疑惑
2章です。話し的にダラダラ冒険させてもしょうがないので、バイオでいう所の追跡者的キャラを登場させてます。まだ、ヒロが旅に出された本当の理由などは伏せられたままです。
ギルド――別名中枢教育機関アウスビルドゥンク。
大陸中央に本部を持つこの機関は、世界中で採れる晶石の流通、相場の監視、森林などの自然に対する不法な伐採、他種族の体内にある晶石目当ての拉致誘拐への対応、冒険者への仕事の斡旋、若者達への学業教育、そして騎士を志望する若者への修練教育とその役割は多岐に及び、12の課に分けられ管理がされていた。
――これは、前代未聞の不祥事ではないのか。
――そもそもなぜ、ブローカーのような犯罪組織の依頼が、ギルドに登録できたのだ。
この日、中央本部の議会場は朝から騒がしかった。先日起きたフロンテラ近郊の森、エルツ・フォレストにおける魔族とブローカーとの抗争に、ギルドから出された仕事の依頼で集められた冒険者の多数が死亡するという事件が起きてしまったからだ。
その場を脱出した者からの報告が、フロンテラにあるギルドを介して中央本部へ伝えられたのが昨夜の事。
それから、一夜明けて朝早くから招集された臨時会議は、開かれる前から既に意見と意見がぶつかる論争の場としての様相を呈していたのだった。
「お静かに」
凛と澄み渡る声が議場に響き、それまで止むことなく続いていた声がピタリと止んでしまう。
「皆様、今日は朝早くからお忙しい時間を割いて、本議会に出席参加して頂けた事感謝しております」
ステイシーは、会場を見渡し満足げに微笑む。
若干25歳。異例とも言える若さで議長へ就任した現ギルドのトップは、それに相応しい技量を場に見せつけるかのように演説を始めた。
「昨夜起きたエルツ・フォレストの一件、非常に重大な事案として取り上げられていますが、正直な話……わたしには、この場で議論をするほどの事ではないように感じています」
「ステイシー議長、それはいったい……」
立ち上がり、声を張り上げかけた出席者のひとりを、ステイシーは片手をあげて静かに制すと、話しを再び再開させる。
「なにも、どうでも良いなどと言っているわけではないのです。ただ……今回の一件が、たまたま議題として取り上げられるほどの数の犠牲者を出したというだけで、大なり小なり怪しい案件は、私個人が調べただけでもこれだけ出てきました」
ステイシーは、そう言うと分厚い書類の束を壇上の上に静かに置く。
「静粛に」
再び、ガヤガヤと騒がしくなりだした場内にステイシーの声が響き、一瞬にして場内は元の落ち着きを取り戻してしまう。
「枝葉をいくら切り落としても意味はないように、わたしは思うのです」
「では、対策はしないと?」
「レンナルト教育課長、わたしは対策はしないとは言っていませんが」
ステイシーから見て一回り以上年上のはずのレンナルトが、ひと言で黙らされてしまう。議場は既にステイシーの独壇場となろうとしていた。
「ギルドはその総力を挙げて大元を断ち、このような悲劇や犯罪の仲介に、ギルドが利用されないようにしなければならないと、わたしは考えております」
「大元とはいったい?」
「勇者、彦麻呂」
ステイシーの発言に議場にどよめきが起こる。
「静まりなさい。この話には、まだ続きがあります」
ステイシーの言葉に、議場は水を打ったような静けさとなる。
「まだ、現段階では黒ではありません……しかし、白でもないと言えるでしょう」
「なにか、疑えるような材料があるとでも?」
「あります」
ステイシーは、自身が握っている情報を静かに話していく。
エルツ・フォレストにおいて多数の冒険者が、ブローカーが拠点としていた洞窟に入っていく年若い少年の姿を見ているという事。そして……彼らが語る人物像と、彦麻呂の特徴が一致しているということ。
ノームなど他種族と行動を共にし、ブローカー拠点を襲った魔族と何やら会話をしていたということ。
彼らが現在、ウナの村方面へ進路を取っているという事。
「今のが、勇者が大元である証拠なのですか?」
ステイシーの語った内容に、議場に集まったギルド幹部達は首を捻った。
「ここからは、皆さんも知らない内容の話になります」
そんな、議場の様子を無視するかのようにステイシーは、更に話しを掘り下げていく。
「この世界には、魔王ロウが残した遺産が眠る遺跡群があるのです」
議場が再びざわめき始める。
「そして、エルツ・フォレストの洞窟……あれは、ロウの遺跡のひとつでもあったのです」
「それが本当の事だとしたら……」
ブローカー拠点への、魔族の攻撃。その後、タイミングよく現れた勇者。しかも、魔族と何やらやりとりをしていたとなると、確かに怪しくも見えなくもない。
「しかし、彼は勇者だ。ロウの遺産など何の価値もない様に思えますが?」
「彼が、アーサーの血族ではなく、ロウの血族だとしたら?」
議場は一瞬静まり返った。万が一そんな事にでもなれば、事は一大事だ。中央大陸内での、魔族との戦いが激化していく中で、起死回生の切り札として、タブレットの言うままに勇者を旅に出させたのだ。
「どちらにせよ、彼が魔王の血筋であるかどうかは、現在向かっているウナの村においてはっきりとするはずです」
「議長、それはどういう意味ですかな?」
「ウナの村より少し北西に行った先に、ダズル・ウッド。通称、幻惑の森と言われる場所があります」
「わたしはウナ出身の者だが、そんな森見たこともまして……聞いた事もないのですが?」
幹部のひとりが、そう意見するのをステイシーは黙って聞き届ける。
「それは、そうでしょう。あの森は、ロウの……魔王の呪力によって守られているのですから、認識できなくて当然の事です」
ステイシーはサラッとそう言ってのけると、更に話しを続けていく。
「彼らが……もしも、通常認識できないはずの入れない森に足を踏み入れる事があれば……そして、森深い所に封印されたロウの遺跡。かたく閉じられた門を、勇者がもしも開いたとすれば……それは、魔王の血筋の確かな証明となりうるのではないでしょうか?」
――たしかに……それは確定的証拠なりうるが……。
――しかし、それをどうやって確かめるのだ。なにせ、森を認識することが我々には出来ないのだぞ。
「静粛に……皆さんの仰りたいことは分かっております。ですが、ご安心ください。ギルドには、このような事態に対応出来る、最終兵器とも言える人材がおります」
ステイシーの発言に、ざわついていた場内が急速に静かになり、変わって場を緊張が包んでいく。
「教育特務局第13課……ギルドが誇る最強の戦士。お入りなさい、教師ヴィクトール」
ステイシーの声と同時に、議場の扉が乱暴に開け放たれる。
「ステイシー……この、俺を顎で使うとはずいぶんと偉そうになったものだ」
2メートル近い身長をしたがっしりとした体格の男が、議場をゆっくりとした足取りでステイシーの元へと歩いていく。全身黒で統一された着衣の上からゆったりとした白いコートを羽織り、その裾をはためかせていた。
「先生、おひさしぶりでございます」
「そういったあいさつは不要だ……」
男の表情は、戦士のそれであり教師のものではない。
「さぁ……要件を言え、ステイシー」
そう言いながら男は、左手で眼鏡をくいっと動かすのだった。
強さとインパクトを求めて、いろんな作品見て回ったのですが、イメージ的にはここに落ち着きました。それにしても、チートキャラって扱いが難しいです。
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