前哨戦
おはようございます
前哨戦です。
「これは、おまえがやったのか?」
「あぁん……いきなり、なんなんだてめぇは?」
青年は空中に留まったまま、不遜な態度で俺達を見下ろしてくる。
「お主……その瞳の色、魔族じゃな?」
マーテルの声に、青年は一瞬不思議そうな表情を見せたが、俺の肩の上のマーテルに気付くと、うっすらと唇の端を持ち上げた。
「なんだ……フェアリーか?それにしても、おかしな組み合わせだな……お前ら」
そう言うと、青年はゆっくりと俺たちの事を見回す。
「俺の質問に答えろ……この場の状況も、フーベルさんの傷もお前がやったのか?」
「てめぇ……さっきから、偉そうになんなんだ?それに俺様はお前じゃねぇ、アズレトって名前がある」
アズレトと名乗った魔族の青年は、敵意をむき出しに俺の事を睨みつけてくる。
「そこのジジイをやったのは俺だ。ノームのくせに、人間なんざ庇いやがって……胸くその悪い」
アズレトは、憎々しげな表情を傷つき倒れている爺さんに向けた。
「なるほど……お主の今のひと言で、フーベルがやられた理由がわしにも理解できたわい」
「どういうことだ、マーテル?」
「うむ……フーベルがなんの理由もなく、あんな小僧に敗れたというのが信じられんかったのじゃが、誰かを庇った結果というなら納得もいこうというものじゃ」
「なんだぁ?チビすけ……今のは聞き捨てならねぇ、その言い方だとサシなら勝ててたみたいな言い方じゃねぇか」
「あぁ、そうじゃとも、フーベルがお主のような半端者に負けるわけがなかろう」
「半端……ねぇ……これでも、俺が半端者だって言えるか……試してやるよ」
アズレトはいきなり、右手を突き出すと俺達に向けて火球を何発も連射してきた。
「いきなりかよ!」
俺はそう叫ぶと、両足を地面に踏ん張らせ、構えた盾に意識を集中させていく。
アズレトが放った火球が盾に触れた瞬間、すさまじい熱気と衝撃が体中を突き抜け、俺の体は少しずつではあるが火球の威力に後退させられてしまう。
「へぇ~こいつは驚いたな。お前……今、いったい何をした?」
「盾で防いだだけだ!そんな事より、後ろにはけが人や女の子もいるんだ、相手は俺だ!周りを巻き込むな」
俺はだんだん腹が立ってきていた。爺さんは傷つけられ、今も……平然と周りごと焼きはらおうとする、アズレトの神経が俺には理解出来なかった。
「盾で防いだだと……まぁいい、俺の魔法を少々防いだぐらいでいきがってんじゃねぇぞ、人間風情が」
アズレトの空気が変わった――俺はアズヒトの態度というか、雰囲気が変わったような気がした。
「マーテル……」
「なんじゃヒロ?」
俺はアズレトから視線を外さないように、マーテルの方へ顔を向ける。
「マーテル、フーベルさんを今すぐ回復させたい」
「……本気かヒロ?」
「俺を無視して、何をごちゃごちゃやってやがる!余裕かましてんじゃねぇ!」
再び、アズレトが火球を飛ばしてきた。
「あぁ……急いでくれ。フーベルさんとリリイがあの状態じゃ、俺もここから動く事も出来ない」
火球の熱気に息苦しさを感じてしまう。盾のシールド機能はすごく効果は高いが、そこから生じる熱などは通してしまう。
「うむ、わかったヒロ……すぐに済ませるから、もうしばらく堪えてくれ」
「ありがとう、マーテル」
アズヒトの放ち続ける火球に身を晒しつつ、俺はマーテルを待つ。
身体が熱い。火球を防ぎ続けている盾を通して、腕に衝撃が伝わりしびれて体勢を崩しそうになる。
「ヒロ!待たせた!では……いくぞ!」
そう言った瞬間、マーテルの全身が淡い緑に輝きだし、あの心が落ち着く香りが辺り一帯へと広がっていく。
――絶望と悲しみに沈みし子よ。汝を封じし、大樹の枝が命じる――
――契約者:彦麻呂に与えられし生命の炎の一部を、
我が望む相手へと譲渡し全ての傷を癒させよ――
マーテルが、何かを唱えた次の瞬間――俺の全身に、力が抜かれる様な感覚が襲いかかり、意識まで持っていかれそうになってしまう。
「くっ……マーテル」
「つらいじゃろうが、辛抱せい」
俺は火球がもたらす熱気と身体への倦怠感から、全身汗を流し方ひざを地面に付けてしまった。
「もう、限界か?だがな……手は緩めねぇえぜ!」
アズレトは、更に火球の威力をあげ、数を増やしてくる。
俺は限界を感じ始めていた。盾は片手では支えきれなくなり……右手を添えて支えようとするが、火球の威力の前では、焼け石に水のような気しか感じられない。
もう……だめだ。俺はここまでなのか……結局肩書きだけの勇者なのか。
「あきらめるな……ヒロ殿!」
全身が崩れ落ちかけた俺の背中に爺さんの声が響いた。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
さらっと書くって難しい。
次回更新19日5時




