すべてはここから始まった
引き続きの方、初めての方、おはようございます。
今回で、旅立ち編は最後となります。
今回は、ファンタジーらしからぬ道具が登場しますが、世界観の設定上なにもおかしくはありません。
Eエブリスタと重複投稿 アルファポリス重複投稿
では、引き続きよろしくお願いします。
「辛そうじゃな……」
「辛そうですな……」
刺さる視線……重苦しい空気。
謁見の間に流れる不穏な空気の中、着替えて戻ってきた俺に大臣が話しかけてきた。
「勇者殿、伝説の武具には魔族に悪用されぬようにセーフティが掛けられておりましてな……」
なるほど……そういう事か
大臣の言いたい事が、俺にはすぐに理解出来た。
――勇者としての資質なき者が着ると、身重になって動けなくなる――
セーフティの内容がそうならば、現在の自分の状況も理解できるし、その様子を見た王様や大臣が疑惑を抱くのも合点がいく。
「鎧って結構重いですね……初めて着るもので、動きにくいですよ」
俺は、精一杯平静を装いながら話した。この場をなんとか誤魔化さなくてはならない。
「疑う訳ではないのだが、ここでひとつじゃ……剣を振ってみせてくれんか?」
思いっきり、疑われてるなぁ……などと、思いながら王の御前で剣を構える。
軽い……剣にだけ選ばれたというのも不自然だから、おそらくは剣はパチモンなのだろう。
俺は剣を軽々と持ち上げると、一度……二度……三度と振りかぶり振り降ろす。
「問題なさそうじゃの……」
「問題なさそうですな……」
なんとか誤魔化せたか……?しかし、こんな嘘がいつまでも通用するとは思えない。
大体、俺自身職業が魔王だったというだけで、世界やこの国に対して損失や損害を与えた訳でもないのだから、正直にゴメンナサイすれば今なら許されるのでは……?
「疑い試す様な事をしてすまぬ……勇者殿。なにせ、国をあげての一大事。大陸南方の辺境の我が国にとってそなたは希望の星」
なるほど、確かに田舎って以外に特色ないもんな……この国。
「既に周辺国からも支援金が集まってきておる。そなたは、これから存分に勇者として活躍し、この国に富と名声を運んでもらわねばならぬのじゃ……今更『実は勇者ではありませんでした』は通用せぬのじゃよ」
謝ればまだ引き返せると思っていた俺の思惑は、あっけなく打ち砕かれてしまった。
それにしても……話の内容的に、国興しの為に死地へ行けって言ってるようにしか聞こえんのだが……。
「それにじゃ……そなたには既に支度金として、支援金から100万ガルド渡しているのじゃから、頑張ってもらわねば困るというものじゃ」
「100万ガルド!」
俺は思わず声を張り上げてしまった。
無理もない。この国における一般的な成人の平均年収が1万2000ガルド。100万ガルドあれば、余程の贅沢でもしない限り一生遊んで暮らせる金額である。
「何を驚いておる?そなたが希望した金額を、一週間前に我が国最強の騎士ジークフリードに『勇者殿の家へ届ける様』持参させたはずじゃが?」
支度金?俺は一銭も受け取っていないんだが……それに、一週間前?一週間前っていえば……『一週間前にご家族には伝えておいた』って姉ちゃんと一緒に居た兵隊さんがそんな事言ってたけど……あの人がジークフリードなのか?
「あぁ……そういえば……受け取ってました」
俺の頭の中は?がたくさん飛び交っていたが、とりあえずはその場を誤魔化す事に決めた。
王様の話を聞く限り嘘をつき通す方が長生き出来そうだと思えたからだ。
「出立前に、王様にひとつお願いがあるのですが?」
「なんじゃ?申してみよ」
「ありがとうございます。では、大きい台車を一台と、大人二人包めるぐらいの布を一枚頂けませんでしょうか?」
間髪入れる事無く俺は城から出る為に、話題を変えようと王様にお願い事をした。
嘘をつき通すと決めた以上、城に長居したくなかったからだ。
王様は『そんな物を何に使うのか?』と言いたげな顔をしたが、特に何も聞く事もなく手配をしてくれた。
幸いにも二つとも城の中にあり、直ぐに用意が済んだ。
「では、魔王を倒しに出立したいと思います」
「おおっ!行くか……勇者彦麻呂よ!戦果を期待しておるぞ」
左右一列に並んだ兵隊さん達が手にした剣をかざしトンネルを作り上げた。
俺は台車の上に剣と盾、タブレットを置くと、取っ手を握り指先に神経を集中させていく。
指先から台車へ魔力が行き渡りふわりと地面から数十センチほど宙に浮かんだ。
車輪なんてものは今時使わない……というか付いてもいない。
俺は台車をゆっくりと押すと、慎重にトンネルをくぐり始めた。
助かった……とりあえず俺の首は繋がった。
だが、この先……世界平和と俺自身の命。この二つが両立出来る方法を考え出さなければならない。
とりあえずは……100万ガルドだな。
俺は重い身体を台車に預けつつ、城の出口を目指した。
これが、俺の旅の幕開けだった。
世界を救うとか、国の為とかそんな事は正直どうでもよかった。
『両親から100万ガルドを取り返し、自身の生命を失う事なく最良の結果を得る方法』なんて事を考えたりしていた。
そう、俺は現状に対して悲観するという精神は持ち合わせていない。
あの家族相手にそんなネガティブな思考ではやってられなかったからだ。
「それでも俺はくじけない」
これが俺の幼い頃からの口癖だった。
心がくじけなければ、必ず突破口は開ける。
俺は自宅に戻り100万ガルドを取り戻すべく、まずはこのクソ重い鎧を脱ごうと思った。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
最初の第一歩を踏み出す――までを描いた旅立ちだったのですが、いかがでしたでしょうか?
次回からは、ようやくヒロイン登場となります。
まだ、説明回ぽいやりとりが続いてしまいますので、その点だけはご容赦ください。
次回更新は12/05/5時(更新予約済み)
引き続きよろしくお願いします。