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記憶改変

 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 そんな、バカな……だけど、俺の目の前に広がる光景はまさしく、自分が長年過ごした部屋で間違いはなさそうだ。俺は一瞬自分が記憶違いを起こしていて、生まれてからずっとモニカと暮らしてたのかとも思ったのだが、では……あの時の、あの日城に連行された日、いまだにはっきりと記憶に残っている数日前の出来事。

 俺は、モニカを押しのけて部屋に入る。見慣れた自分の部屋、ベッドの位置からすべてにおいておかしな所はないようだ。俺は、ベッドをずらすと床板を外す。床下の収納から出てきた俺のへそくりまでがそのままだった。

 「ヒロ……君、そんな所にそんな物隠してたんだ」

 モニカが、俺の背中越しに顔を突き出しながら、俺のへそくりを見て呆れた声を出した。

 「モニカ、俺疲れてるのかな?」

 「まぁ、いろいろあったみたいだしね……」

 「……なぜ、わたしを見る」

 モニカはそう言いながら、リリイの方へと目を向ける。リリイはそんなモニカの視線が気に入らないのか、モニカを睨みつけた。

 俺は頭が混乱してしまって、睨みあうふたりの相手をする気にもなれない。俺はへそくりを手に、立ち上がると部屋を出て、頭を冷やそうとした。

 「ヒロ、まだ底に何か残っておるぞ」

 マーテルが、俺の肩の上から床下収納の方へ、身を乗り出すように目をやりながら俺に声を掛けてきた。

 俺は、マーテルに言われてもう一度収納へと目を向ける。収納の奥底の方に、小さく折りたたまれた紙片があるのを見つけた。俺は、その紙片を収納から取り出すと広げて目を通してみる。


 ――ヒロへ……この手紙を読んでいるという事は、自分の部屋で今あなたはさぞかし混乱している事でしょう……

 

 この筆跡……姉ちゃんの手紙か。混乱している……姉ちゃんの、俺の現状を知っているかのような文面、そこに書かれている手紙を読んでいた俺は、立ち上がるとモニカとリリイをその場に残して、モニカの家を飛び出した。

 「ヒロ!ヒロ落ち着け!お主、どこへ行くつもりじゃ?」

 「自分の家だよ!」

 俺はマーテルに向かって、そう叫びながら自分の家の方へと駆けて行く。村の風景――生まれてからずっと過ごしたその景色は、なんら変わる事なく俺の記憶の中と一致している。あの角を曲がれば……俺はそう思うと息つくのももどかしく全力で駆ける。

 「そんな、ウソだろ……」

 俺は角を曲がると、その場で茫然と立ちつくしてしまった。何もない……俺が16年間過ごした家は跡形もなく無くなり、そこはただの空き地となっていた。

 「こんな空き地で、いきなり立ち止りおって……ヒロお主、先ほどから様子が変じゃぞ」

 「ここは、俺の家があった場所なんだ」

 俺は肩で大きく息をしながら、マーテルにそう告げる。俺の周辺で何かが起こっているのは間違いないようだ。それが、俺が勇者として選ばれ旅に出された事と関係があるのかは知らない。俺は、知らず握りしめてしまっていた姉ちゃんの手紙に、再び目を通す。姉ちゃんが、何かを知っているのは間違いないようだ。

 「中央大陸か……」

 姉ちゃんの手紙の最後に書き記されていた文面を、再度俺は読み返してみる。


 ――……詳しい事情は、中央大陸にあるゼリア聖王国で伝えるね。あなたの美人な姉より――


 相変わらずの、ふざけた態度が文面にも滲み出ているが、逆にいえば、姉ちゃんは存在していて俺と暮らしていたという証明にもなる。それにしても、ゼリアか……まぁ、どちらにせよ、いずれは行かなければいけない場所だったのだ……俺はそう思うと、怪訝な顔を向け続けているマーテルに『みんなの所へ戻るよ』とだけ告げて、元来た道を歩いて引き返すことにした。





 「……ヒコ様、だいじょうぶ?」

 心配そうな表情で、リリイが俺の顔を見あげてくる。

 あの後、俺たちはモニカの家で一晩を過ごした。戻ってきた俺を、モニカとリリイは心配しながらも家の中へと迎えてくれた。朝、何事もない風を装って俺は起床すると、モニカの家で朝食を採りそれから、フーベルトゥスの爺さんに聞いていた魔王の遺跡へと足を運ぶ事にした。

 「大丈夫だよ、リリイ」

 俺は、リリイを安心させるように笑顔を向けると、道の先へ視線を移した。ウナの村を西、この街道の道の先をしばらく行った所の周辺に、爺さんが言う森があるとの事だが、ウナの周辺に、そんな森があったという記憶はまったくなかった。

 「ヒロ、本当に村の周辺にそんな森があるんでしょうね?」

 「なんじゃ、お主?モニカと言ったな。わしの旧友でもあるフーベルの言葉が信用できんのか?」

 なぜか、モニカもこの道中に同行してきている。俺とリリイは口を揃えて止めたのだが、まったく聞く耳を持たず、一宿分の宿賃代わりに連れて行けと、かなり強引についてくる事になってしまった。そうなってしまうと、マーテルが見えないというのも不便なものなので、姿を見えるようにしたのだが、元々気が強い者同士馬が合わないのか、さっきからなにかとモニカの言う事に、マーテルが突っかかるという頭の痛い展開が続いていた。

 「……ヒコ様、着いたの」

 俺たちを案内していたリリイがそう言って立ち止る。街道の途中、見渡す限りの平野しか俺の目には映らない。

 「リリイ、どこにも森なんてないぞ」

 「……いま、見えるようにするの」

 リリイはそう言うと、地面に手を付けてぶつぶつと何事かを念じ始める。

 「……結界強力、困った」

 すぐに立ち上がり、俺のそばへと寄ってきたかと思うと、そのまま俺の服の袖を掴んで黙ってしまった。

 「ヒロ、お主リリイと協力して、もう一度同じようにしてみるのじゃ」

 マーテルが俺の肩の上で、俺にそう促してくる。リリイがやってみて駄目なものを、俺が加わった程度でどうにかなるとも思えんが、じっとしているよりはましかと、俺は側でじっと俺の顔を見あげているリリイに顔を向けた。

 「……ヒコ様と、初めての共同作業」

 リリイは、嬉しそうに表情を輝かすと、俺に同じ格好をしろと手で伝えながら、自身も先ほどと同じ格好をする。リリイのひと言に、肩でブチブチ言っているマーテルをよそに、俺はリリイの言葉に従い、同じような格好をした。

 「これでいいのか、リリイ?」

 「……そう、もう少し体寄せる」

 俺は言われるがまま、リリイと体を密着させる。リリイは、俺がポジションについたと判断すると、先ほど同様、何事かをぶつぶつと念じ始めた。

 次回更新:6日17時です。

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