研究員の日記 五月五日(プロローグ 11/25)
研究員の日記 五月五日
実験は成功した。
昨日の日記に記した方法で転送、帰還を繰り返したが、口内に含んだ金属片は一切傷つくことがなかった。緩衝材として使ったスポンジも同様だった。
被験者となった隊長によれば、やはり転送先の部屋に怪物の姿は見られなかったという。
我々は単なる金属片だけではなく、道具や精密機械でも試してみた。ライター、小型ラジオ、小型電子記録媒体。いずれも無傷だった。記録媒体は、記録されているデータも無事だった。
どうやらこれで転送のルールが見えてきた。
基本的に生体以外の物質は転送により破壊されるが、体内に入れれば持ち運びが可能だ。試しに金属片を手に持った状態での転送も試みたが、転送終了時には、手の中で粉々になっていた。
とりあえずは、生体という入れ物に入れて物体を運搬可能、と理解するしかない。
実験が成功したからといって喜んでばかりもいられない。
我々の目的は、転送先で怪物と戦うための武器を持ち込むことなのだ。
口内、あるいは胃の中に飲み込んで運搬できる程度の大きさの武器で、どれだけあの怪物に対抗できるというのだろう。
そのままで持ち込み可能な武器は、ナイフや手榴弾程度に限られるだろう。大型重火器を持ち込むとなると、飲み込み可能な大きさに分解してから、向こうで組み立てるしかない。
しかも一丁だけというわけにはいかない。さらに、私たちが足音だけを聞いた巨大な怪物と戦うには、拳銃程度ではない大型火器の使用が必須となるだろう。それらの集団戦闘を行えるだけの人数分一式を持ち込むのに、どれだけの手間と時間がかかるだろうか。考えただけで気の遠くなる作業だ。
怪物の総数もまったく分からない。補給はスムーズに行えるだろうか。しかし、今はそれにすがるしかない。
「向こうに工場を建てて武器を生産できれば……」
苦し紛れのように所員の誰かが呟いたその言葉を聞いて、私はひとりの男の顔を思い出した。
「向こうで武器を作る」
可能かもしれない。
私は、叢雲業蔵博士に連絡を取った。




