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未熟

 おはようございます。はじめまして。

 この回から、最初の試練がはじまります。


 よろしくお願いします。

 「ヒロ!来るぞ!」

 「分かってる!」

 マーテルの怒声を耳元で聞きながら、俺は前方の敵を見据える。

 狂人(バーサーカー)の反応は驚異的で、俺が立ちあがったと同時に奴は俺目掛けて全力で走り始めた。


 「ヒロ殿!幸運を祈る」

 爺さんはそう言い捨てると、狂人(バーサーカー)に劣らぬ速さで走り始め、数秒後にはこちらへと駆けてきている狂人(バーサーカー)とすれ違い、そのまま後方でもたついている男ふたりへ向けて突撃していく。


 「フーベルには目もくれんか!」

 マーテルが、その様子を見て呆れたような声で叫んだ。

 本当に、名前の通りに狂人なんだな。

 理性も知性もない……本人はこうなる事を承知で自分の身を差し出したのだろうか?

 俺に向かって突っ込んでくる狂人は身長3メートルを越える……クマのような体格……焦点の合わない目に殺気をみなぎらせ、口からヨダレを飛ばしていた。

 

 「ヒロ!」

 「焦らせるな!」

 俺はブーメランに充分な威力を乗せるため、ギリギリまで魔力を送り続ける。


 狂人(バーサーカー)の息づかいが聞こえてくる――近い……凄まじい勢いで迫る敵を目の前に……だが、俺は不思議と恐怖を感じていない。

 ギリギリまで引き付ける――今の俺の腕で、奴に確実にダメージを与える可能性はそれしかしかないだろうと思われた。

 だが俺の心意とは裏腹に……俺の肩にいるマーテルの焦りは最高潮に達しそうになっている。


 「ヒロ……盾じゃ!盾を使え!」

 「駄目だ!」

 そんな事をしてしまえば、集中力が途切れて充分な魔力をブーメランに送れなくなる。


 敵の速さは驚異的だ。逃げ腰で……囮になるつもりで挑めば、間違いなく殺される。

 俺は直感でそう感じていた。

 狂人(バーサーカー)が、拳を振り上げる。拳ひとつが俺の頭よりも大きい。

 一撃必殺を確信したのか、奴が笑った。


 「よし……いくぞ!」

 敵が拳を繰り出そうとし、一瞬動きを止める。

 「待て!ヒロ!それを……それを投げるな!」

 マーテルが叫ぶのと、俺がブーメランを投げつけるのが、ほぼ同時のタイミングだった。







 「ヒロ……何を呆けておる!ボーとするな!」

 マーテルの声で、俺は自分を取り戻す。

 ついさっき、目の前で起きた光景――俺が繰り出した一撃は確実に狂人バーサーカーを捉え……そして、吹き飛ばしてしまった。


 人が宙を飛ぶ――凄まじいまでの巨体を持つ男がだ。数メートル……いや、もしかしたら数十メートルは吹き飛ばしたかもしれない。

 やがて、地に激突した狂人バーサーカーは、そのままピクリとも動かなくなってしまった。


 「マーテル……俺……」

 殺してしまったのだろうか……手にはなんの感触も残っていない。

 そういえば、ブーメランは?

 空を切る飛行音を残し、ブーメランが凄まじい速さで飛びさって行くのをただ茫然と見送ってしまった。


 「ヒロ!今は余計な事を考えるな!それよりも、この歓声が聞こえんのか!わしらは嵌められたようじゃぞ!」

 マーテルに言われて、ようやく俺は周囲の木陰から大勢の人間が、敵拠点を包囲するように輪を狭めてくるのに気が付いた。


 「そうだ……フーベルさんは?」

 そういえば爺さんはどうなったんだ?俺は周囲を見回してみるが、爺さんが突撃していったと思われる場所は敵が押し迫ってきていて、どれが爺さんか分からない。

 「フーベルの事なんぞ、今は放っておけ!こんな連中、何人来ようがフーベルの相手にもならん……そんな事より、お主は自分の事を心配せんか!」

 

 そんな事を言われても……俺は次どう動けばいいんだ?敵を倒すのか?爺さんの元へ行くのか?

 幸いというべきか、俺は敵から標的にされておらず、全員が戦っているのだろう爺さんがいるらしき方へと殺到していっている。

 俺に向かってこようとした敵も何人かいたのだが、先ほどの狂人バーサーカーを吹っ飛ばしたのが余程にインパクトが強かったのか、結局攻めよせてはこなかった。


 「まったく……お主、自分が危険な状況だという自覚はないのか?」

 「いや……そんな事を言われても……こんな状態で何をしたら……」

 戸惑う俺を見て、マーテルは深く息を吐き出す。


 「お主はここへ何をしにきたんじゃ?」

 「何って……フーベルさんの孫を助けに……」

 そうだった……人が目の前で吹っ飛ぶなんて場面を見たせいだ。

 やる事なんて、簡単な事だ。拠点に入り、リリイさんを見つけ連れ出す――たったそれだけの事なんだ。


 「やっと動いたか……バカ者め……」

 敵に混じるような感じで、拠点入口を目指す。

 幸いにも、ブローカーの連中の動きは統制がとれておらず、個々が好き勝手動いているようで、一度紛れてしまえば、敵対行動さえとらなければどうにもでもなりそうな感じだ。


 「ヒロ……もっと、必死に走った方がよいぞ」

 「……どういう意味だ?」

 「わからんか?お主……ブーメランの事を忘れてやせんか?」

 拠点入口付近は、今や完全に無人状態になってしまっている。

 おかしな話だが、皮肉にも俺が狂人バーサーカーを倒してしまった事で、囮役が俺から爺さんに完全に移ってしまったようだ。

  

 「ブーメランは……あれはどこかに飛んでってしまったんだ、回収はもう無理だろ?」

 「お主……武具屋の話を……もう忘れてしもうたのか……」

 マーテルがそうつぶやいた時だった。


 ――ヒュンヒュン……。


 空を切り裂く音と悲鳴が、周りの歓声に混じって微かだが……俺の耳にも聞こえてきた。

 「まさか……」

 「まさかも何も……投げても手元へと戻る……そう言っておったじゃろうが……」

 マーテルはそう言うと、心底呆れた表情を見せた。

 最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 

 巨大なエネルギーも、コントロール出来なければ意味がないを書きたくて、最初の武器にブーメランをチョイスしました。

 

 次回更新12時です

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