選ばれし者
この作品なんですが、必要最小限の説明以外での背景描写をしない方向で書いています。
「どうされましたか?」
「いやぁ~、なんか改めて職業見てて俺って勇者になったんだぁと思ったら、ちょっと声を詰まらせちゃいましたよ」
大臣の探るような視線が痛い。
やっべー、油汗止まらねぇよ。でも、本当の事を言ったら確実に生きてここから出られないだろう。
「まぁ……いいでしょう」
なんとか誤魔化せたようで、俺は内心ホッとする。
「……次にLVです。これは単純に強さを表します。ひとつ上がる毎に、あなたは勇者としての能力を開花させていくでしょう」
ふむふむ、これはまぁ便利かもしれない。
強くなるのに何十年も修行しろと言われるよりはマシかな……どう上げていくのかは知らんが。
「LVはどうやってあげるんですか?」
「魔王配下のモンスターを一体倒す度にひとつずつ上昇していきまする……今、不安な顔をされたようですが、ご安心ください」
大臣は自信に満ちた声色で話を続ける。
「勇者様用の伝説の武具を世界中より取り寄せ用意しておりますれば、どんなモンスターが来ようが楽勝でございますので」
伝説の武具か……そんな物を最初から用意してくれてるならば楽勝なんじゃね。
どうだ!と言わんばかりに勝ち誇ったような表情を見せる大臣に適当に合わせながら俺は別の事を考えていた。
それにしても……魔王配下ねぇ。俺に配下なんて居たっけ?考えて真っ先に脳裏に浮かんだのが両親と姉ちゃんなんだが、配下つうか、奉仕してたの俺だしなぁ。
てっ……いうか、戦うって……俺は俺と戦うのか?
「ここからが特に重要でございますれば、よくお聞きになってくださいませ……よろしいですか?」
いつの間にか、話が次に移ろうとしている。
確認をとってくる大臣に、俺はただうなずく事しか出来ない。
「では、HPの説明をさせて頂きます。勇者様と、お仲間のお命は今後このHPで管理される事になります」
「意味がわかりません」
「ようするにですな。今までなら即死するような内容の物。例えば、腹に大きな穴が開くとかですな、そういう事が起こってもHPが1でも残っていれば、あなた様は死ぬ事はございません……」
おいおい……さらっと言ってくれてるけど、かなり物騒な内容なんですが……。
「……これは、モンスターとの死闘に生身のままではあまりにも過酷だという事で、神様からの配慮でそういう仕様になっております。しかし……」
「……しかし?」
嫌な流れだ。
「痛覚はそのままなので、出来るだけ大怪我は避けてくだされ」
サラッと、とんでもない事を言いやがったよ。
大体、こういうのを配慮って言うのかよ。傷の内容によっちゃ、HP=拷問になりかねんぜよ。
「これって……救済ないんすか?」
だんだん馬鹿らしくなってきた。自然と話し方も投げやりになってきてしまう。
「HPを回復する為の薬や魔法はあるが……怪我は、病院へ行ける範囲の物は病院へ行ってもらう事になるか……後は、そうですな……痛みを飛ばす不思議な粉ならありますが、使いすぎるとハイになって現実に戻れなくなる危険性がありますな」
頭痛くなってきたぞ……要するに、諦めて現実を受け入れろって事だよな。
迂闊にサインした俺も悪いんだけどさ、最初の文言にこんな重要な事記載しない契約書ってどうよ?
「まぁ、そんな顔をなされますな。大丈夫……伝説の武具があるのです。勇者様の身体に傷ひとつ付きはしませんから」
この野郎……内容知ってて契約後にこんな説明しやがって、大体その伝説の武具ってのはどこまで俺の身を守ってくれんだよ。
直接打撃じゃなく、炎や毒霧、水攻め……鎧貫通しそうな攻撃で中身悶絶、武具無傷なんてオチが素人の俺でも想像出来るんだが……。
「……とりあえず、説明はもういいっす……その伝説の武具ってのを受け取って旅に出てもいいっすか?」
どうせ拒否する事など、目の前の王が許すはずがないのだ。
ならば、現状出来る事をやって生き残る術を考えようと俺は思った。
「おお……そうか、そうか……いよいよ旅立つか」
王がそう言い、大臣が手を打ち鳴らすと奥の間からしずしずと女官の人達が来て、俺は部屋を移動させられてしまった。
通された先の部屋の中央に、それと見て伝説の武具と分かる装備が綺麗に陳列されていた。
部屋は俺が住んでた家がまるまる収まるぐらいの広さを有しており、伝説の武具以外何も置かれていない。
正直、無駄に部屋余ってるのかよと思う様な贅沢な使い方だった。
「すげー!」
伝説の武具を目の前にして、第一声で発した言葉がこれだった。
実際、これ以上の褒め言葉が俺の教養の範囲じゃ咄嗟に思いつかなかった訳だが。
それにしても、デザインセンスの良い武具だ。これを着て英雄となっている自分を想像してみる。
――悪くない――
刺さるような視線を感じ我に返ると、女官の人達が訝しげな視線を俺に向けていた。
顔がにやついていたらしい。
「着替えるんで、出てもらってもいいですか?」
俺は、自分の醜態を見られた事を誤魔化しつつ、ひとりで着替えも済ませたかったのだが……。
「いえ、お手伝いさせて頂きます」
あっさりと返されてしまった。
……とはいえだ、着替えを手伝うということは……すなわち彼女たちの前で脱ぐという事を意味している。
女官の人達はみんな若く、俺より3つ4つ年上ぐらいじゃないかと思える。
俺がまごついている間にも、女官たちは俺の衣服を剥ぎ取ろうとしてくる。
「ちょっ……ちょっと、まっ……」
女官の人達の統制のとれた連携の前に、女性に対する免疫のない俺はロクに抵抗すら許されはしない。
わずか十分ほどで、俺の着替えは完了した。
「どこか、苦しい所はございませんか?」
『全てを見られた』俺の頭の中はそれしかなく、上の空で話を聞いていた。
「えっ……あぁ……だいじょう……ぶ!」
我に返り返事をしようとした瞬間、俺の身体に突然異変が生じた。
「……大丈夫ですか?」
あまりに突然だったので、俺は自身の身に起きた事が一瞬理解出来なかった。
不安げに顔を覗き込んでくる女官に対して返事を返すのもきつい。
「……だい・じょ・うぶ……」
重い……最初、身体に異変が生じたと思ったが……そうじゃない、鎧が重くなったのだ。
鎧だけじゃない、手にした盾も……武具その物が急激に重くなってしまったようだ。
……冗談じゃない。
不平不満を胸に秘め、俺は唯一軽い剣を杖代わりにしながら、ヨタつく足取りで部屋を後にした。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
ライトノベル風な文章になっているのか、いつも首を捻りながら書いてるのですが、いかがでしょうか?
今回、道具に魔力を流すシーンがようやくでてきました。
説明文っぽくなく伝えていくを念頭に書いてるのですが、ちゃんと書けてますでしょうか?
最後に次回更新は12/04/5時になります。
旅立ち編は5編になります。
完成後、PDF対応版という題名でひとつにまとめ、12/04午後辺りにでも投稿しようと思います。
では、引き続きよろしくお願いします。