研究員の日記 六月一日(プロローグ 18/25)
研究員の日記 六月一日
大変なことが起きた。
亮次が瀕死の重傷を負って向こうから帰還した。
隊長と田中の説明によると、怪物の群れに追いかけられ、逃走の最中、亮次は転んでしまったという。
すぐに起き上がったのだが、その動きが止まった瞬間を狙われたらしい。蜂のような怪物が腹部の先端から針を射出し、その針が亮次の背中から腹部を貫いたのだという。
もちろん蜂と言っても、普通の大きさであるはずがない。いや、向こうではあれが普通なのだろうか? 体長三メートル以上はあったという。そんな蜂から射出された針だ。致命傷にならないはずがない。
亮次は医療室に運び込まれたが、助かる見込みは少ないのではないかと私には思われた。
医療室での手当が行われてすぐに、叢雲博士が、亮次を連れて行くと言い出した。自分の知っている腕のいい医者に診せるのだという。
研究所専属の医師は動かすことも危険だと止めたが、博士は連れて行くと言ってきかない。私はあんなにも取り乱した博士を初めて見た。
話を付けたのは藤崎所長で、博士の望み通りにさせてやった。亮次の搬送のためにヘリの使用も許可した。
博士と亮次を乗せて数時間後、ヘリは研究所へ帰ってきた。もちろんその二人は乗っていない。
パイロットと通信員の話では、博士は自宅兼研究室の庭にヘリを下ろさせた。博士の自宅の土地は広大だ。ヘリの離着陸も可能だろう。
博士はひとりで亮次を乗せたストレッチャーを押して家の中に入っていったという。所長や研究所のみんなによろしく伝えてくれ、とだけ言い残して。
私はその夜博士の家に電話を掛けてみたが、何回コールしても出る気配はなかった。




