契約
今回の内容の中で『あぁ、よくありがちな設定だな』と思わせるものがあります。
ありがちだと思ってもらえれば、作者的には成功だと思っています。
彦麻呂の名前は適当ではありません。エピローグまでいけばわかってもらえるかと。
「……で、あるからして……」
俺が今朝の事を振り返っている間にも、王の側に立っているメガネを掛けた厳めしい表情をしたおっちゃんが、何か難しい事を延々と話し続けていた。
だが、俺はまだ場の雰囲気にのまれてしまっているのか、頭に全く話が入ってはこない状態だ。
「……の内容で良いか?勇者殿?」
「はっはい!」
いきなりだった。何かの内容の同意を王様に求められ、俺はとっさに返事をし立ちあがってしまった。
――静まり返る謁見の間。
俺は自分の死を予感した――次の瞬間だった。
「おお!やってくれるか!」
突然、王様は叫ぶと玉座から駆け降り俺の手を力強く握りしめた。
「大臣!」
「ははっ!」
先程まで喋っていたおっちゃんが何かを手に俺の方へ駆け寄って来た。
「これは『タブレット』と呼ばれる魔法の道具でございます。では、これにサインを。勇者殿」
早口でまくし立てられ、俺は戸惑いを感じながらも両手でそれを受け取る。
えっ、サイン?何の事?話を聞いてなかった俺が悪いと言えば悪いのだが、そもそも勇者って何よ?
『もう一度説明を求む』とも言えそうにない空気だ。
俺はせめて、書状の内容だけでも確認しようとタブレットに目を通す事にした。
辞書ぐらいのサイズの薄っぺらな木製の本体に、ガラスのような透明な質感の金属のような物が鏡のようにはめ込まれており、真っ暗な画面に俺の顔が映っている。
俺は大臣の説明を聞きながら、タブレットに魔力を流していく。
真っ暗な画面に光が灯ったと思った瞬間、中央に文字が浮かび上がって来た。
『あなたは、勇者として認められました。勇者になる事に同意しますか?』
すごく、簡潔な文だ。
まぁ、読む限り肩書きだけの事のような感じだし……そんな事を考えながら顔をあげると王様と目があった。
顔は笑っているが目が笑ってない『早くサインしろ』とその目は物語っている。
かなり嫌な感じがしたが『サインをしない』という選択肢をした場合、俺の首と胴が永遠にバイバイしそうな予感がしたんだ。
少し考えた後、結局俺はサインをする事にした。
サインをした瞬間、タブレットが光り輝き文字の内容が変わりだした。
「タブレットの内容に変化がありましたかな?」
「変わりましたです」
おかしな敬語になってしまったが、王族、貴族の人と話すなんて初めてのことなんだから仕方がない。
だが、王も大臣も俺の言葉なんて耳に入ってないようで、ただ満足げに頷いているだけだ。
「これってなんなんですか?」
「説明しましょう」
俺に向かって、タブレットにもう一度目を通す様言いながら、大臣は咳払いをひとつすると背筋をピンと伸ばした。
「そのタブレット内の文章は『ステータス画面』と呼ばれる、勇者にのみ与えられる特権のひとつでございまする」
「ステータス画面?」
「左様でございまする。あなた様とその仲間の現在の状況を数値化した物であり、これから先の魔王討伐に必須のアイテムになりますれば、そのタブレット、失くさず大切に保管してくだされませ」
「魔王討伐!?」
「何か?最初に説明申し上げたと思いますが?まさか……聞き流されてたとかではございますまいな?」
大臣ににらまれて、俺はしまったと思った。
言葉ひとつが命取りとなりかねない状況なのだと、あらためて自分自身に言い聞かせる。
「イエ、メッソウモゴザイマセン」
「ならば、よろしい。では、説明を続けさせて頂きます。同時にステータス画面の内容に不備がないかも確認しますので、宜しくお願いしますぞ……勇者殿」
「はい……すいません」
俺は慌ててステータス画面に目を落とした。
「では……初めに名前がきていて、あなた様の名前が表示されてますでしょうか?」
「はい。間違いないです」
「次に、職業ですが……当然勇者なので、勇者と記載されてますかな?」
「はい。まちが……」
俺は思いっきり狼狽してしまった。
職業欄には魔王と記されていたからだ。
縦読みしようがどうしようが、これを『ゆうしゃ』とは読まない事ぐらい学生の俺にだって解る。
同時に俺は、生命の危険を本能で感じとっていた。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございます。
今回は最重要アイテムであるタブレットが登場しました。
アイテム設定する際に、身近な物でイメージしやすい物……で設定していったので、こういうものはたくさん出てくると思います。
ステータスは適当に設定していませんとしか今はここまでしか言えません。
最後に、次回は12/03/5時投稿(予約済み)
引き続き宜しくお願いします。