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錬換武装ディールナイト  作者: 庵字
第20話 プールサイドで煌めいて
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第20話 プールサイドで煌めいて 5/5

「うわぁぁー!」

寺川(てらかわ)くん! しっかり!」


 寺川は目に涙を溜めながら悲鳴を上げ、(なお)は右腕に子供、左手で手摺りを掴んだまま、自分の左側にいる寺川に声を掛けた。寺川は両手で手すりを掴んでいる。二人とも急角度に傾斜した床に足裏を突いて踏ん張ってはいるが、手すりを離した途端、傾斜した床を滑り、コンクリートのプールサイドに落下してしまうことは必至だった。


「ディールナイトが来たぞ!」「怪物を倒したんだ!」


 人々の歓声が上がり始める。


「やばいぞこれ!」


 翔虎(しょうこ)は、傾いでいる塔を見上げた。

 鉄の軋む音がして支柱の一本が大きく歪むと、 ああー! と見守る人たちの悲鳴が響く。

 翔虎はタッチパネルを操作してプールサイドの床を叩き、シザーピンチ〈ハートセブン〉を錬換(れんかん)すると、それを右手に装備して歪んだ支柱の下に滑り込み、ピンチで支柱を挟んで下から支えた。左手もシザーピンチの基部に添え補助としている。


「ぐぉぉ……!」


 低い声とともにシザーピンチを押し上げると、鉄の軋む音は止み塔の傾斜も止まった。


 人々の間からは安堵の声が漏れた。しかし、


「ここから……どうするんだ?」


 弘樹(ひろき)が唸った。

 亮次は人の固まりから離れ、携帯電話をダイヤルして耳に当てた。


「翔虎くん、大丈夫か」

「はい……何とか。僕よりも、直は……どうなんです?」

「まずいな……」


 亮次は塔の頂上を見上げる。今度は翔虎のほうからの通信が入り、


「錬換でどうにかできないんですか……? ワイヤーアームか、ウイングユニットとかで……」

「厳しいな。ワイヤーアームはアンカーをどこかに打ち込む必要がある。当然自分よりも高い位置にだ。だが今、アンカーを打ち込めるような直くんよりも高い構造物はない。いつか翔虎くんがやったように、自分の足下に打ち込むことも考えられるが……」


 亮次はさらに目を凝らし、


「今、直くんは右手に子供を、左手で命綱とも言える手すりを握って、両手が塞がった状態だ。あの状態で何かしらの武装を出しても装備する時間はない。そんなことをしていたら……」

「直も子供も真っ逆さま、ですか……」

「ああ。それに、あそこで錬換の材料に使えるものといえば、自分たちが掴んでいる手すりと傾斜した床しかない。命綱を離すようなものだ」

「一緒にいるのは、テラですよね……」

「そうだ……」

「テラも、真っ逆さま……」

「直くんが二人を抱きかかえて飛び降りたとしても、直くんはディールガナースーツのインナーショックアブソーバーが効いて落下の衝撃に耐えられるだろうが、ほかの二人は……」


 亮次は携帯電話を握る手に力を込めた。


「翔虎くん」

「はい……?」

「私は後悔している。すまない、こんなことになって……」

「亮次さん……」



「ねえ、寺川くん、お願いが……」

「何……ですか?」

「できるだけ私に近づいて。……そう」


 言われた通り、寺川は手すりを伝い自分の体を引き寄せるようにしてディールガナーに寄っていく。寺川が左側すぐまで近づくとディールガナーは、


「私の左腕にタッチパネルがあるでしょ。そのドラムをフリックしてみて……片手だけで体を支えることになるけど、大丈夫? 一度の操作で全部しなくていいから……そう、休みながらね……ありがとう。そう、左をハートに、真ん中を〈Q〉に……そう。でね、右下に赤いボタンがあるでしょ。それを二回タップして……ありがとう」


 寺川は右手を手すりから離してタッチパネルを操作、左腕一本で体を支えるのが限界となったら両手で手すりをつかみ直す、体力が戻ったら再び操作。これを繰り返し、ディールガナーに言われた通りの操作をし終えた。

 ディールガナーの両(てのひら)が光を放ち始める。


「それって……武器を出すやつですよね」

「ええ。ねえ、じっとしててね。絶対にパニックを起こさないでね……」


 ディールガナーは緊張を孕んだ声で寺川に告げると、自分の体を支えている左手を手すりから離した。子供を抱いた直の体が、踏ん張っている足裏を軸に一瞬、ふわり、と宙に傾ぐ。その様子を見上げていた亮次は、


「……まさか。やめろ! 落ちるぞ!」

「亮次さん?」


 状況を把握する術のない翔虎は支柱を支えたまま呟いた。

 直は手すりを離すと即座に傾斜した床を叩いた。床材と手すりが消え、右手に子供を抱いた直と寺川は宙に放り出されたような格好になる。直は左手で寺川の体を抱き寄せるように捉えると、その体勢のまま失われた床の下にある鉄骨に着地した。着地の衝撃でディールガナーはわずかにバランスを崩して体をふらつかせたが、屈み込んで重心を低くすると体勢は落ち着いた。錬換されたウイングユニットは、重力に任せ何度か鉄骨に当たりながらプールサイドに落下した。

 ディールガナーは、自分の左腕の中で真っ青になり目を点にしている寺川に、


「寺川くん、またパネルを操作してくれる? 今度は、二本指で左にスライドして。……そう、翼の形のアイコンがあるよね、それをドラッグしてゴミ箱に重ねて〈Yes〉を」


 血の気が引き真っ青な表情から復活した寺川は、自分の腰に回されたディールガナー左腕のタッチパネルに指先を持っていき、言われたとおりの操作を行った。プールサイドに落下していたウイングユニットは塵と化して消えた。


「オーケー。じゃ、最初の操作を繰り返して」


 寺川は再びタッチパネルのドラムを〈ハート〉と〈Q〉に合わせ赤いボタンを二回タップ。


「しっかり掴まってて……」


 ディールガナーに言われ、寺川は白と赤のビキニアーマーの戦士の腰に両腕を回して自分の体を固定させた。ディールガナーは足下の鉄骨に自由になった光る左掌を叩きつけた。足下の鉄骨は消え失せウイングユニットが出現、落下していく。ディールガナーはすぐに左手で寺川の体を支え、さらに低くなった鉄骨を足場として着地した。


「これは……」


 亮次はその様子を見上げ、


「錬換で足場を切り崩して低くしていこうということか! 直くん、やったな!」

「え? 亮次さん、どうなってるんです? さっきから何かガンガン落ちてくる音がしてるんですけど……」


 顔を下に向けた姿勢で支柱を支えている翔虎には、何が起きているのか目視できていない。

 直は足場を錬換。寺川と子供を抱えたまま低くなった足場に着地。落下した装備を廃棄。再び足場を錬換。これを繰り返していく。


「亮次さん、なんだか楽になっていきます。明らかに重量が軽くなっていってる。それに、めちゃ何か落ちてきてますけど」


 亮次は携帯電話を切って塔へと走り寄る。すでに塔の高さは地上二メートル程度となっていた。

 直はプールサイドに飛び降りると、寺川と子供を地面に下ろした。


「ママ!」


 泣きながら駆け寄ってくる女性の姿を見つけた子供は、叫びながら駆けていった。母親が子供を抱きしめると大きな歓声と拍手が巻き起こった。母親はディールガナーと寺川に何度も頭を下げて礼を述べた。

 寺川は背中を向けて去ろうとするディールガナーを呼び止めて、


「あ、ありがとうございます」


 礼を言って頭を下げた。ディールガナーは首を横に振って、


「私のほうこそ、助けられたわよ。ありがとう」


 ディールガナーは右手を差し出した。寺川は両手でその手を握り、もう一度深く頭を下げた。


「あの……」


 頭を上げた寺川は、


「どうして、俺の名前知ってたんですか?」

「! え? それは、そう、私は学園のことは何でも知っています、よ……」

「え! そうなんですか! 感激だな!」

「そ、それでは……」


 ディールガナーは(きびす)を返すと、塔の下から出て来たディールナイトの手を掴み、引き摺るようにして連れて一緒に姿を消した。


「テラー!」

「寺川くーん!」


 弘樹たちが駆け寄ってきた。


「お前! 無茶しやがって!」


 弘樹は寺川をヘッドロックに取る。


「痛い! 痛いってヒロ」


 寺川はもがいて弘樹の手から逃れた。


「寺川くん……」


 大友楓(おおともかえで)は目に涙を溜めながら、


「よかった、無事で、本当によかった……」


 声を上げて泣き出した。よしよし、と佐伯香奈(さえきかな)は楓の頭を撫でる。そして寺川を見て、


「ほら」

「え?」


 寺川は香奈に促されて楓の前に立ち、


「あ、あの……ありがとう。心配してくれて」


 楓は、きっ、と寺川を見上げて、


「心配するに決まってるでしょ! バカ!」


 叫ぶと、両手で顔を覆って再び泣き出した。


「あ! ショウ! 成岡(なるおか)!」


 行き交う人たちの中から出て来た翔虎と直を見つけた弘樹が指をさして二人を呼んだ。直は、


「ごめん、みんな。人波に流されてはぐれちゃって」

「成岡さん」


 寺川は直を見て、


「よかった、無事で……」

「寺川くん」


 と直も寺川に、


「見てたよ。かっこよかったわよ」

「そ、そうかな……」


 寺川は顔を伏せて頭を掻いた。

 香奈は、顔を覆って泣いている楓と直、寺川を順に見る。最後にそばにあった椅子に座り込んだ翔虎に目をやって、


「ねえ、ちょっと……」

「え? 何?」


 翔虎は、疲労困憊といった表情で顔を上げた。


尾野辺(おのべ)くん、あなた、しっかりしなさいよ!」

「ええ? 何が?」

「どうしてひとりだけ座ってるの。ほら、立って」

「ちょ、ちょっと、今は腕がパンパンで……脚も……」

「何してたっていうのよ! 情けないぞ!」


 香奈は腕を組んで翔虎を叱咤した。



 救急、消防が入りプールは緊急閉園となったため、翔虎たちもそのまま解散となった。

 あけみを先に家に送り届け、三人になった車内で亮次は、


「二人とも、ありがとう」

「何、これくらい」


 翔虎は後ろを向いて、


「直」

「何?」


 窓の外を見ていた直は視線を向けた。


「あのウォータースライダーの上でさ、テラと一緒だったんだよね」

「そうだけど、それがどうかした?」

「あ、いや……」

「寺川くん、かっこよかったよ」

「えっ?」

「翔虎」


 直は助手席と運転席の間に顔を突っ込んで、


「何、泣きそうな顔してるの?」

「え? そ、そんなこと――あ」


 直は自分の額を翔虎の額にくっつけた。


「翔虎も、かっこよかった。ストレイヤー倒してくれたんだよね。ありがとう。それに、下で私たちを支えてくれてたんでしょ」

「あ、う、うん……」

「ありがと」


 直は額を離してもとのように座席に腰掛けた。


「あ、あのさ……」

「何?」

「さっき、か、かっこいいって言ったのは、僕が? それとも、ディールナイトが?」


 翔虎の質問に、直はしばらく黙ってから、


「……ディールナイトが」

「ああー」


 翔虎は項垂(うなだ)れた。それを見た直は笑って、


「ディールナイトは翔虎でしょ」

「え?」

「ふふ」


 直は窓の外に視線を向けた。夕暮れが迫る町並。窓に映る直の顔は笑顔だった。


 ――2016年8月10日

現在、ディールナイトとディールガナーが使える武装は……


スペード 2 ???

スペード 3 ???

スペード 4 レイピア

スペード 5 ジャベリン

スペード 6 ロングソード

スペード 7 バトルアックス

スペード 8 ???

スペード 9 ???

スペード 10 ???

スペード J ???

スペード Q ウイップソード

スペード K ???

スペード A ???


ダイヤ 2 小型リボルバー銃

ダイヤ 3 小型オートマチック銃

ダイヤ 4 大型リボルバー銃

ダイヤ 5 ???

ダイヤ 6 ショットガン

ダイヤ 7 サブマシンガン

ダイヤ 8 ???

ダイヤ 9 ???

ダイヤ 10 対物ライフル New!!

ダイヤ J ???

ダイヤ Q ???

ダイヤ K ???

ダイヤ A ???


クラブ 2 ???

クラブ 3 トンファー

クラブ 4 ???

クラブ 5 チェーンハンマー

クラブ 6 チェーンソー

クラブ 7 ドリルアーム

クラブ 8 ???

クラブ 9 ???

クラブ 10 ???

クラブ J バイク

クラブ Q ???

クラブ K ???

クラブ A ???


ハート 2 小型シールド

ハート 3 ???

ハート 4 ワイヤーアーム

ハート 5 ???

ハート 6 ???

ハート 7 シザーピンチ

ハート 8 ???

ハート 9 ???

ハート 10 ???

ハート J ???

ハート Q ウイングユニット

ハート K ???

ハート A ???

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