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おはようございます

ちょっとずつ、ヒントを小出しにするって難しいですね。

これが、ヒントかミスリードかを考えてもらえたらうれしいです。

 「あ……危なかった」

 間一髪だった。駆け抜けた後、俺は全身から汗が大量にふきだすのと、体中にすごい脱力した感覚を感じてリリイを抱きかかえたまま、後ろへと倒れ込んでしまった。


 「……きゃっ」

 リリイはいきなり倒れ込んだ俺の動きに驚き、咄嗟に腕を首に回して抱きついてきた。

 

 「リリイごめん……ちょっと、すごく疲れた……」

 「……気にしてない」

 リリイは頭を俺の肩の辺りに預ける様にして、抱きつくようにもたれ掛かっている。


 「リリイ?もう大丈夫だよ」

 「……わかってる」

 「降りても平気だよ」

 「……もう少しだけ」

 そう言って、リリイは俺に体を預けたまま離れようとはしない。俺の目の前に雲ひとつない青空が広がっていた。太陽の位置が出発した時よりも高くなっている事に気づき、だいぶ時間が経っていたんだと自覚した。


 「取り込み中の所……悪いんじゃがのう」

 マーテルが地面の上に、真剣な表情をして仁王立ちで立っていた。俺が急に倒れ込んだせいで、地面に投げ出されてしまったらしい。

  

 「あぁ、マーテルも大丈夫か?」

 「なんじゃ!その事のついでのような言い方は……」

 そう言いながらも、マーテルは真剣な表情を崩さない。


 「ヒロ、起き上がって周囲を見てみい……」

 「周囲?」

 俺はマーテルに言われ、気だるい体を無理やり起こし周囲を見た。


 「なっ……」

 目の前に地獄のような光景が広がっていた。脱出できた事にきをとられすぎて、周りが目に入っていなかったみたいだ。

  

 「……におう」

 リリイも周囲の異変に気付いたのか、鼻を手で押さえながら俺から離れて立ち上がった。

 たしかに……意識して初めて気付いたが、何かが焦げたような異臭が鼻をついて気持ちが悪い。

 そういえば、あれだけいた人間の姿は影も形もなく、戦闘の痕跡らしきものは地面のあちこちに抉られるようにして開けられた穴ぐらいのもだ。

 

 「なにが起こったんだ……」

 「……おじいちゃん」

 リリイがそうつぶいたのを聞いて、俺の爺さんの事を思い出す。


 「そうだ……フーベルさんは?」

 俺は、マーテルを肩に乗せると立ち上がり、3人で爺さんを探し始める。


 「ヒロ!フーベルはあそこじゃ!」

 マーテルはいきなりそう叫ぶと、地面の一角を指さす。

 なにかが、激しく激突したのか地面は土が掘り返されめちゃくちゃな惨状だったのだが、マーテルの指さす先――土砂が降り積もった所に、なかば埋まるような形で倒れている爺さんを見つけた。

 

 「フーベルさん!」

 「おじいちゃん!」

 脱出の時でさえ、あまり感情を表に出さなかったリリイが、取り乱しながら爺さんの元へと駆け寄っていく。

 

 「フーベルさん、大丈夫ですか!」

 リリイに抱きあげられた爺さんに声をかけた俺は、思わず絶句してしまった。

 全身にひどい怪我を負っている。大半は火傷で、特に右肩の傷がひどい。意識を失いぐったりとした表情からは生気が感じられず、一刻を争う事態だと俺は感じた。


 「おぉ……リリイ……か」

 「おじいちゃん!」

 リリイの必死の呼びかけに、爺さんはリリイの腕の中でうっすらと目を開ける。

 

 「フーベル……」

 マーテルは沈痛な面持ちでそう告げる。

 「マーテル殿……わしは……」

 「もうよい……お主は充分に頑張った、もうしゃべるでない」

 マーテルは、沈痛な面持ちで爺さんにそう告げると、俺の方へと視線を向けてきた。

  

 「逃げるぞ、ヒロ」

 「とつぜん、何を言いだすんだマーテル」

 「目的は達したのじゃ。ここには、もう用はない」

 たしかに、リリイ救出が俺たちの目的であった以上、ここに留まる理由はない。


 「マーテル、フーベルさんはどうするんだ!」

 素人目に見ても、爺さんは下手に動かせない重傷だ。無理をすればするほど、爺さんの生命は危険に晒されるのは間違いない。

 「フーベルは……置いていく」

 「何を言ってるんだ!マーテル!」

 俺はマーテルを睨みつける。


 「ヒロよ落ちつけ……ここにはフーベルほどの手練れにここまで傷を負わすような敵が潜んでおる」

 「だからって、置いていける訳がないだろ!」

 「見捨てるとは言うておらん……」

 声を荒げる俺にマーテルは、冷静に答える。


 「フーベルの傷をふさぐ術がないわけもないのじゃが、出来れば使いたくない。と……なるとじゃ、ここにわしらが残る意味もなくなる。こやつの状態を見る限り……すぐにここを動かせそうにないしのぅ」

 「ふさぐ術?使いたくないって……あるなら、使えばいいだろ」

 俺の言葉を黙って聞いていたマーテルが、おもむろに口を開く。


 「ヒロ……お主、生命を賭ける覚悟はあるのか?」

 「なっ……」

 生命を賭ける……俺が爺さんの怪我を治すために?


 「お主の生命は、タブレットによりHPという形で管理されてる事は、理解しておるな?」

 「あぁ……理解している」

 頷く俺に、マーテルは更に続ける。


 「お主とタブレットは、HPを間に挟んで生命の綱引きをしておる」

 「どういう意味だ?」

 「HPが減る毎に、お主の魂は減った分だけタブレットの側へと引き寄せられていくのじゃ……そして、HPが全損した時……お主の魂は、その存在ごとタブレットに喰われる」

 死ぬのではなく、喰われる?疑問に思う事はあるが、今は爺さんの傷を治すことの方が先決だ。


 「俺のHPとフーベルさんを治す事に、なんの関連性があるんだよ」

 「お主のHPはじゃ……お主がダメージを負うごとに減っていく以外に、その数値を減らす事と引き換えに、自分の傷や他者の傷を瞬時に治してしまう事も出来るのじゃ」

 「城で聞いた話しとちがうぞ」

 怪我は病院へ行けとかって聞いてたが……。


 「あんなものは、わしが連中に吹き込んだ大嘘じゃ」

 「はぁ?」

 「連中には嘘しか伝えとらん。あやつらは何も知らんし、これから先も知ることはない」

 マーテルはさらっと言ってのける。別段そのことに対して、悪いとは思ってないようだ。


 「なんで、嘘なんて……」

 「真実を話せば……あやつら、地なまこになってタブレットを破壊しようとするに違いないからの」

 「それって、どういう……」

 「まぁ、そんな事はどうでも良い。お主は、フーベルに自分の生命を削り与える覚悟はあるのか?」

 俺の言葉を遮り、マーテルはそう切り出してくる。おれは、リリイの方へと視線を向ける。俺とマーテルの会話を不安そうな表情で聞いているのがよくわかる。


 俺はリリイの顔を見る。泣いていたのか、頬に涙の流れた跡がくっきりと見てとれた。

それを見て、俺は決意した。

 「マーテル、俺は……」


 「なんだ、なんだ〜?糞虫共の死体を焼き払い、ジジイにトドメを刺しに戻ってみれば……増えてるじゃねぇか」

 空中にひとりの青年が浮いていた。

 黒い髪に黒い長衣。全身黒ずくめで固めた青年の目は、薄く鈍く青く輝いていた。

最後までお付き合い頂きありがとうございます。

もうじき、一章完結です。


次回更新19時です。

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