの家から通うから。教科書? 学校に置いてあるから大丈夫だよ。……持って帰ってるよ、テストのときは。……え? 着替えもテラのを借りるから。……わかった、わかったよ。うん、じゃあ、あとで」


 寺川に掛けたときとは数倍の時間を要して、ようやく翔虎は電話を切った。


「結局下着の着替えだけ取りに家に戻ることになった」

「まあ、親御さんにしてみれば、心配だろうな」


 翔虎の電話の様子を見ていた亮次は言った。


「ついでに私服も持ってくる」

「翔虎」


 呼びかけながら、直が破いたメモ用紙を手にひらひらと振った。こころに電話して訊きだした明日、明後日の予定が書き込まれている。翔虎はそれを受け取って亮次にも見せた。亮次はメモを覗き込みながら、


「どれどれ……今日は午前中は移動、午後から、写真にあった、金閣寺、北野天満宮、二条城を見学したんだな。金閣寺と北野天満宮は駅から離れてるから、全員でバスで移動したんだろう。あ、でも、班行動していたと言っていたな?」

「ああ、それは」


 亮次の疑問には直が、


「亮次さんの言う通り、京都駅からバスに乗ったそうですけど、北野天満宮で下りてからは班行動で、その二箇所を見学したそうです」

「なるほど、そういうことか。二条城はホテルに近いから、ついでみたいな感じで見学したんだろうな。で、明日は京都市内を完全班行動か。明後日は奈良に移動して、また班行動。奈良駅から電車で帰る。か」

「班行動している間に決着付けたいですね」


 直が言うと、亮次も、


「そうだな、だが、まだ、その林くんにストレイヤーが取り憑いてると決まったわけじゃないからな。何事もなければそれに越したことはないんだが」


 亮次の言葉に翔虎と直は頷いた。


「じゃあ、僕、着替え取りに行ってきます」


 翔虎は腰を浮かした。


「ああ、私は車に給油して近くで待ってるぞ」


 亮次も立ち上がる。


「二人とも、気を付けてね。特に亮次さんは運転無理だって思ったら、素直に休憩して下さいね」

「ありがとう、直くん」


 三人は部屋を出て、亮次は駐車場へ。翔虎と直はいつもの帰り道を歩いた。

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