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挑戦

 おはようございます

 前哨戦後の展開です、いい加減な展開ではなく、フーベルトゥスの本当の実力を書いておこうと思っただけです。

 「なんだぁ……これは!」

 アズレトが叫ぶのが、俺の耳に聞こえる。

 火球が止んだ?俺は何が起こったのかと、上空にいるアズヒトのへ目を向ける。

 アズレトの体を何かのツタのようなものが絡まるように巻きつき、魔法の発動を邪魔しているようだ。

 

 「……だいじょうぶ?」

 いつの間にかリリイが俺の側に来て、俺の目を覗き込むように見つめてきた。

 「大丈夫だよ、それにしても……急になにが起こったんだ?」

 「……おじいちゃん」

 リリイはそう言うと、視線を動かす。俺はリリイの視線を追いかけていき、そこで……右手をアズレトの方へと突き出す爺さんの姿が目に入ってきた。


 爺さんの突き出している右手の先から伸びるツタのようなものが、アズレトの体へと繋がっているのを目にし、俺はようやく何が起こったのかが理解できた。


 「痛ててて……」

 アズレトの攻撃から解放されたと思った瞬間、俺の全身のあちこちが痛みだす。全身にひどい疲労感が漂っている。


 「よう、堪えたなヒロ」

 「……大丈夫?」

 マーテルとリリイが同時に声を上げる。ふたりは一瞬顔を見合わせたかと思うと、ムッとした表情でお互い目線をそらしてしまう。


 「ヒロ殿……体の具合はどうですかな?」

 爺さんは、アズレトの動きを巧みに封じながら朗らかに笑う。


 「よかった、フーベルさん治ったんですね」

 先ほどまで、いつ死んでもおかしくないほどの重症だった、爺さんの身体からはキレイさっぱり傷が消えている。特にひどかった右肩の傷も、その痕跡を残しているのは破れた衣服だけで、そこからのぞく肌にすり傷ひとつ見あたりはしない。


 「……あなたのおかげ」

 リリイはそう言うと、俺の右手を包み込むように握りしめてくる。瞬間、俺の肩の上で、なにやら感情の昂りを感じたが、そちらは気にしないようにしておく。


 「リリイ……おまえ」

 「……おじいちゃん」

 爺さんは、その光景を見て目を丸くし、それにリリイが何か決意した表情で頷いてみせている。


 「そうか……まぁ、お主もそういう歳ではあるし……ヒロ殿なら、問題もなかろう」

 「……おじいちゃん、ありがとう」

 爺さんは、ひとり何かに納得したように頷き、リリイはそれに応えるように爺さんに礼を言うと、俺の目を覗き込むように見つめてきた。


 なんだ、この空気は……。

 どう言ったらいいのか。場の雰囲気がひとり理解出来ず、俺は困惑してしまう。肩のマーテルに目をやっても『フン!』のひと言でそっぽを向かれてしまう。何か知らんが、さっきからマーテルの機嫌が悪い。

 俺には、マーテルが怒っている理由もわからない。


 「……名前、ヒロ?」

 リリイが首を傾げながら尋ねてくる。

 「いや、本名は彦麻呂っていうんだ。ヒロは愛称だよ」

 俺は自己紹介というやつが、昔からきらいだ。だいたい最初みんな、俺の名前を聞いておかしな顔を見せる。その反応でどう思われたのか、だいたい見当がついてしまうのもいやだった。


 「……ひこまろ」

 リリイは舌で転がすように、俺の名前を静かに口にする。リリイが向けてくる熱い視線に、俺はどう反応していいか戸惑いを感じてしまう。


 「……ひこ様でいい?」

 「みんな、ヒロって呼ぶしヒロでいいよ……それに様は変だよ、いらないよ」

 「……へんじゃない。ひこ様にする」

 この子、以外と……というか、相当頑固なんじゃ……。

 

 「……ひこ様、体の疲労とれる」

 リリイはそう言って、自身の腰に付けているポーチから何かの丸薬を取り出し、俺の口元に付きつけてくる。

 「えっと、これは?」

 「……いいから飲む」

 そう言うとリリイは丸薬を、俺の口に押し込んできた。

 「ぐっ……」

 にっ苦い……半端でなく苦い。強烈な苦みが俺の口の中に広がり、俺の身体は反射的に水を求めてしまう。


 「……少しだけ苦い」

 そういう大事な事は、口に押し込める前に言おう――そう、リリイに告げたいのだが、あまりの苦さに吐き気に近い状態になってしまい、俺はとてもじゃないが喋れそうにない。


 「……水ある」

 リリイはポーチから、今度は何かの果実を取り出す。

 「……たべて」

 小さな赤い実からは、まったく水を連想出来そうにない。さっきの事も手伝い、俺はすぐに口を開ける事が出来なかった。


 「……たべて」

 中々口を開けない俺に業を煮やしたのか、リリイがにじり寄ってくる。

 「あっ……あける、口を開けるから」

 俺はこわばった口を無理やり開けてそう告げると、顔のすぐそばまで寄ってきているリリイを押し留める。


 「……たべて」

 リリイの言葉に、俺は今度こそ素直に口を開ける。リリイはそれを見て少しだけ微笑むと、俺の口に赤い実を幾つか放り込んだ。


 「あっ……」

 口の中を甘酸っぱい味が広がる。瑞々しさと共に苦味による不快感が消え去り、同時に渇きも引いていくのが分かった。


 「うぉお!」

 頭上からのいきなりの叫び声に、リリイに礼を言おうとしていた俺は、驚いて視線を上空へ向ける。

 アズレトの身体が燃えていた――燃えたというより、身体に絡みつくツタをどうやら自分の身体ごと焼却しようとしたらしい。


 そういえば……まだ、アズレトが残っていた。なんとも間抜けな話かもしれないが、俺に変わって直接戦闘中の爺さんでさえ、戦っているというよりは、むずがる赤子をあやしているという感じで、緊張感がまったく見られないため、俺自身もすっかり緊張が解けてしまっていた。


 「さっきから……なんだ、貴様ら俺様を無視して……舐めてんのか」

 アズレトの衣服ごとツタは燃え尽き、上半身がむき出しの状態になってしまう。身体中を無数に、薄く青く鈍く輝く光が、血管のように体中を這っているのが、俺からも見えた。


 「もう、やめておけ。勝敗は決した」

 爺さんはそう言うと、傷つき地上に降り立ったアズヒトに優しい目を向ける。


 「まだ、終わってねぇよ」

 アズレトは、苦しそうな表情で肩で息をしながらそう言うと、爺さんに向かって構えをとった。

 「やれやれ……しようがないのう」

 「待て!フーベル!」

 爺さんが、アズレトと決着をつけようと身構えた瞬間、マーテルが横から口をはさんだ。


 「マーテル殿、いかがなされた?」

 「あの、小僧の相手はヒロにさせる」

 マーテルは、爺さんにそう言うとキッとした目で、俺の事を睨みつけてきた。

 まだ、怒っているらしい。


 「この、色ボケ男の目を覚まさせるには、今のあやつは丁度良い相手じゃろう」

 マーテルの言葉に、すごく棘が含まれてるように聞こえた。

 色ボケって、えらい言われようだな。そん事を言われる覚えはないんだが。


 「と……いうわけじゃ。お主の相手は、この色ボケ男が務めるゆえよろしくたのむぞ」

 「あんなガキ相手になるかよ。負傷したと言っても俺は魔族だぜ」

 そう言うと、アズレトは俺をあざ笑うかのような目で見下してくる。


 「フーベルさん、俺やれますよ……というか、やります」

 なんというか、俺はとにかく爺さんに怪我を負わせ、周囲を焼き払い暴れるアズレトに怒りを感じていた。

 「……からだ」

 リリイが、俺に声をかけてくる。


 「あっ……軽い」

 俺は自分の体からだるさや疲れが取れていることに、今更ながら気が付いた。

 「俺はお前をぶっ飛ばす」

 これならいける……俺は目の前のアズレトを睨みつける。


 「……わたしも、手伝う」

 「ヒロ、お主の現在のHPの残量じゃ」

 リリイが俺の横に並び立ち、マーテルが俺に手にしている小型のタブレットを見せてくる。

 HP残量……208/350


 お互い、傷ついた者同士の戦い……実力は傷ついていても、相手の方が上だろう。

 やってやる……俺は胸の内にそう決意すると、大きく深呼吸した。 

 最後までお付き合い頂きありがとうございます。


 次回更新12時になります

 よろしくお願いします

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