表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/64

モニカ

3人目です。

 「あやつは、いったい何者なのじゃ?」

 「だから、フーゴって名乗ってたろ」

 「そんな事は、分かっておるわ」

 いつもの調子で怒りはじめたマーテルを尻目に、俺は少しホッとしてしまっていた。面倒事だらけの現状で、これ以上面倒事が増えるのはごめんだったからだ。とりあえず、この街道をあと少し真っ直ぐ行けばウナの村なんだ。うっすらとおぼろげに見え始めた町の輪郭を遠目にしながら、俺はそんな事を考えていた。


 「じゃあ、リリイ行こうか」

 俺は自然を装ってリリイと手を繋ぐと、そのまま街道を歩いていこうと思っていた。フーゴの横やりでうまい事うやむやになっている問題を、そのまま遠くへと流してしまおうと考えたからだ。


 「……ヒコ様」

 リリイは無言で手を握り返してくると、俺の顔をうかがうように覗き込んでくる。捨てられた小動物のような瞳で見つめてくるリリイに、俺の心はそうそうに砕けてしまった。


 「おいで、リリイ」

 「……ヒコ様、やさしいから好き」

 あまり、表情にでないリリイだけど、本当に嬉しい時とかにまれに見せる、表情が可愛らしくてドキッとさせられる事がある。微かに微笑むリリイに、俺の心境は正にそういった感じになった。


 「おい、ヒロ」

 すごい目で俺の事を睨みつけ凄んでくるマーテルに、俺は『うっ』と思わず口から声を洩らし動作を止めてしまう。中途半端な姿勢で固まる俺に、リリイがじれて抱きつこうとしてくる。

 「しっしかたないだろ」

 俺はリリイを再び抱きあげると、マーテルから発せられる強烈な視線を無視しつつ、街道を再び歩き始めようとした。

 

 「うぉお!獣魔はどこだ~!」

 聞き覚えのある、威勢のいい声がウナの方角から突撃してくるのを感じ、俺はすごく嫌な予感がすると共に、体を道の脇へとすすすと避けておく事にした。想像通りの人物ならば、ある意味先ほどのボアよりも厄介な事になると心得ているからだ。


 スタイルのいい体に、運動しやすそうな服装の女の子が地面すれすれにまで伸ばした長い黒髪を、風でたなびかせながら疾走してきた。その女の子は俺たちの脇を猛然と通り過ぎると同時に、両足を急激に踏ん張って体を止めてしまった。

 

 「やっやぁ、ひさしぶりモニカ」

 俺は自分の顔が引きつり始めるのを感じていた。

 「あれっヒロじゃない。君はこんな所でいったいナニをしているのかな?」

 モニカは俺の幼馴染みであり、家族の次に苦手な存在でもあった。両腕を腰に当て、両目を凝らすようにじっと見つめてくるモニカの視線の先には、俺の両腕に収まっているリリイの姿がある。


 「……なに、このひと?」

 初対面でいきなり見られた事が不快だったのか、リリイの口調にほんの少しとげが感じられる。

 「そういう君は、どこのどなたさまなのよ」

 売り言葉に買い言葉という言葉がある。昔のひとはうまい事言ったものだなぁと、目の前で勃発し始めようとしている新たな争いから、俺は一瞬だけ現実逃避をしてしまった。

 

 「えっと、この娘はリリイって言うんだ。お世話になった方のお孫さんで、すごく大切に扱うよう言われてるんだよ」

 ウソはどこにもないはずだ。俺は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりとモニカに伝えていく。

 「へぇ~すごく……大切に、ねぇ」

 俺の言い分にウソがないか、確かめるようにモニカは俺の瞳を覗き込むように見てくる。

 

 「……なに、このひと?」

 リリイがオウム返しのように、同じ質問を繰り返す。ただ、さっきと違うのは、俺の事を見ているモニカに対して、リリイが露骨なまでの拒否を見せている事だ。

 「リリイ、こいつは俺の幼馴染みでモニカって言うんだ」

 「こいつって何よ、こいつって」

 耳元でマーテルの『またしても女か』という声が届いているが、俺はそちらの相手をしている余裕はない。モニカは俺の鼻に指先を突きつけながら『ずいぶんと、その娘の事を大事になされてるのね』などと言って詰め寄ってくる。

 「……ヒコ様とわたし、夫婦。大事にする当然」

 「ふっ夫婦ですって!」

 リリイ、なんてことを言ってくれるんだ。リリイは当然の主張をしたまでともいうような顔をしているが、今回は相手が悪い。

 「ヒロ!君ね……よりによってこんな小さな娘をたぶらかして……」

 モニカの全身が小刻みに震えだしたのを見て、俺は反射的に上体を横へと反らさせた。

 「いったい君は何をやってるのよ!」

 言葉と同時に繰り出されたモニカも正拳突きが空を切る。すさまじい速度で繰り出された突きの威力で空を切る音が俺の耳にまで届いてくる。しかし、モニカの突きの威力はこの程度のものではない。俺の背後で何か硬い物が割れるような音が響いてくる。おそるおそる俺は背後を振り返り、目が点になってしまった。ちょうど俺たちがいた地点。街道脇に、俺の身長ぐらいある大きな石の塊が岩のようにせり出しているのだが、その中心辺りが砕けて、拳大の穴が穿たれていたのだ。


 よ……避けなきゃ、どうなっていたんだ俺?穿たれた穴を見ながら、俺はそんな事を思ってしまった。

作者の都合で、一日一投稿も厳しくなってしまいました。

次回更新、28日17時になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ