研究員の日記 六月二日(プロローグ 19/25)
研究員の日記 六月二日
博士と連絡が取れず、いつ戻るのかも定かではない今、錬換技術の修練はままならない。
研究所の技術者が錬換端末を見てみたが、さっぱり何がどうなっているのかとさじを投げた。
亮次の件で責任を感じた隊長は、所長に退職願を提出したらしいが、所長は受理しなかったそうだ。
隊長はあれ以来、いつもに増して黙々とトレーニングに汗を流している。
我々の中では、無為な会議が続いた。
一対一では錬換武装兵士は怪物に対抗しうることはわかったが、数が違いすぎる。空を飛ぶものもいるという。錬換武装端末を量産できなくては対抗する術はない。
しかし、ここに問題がある。
プログラムというからには、ただ単に完成したプログラムを空いた端末にコピーすればいいと思われるのだが、錬換プログラムは、「質量を持ったプログラム」なのだという。
博士の言葉なのでその意味を完全に理解したうえで記すことはできないが、プログラム自体が微量な粒子のようなもので構成されており、それをデジタル信号化して記録媒体に載せているのだという話だ。
そのプログラム粒子の構築に手間と時間と設備が掛かる。故に錬換武装の量産はできない。
錬換とは、簡単に言えば、そのプログラムの粒子を物質に載せて目的のものを形成する技術のため、ひとつの端末からパソコンのファイルをコピーするように複数のスーツを作り出す、というようなことはできない。
これはスーツだけでなく武装も同じだ。
仮に十人の錬換武装兵士を構成するためには、十個の端末、十個の錬換プログラムが必要なのだ。
そして、それを作る事ができるのは叢雲博士だけだ。博士と連絡が取れないことには何も始まらないのだ。




