運命の日(プロローグ 1/25)
いよいよ明日、〈向こう〉へ行ける。
私、叢雲亮次の心は高ぶっていた。
モニター室から、カメラを通して見る〈遺跡〉の姿は、私の目には未だに異様に映る。
〈遺跡〉と呼ばれるその部屋は、日本家屋にして十畳ほどの広さ。
その灰色をした四面の壁、床、天井は、出入り口となる扉を除けば、ほぼ意味不明のレリーフや操作パネルのようなもので占められており、そして、部屋の中心の天井と床を透明なチューブが貫いている。
あの中に明日、私は入る。そして行くのだ。〈向こう〉へ。
部屋の上の四箇所全ての角にはカメラが備え付けられており、透明なチューブを二十四時間監視している。
部屋には元々照明がなかったため、明かりとして二基の照明スタンドが持ち込まれている。
今は誰もいない〈遺跡〉の部屋をモニターしているカメラ映像を、私は飽くことなく見続けていた。
「まだ起きていたのか」
背後から声を掛けられて振り返った。
そこに立っていたのは、私の伯父である、叢雲業蔵だった。
「明日に触るぞ、もう寝なさい」
伯父は髭を蓄えた口を動かして、私に告げた。
「はい」
私は素直にそう答える。
「行こう」
伯父は私の答えを聞くと、背中を向けてモニター室の出入り口に向かった。私もその背中を追って歩いた。
途中、壁に掛かっているカレンダーに目が留まった。二ヶ月で一枚綴りのそのカレンダーは、五月三十日の日付にペンでバツ印が重ねられていた。
私はカレンダーに近づきペンを取ると、三十一日の日付の上にバツを付け、そして、視線をその翌日、すなわち明日である六月一日に向ける。
六月一日。
〈向こう〉へ行く日。
私と、その周囲の人たちの運命を大きく変えたその日が、あと数時間と迫っていた。