エピローグ2
エピローグの中編です
「で、逃げ帰ったという訳ですか」
フロンテラの北通りにある高級ホテルの一室で、フーゴはエルツ・フォレストでの事の顛末を聞いていた。
明かりが付いていない薄暗い室内。屈強な肉体を持った男達が、フーゴに睨まれて脂汗を流していた。
「晶石など、必要な物は当然すべて回収したのでしょうね?」
「はっ……はい、アジト内の物はすべて……こちらに」
男達はそう言うと、フーゴの足元に両手で抱えれるほどの箱を差しだした。
「ふむ……」
フーゴは差しだされた箱を受け取ると、中身を確認するために蓋を開ける。
中には、大小20粒ほどの晶石が入っているのが確認できた。
「ガメてはいないでしょうね?」
「めっ……めっそうもございません」
主人の瞳孔が縦に細く長く伸びるのを、男達は生唾を飲み込み見つめる。恐怖が空間を支配する。逃げ出したい衝動以上に、あまりの恐怖で男達は身動きすら出来ない。
「まぁ……いいでしょう。ところで、肝心な物が見辺りませんが?」
フーゴのひと言に男達は顔を見合わせる。何の事かまったく心当たりがなかった。アジト内の物は、すべて移動させたはずだ……あの少女をのぞいて。
「ノ……ノームのとこにいた女なら、連れて帰っても面倒なんで、置いてきやしたが……」
「ノーム……女……あなたは、わたしをバカにしているのですか?」
「ひいっ!」
男は恐怖のあまり後ずさってしまう。
「わたしが聞いているのは、手の平に乗るぐらいのサイズの鉄製の箱の事です」
男達は知らないという表情で顔を見合わせる。
「ふ~……」
フーゴは大きくため息を吐くと、男達の顔を一人ずつゆっくりと見回しながら口を開こうとした。
「それなら、俺様が知っているぜ……」
「誰です……ノックもせず、立ち聞きをした上に土足で部屋に上がり込むとは」
フーゴの背後。部屋の窓がいつのまにか大きく開かれ、その窓のすぐそばにひとりの男が立っていた。
「あの呪力の掛った箱は、あんたの物だったのか」
「あなたは、誰なのか……名乗れとわたしは言っているのですが?」
――ひぃ……。
フーゴから放出されたとてつもない殺気に男達から悲鳴が洩れる。
「俺様は……アズレトだ。にしても……アジトを見つけて根元を断とうとしたら、こんな化け物が親玉だとはな」
アズレトの背中に冷や汗が流れる。さきほど彦麻呂から負わされた傷がいまだに完治しない。
厄介な相手だ、体が万全でも勝てそうにないな。アズレトはそう素早く判断した。
「俺を見逃してくれるなら、箱のありかを教えてもいいぜ……」
「あなたは、わたしと交渉できる立場に自分があると思っているのですか?」
「交渉が無理なら、ここで一戦やるしかねぇな」
フーゴは少し考える。この者を殺すのは容易い、だが殺せば箱の在りかが分からなくなってしまう。
「分かりました……箱の場所を話しなさい」
「身の安全は保障されるんだろうな」
「わたしの……気が変わらないうちに話しなさい」
室内に立ち込める殺気がすさまじい物へと変わっていく。
「わかったぜ……箱は彦麻呂ってやつが所持している」
「彦麻呂!」
フーゴはとつぜん叫ぶと、今度は打って変わって温和な表情へと変わっていく。
「これも因果のなせる業という事ですか。それにしても……これほどまでに私に都合のよい展開になろうとは……」
「知りたい事は伝えたぜ……俺様はもう行ってもいいな」
「えぇ……構いませんよ。良い情報をありがとうございました」
助かった……アズレトは内心ホッとしながら入ってきた窓から出て行く。
それにしても……アズレトは思った。彦麻呂とはいったい何者なのかと。
あの時、ノームの娘との間に立った彦麻呂の瞳の奥で、何かが……揺らいで見えた。瞬間的な恐怖にとらわれて、反射的に魔法を放った。直後に背後を襲ったあの珍妙な見た事のない武器に殺されそうになったが、彦麻呂の意識が途絶えると同時に解放される事が出来た。
あいつは、本当に人間なのだろうか?フーゴって野郎といい、いったい何が起こってやがる。
アズレトはそんな事を考えながら、フロンテラを後にした。
「さてと……あなた達への処分なのですが」
アズレトが遠ざかるのを見届けたフーゴが、男達の方へと向き直る。
「フッ……フーゴ様、命だけは」
「安心なさい、あなた達にも使い道が出来ました。殺しはしません。行ってもらいたい所があるのです」
フーゴの言葉に男達は安堵の表情を浮かべる。
「でも、その前に……」
フーゴの瞳孔が縦に長く伸び、その口から人間の物とは思えない長い舌が顔を覗かせた。
フーゴは男達にゆっくりと近づいていく……。
「あなた達を少しいじる事にしましょう」
次回更新、17時になると思います。




