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道なき未知

 おはようございます。はじめまして。

 この回において、ようやく……この話しの主題である成長について触れています。

 よろしくお願いします。

 「ヒロよ、いよいよじゃのう!」

 そう言いながらマーテルは、俺の肩の上で足を投げだしパタパタさせながら遊んでいる。


 「マーテル……お前さぁ、俺達が今からどこへなにしに行くのか分かってるのか?」

 「フーベルの孫を助けに行くんじゃろ」

 そう言って胸を張るマーテルの様子からは、まったくと言っていいほどに緊張感が感じられない。


 「じゃあ……どこへ助けに行くんだよ……」

 「そ……それはじゃな……」

 朝早く目覚めた俺達は朝食を簡単に済ませ、フロンテラから見て北側に広がる森を目指して真っ直ぐ北へと進んでいる。

 雲一つない晴れ渡った空が、俺達の前途を祝福してくれているようだ。


 「知らなくて当然だよな……大口開けてヨダレ垂らしながら寝てたもんなぁ」

 「ん……なっ!」

 マーテルは短く叫びながら立ちあがった。

 陽射しが当たり、マーテルの栗色の髪にキレイな輪が浮き上がる。

 マーテルから香る匂いが風に乗って鼻先をかすめるたびにくすぐったい。


 「お……お主……わっわしの寝顔を見たのか?」

 「あぁ……もうバッチリと」

 「……!?」

 マーテルの顔が面白いように赤く染まっていく。


 「これこれ……ヒロ殿……マーテル殿も少しは緊張感を持ってくだされよ」

 爺さんは怒ったというよりは、顔を赤くしてオロオロしているマーテルに助け舟を出したという感じだ。


 「ところでフーベルさん」

 「どうしたヒロ殿?」

 「結局、昨日は何も打ち合わせも出来てないんですが……」

 マーテルをからかってる場合じゃなかった。俺は襟を正すと、爺さんにこれからの事を尋ねる。


 「うむ……その事じゃが、実は作戦はたてとらんのじゃ」

 「へっ?」

 「正確に言うと、たてるだけ無駄じゃろうと思っておる」

 たてるだけ無駄ってどういうことだ?予想外の返答に俺は返す言葉がすぐに出てこなかった。


 「要するにじゃ……ヒロお主が未熟すぎて、作戦も連携もクソもないと言う事じゃ!」

 突然マーテルが横から口を挟んでくる。


 「マーテル殿の言う通りでの……作戦などたてた所で、うまく機能せんと思うておる」

 返す言葉がないが……何も出来ないというわけでもないだろう。

 これでも一応俺は勇者なんだ。


 「俺はいったいどんな事が出来るんだ?マーテル」

 「はぁ?」

 俺の問い掛けにマーテルは心底不思議そうな顔を見せる。


 「『はぁ?』じゃないだろ。俺はタブレットで管理されてて、お前はそこの管理者みたいなもんじゃないのか?」

 「わしは管理者などではないぞ……というか、ヒロお主はいったい何が言いたいのじゃ?」

 あれ?俺がおかしいのか?

 俺はそう思うと、腰のポーチからタブレットを取りだす。

 城でやった時と同じ要領で魔力を注ぐと、画面が光りだし……俺のステータスが映し出される。


 「じゃあ……このタブレット上で出来る事を教えてくれよ」

 「ステータスが見れる……今はこれだけじゃな」

 えっ……それだけ?


 「いやいや……そんな事はないだろ?レベルはともかくさ……ここに記載のあるスキルとか……魔法は?」

 「空白ということは、ないんじゃろうな」

 マーテルはステータス画面を覗き込みながら坦々と告げてくる。


 「えっ……本当になんの恩恵もなしなの?」

 俺の言葉を聞いて、マーテルは深いため息を吐いた。


 「ヒロ……お主、タブレットがすべてやってくれるとでも思っておるのか?」

 「……どういう意味?」

 「ん……わしの言い方が悪かったか……」

 マーテルは眉間にしわを寄せると、少しの間――考え――


 「これならどうじゃ――お主はタブレットに、自分の未来の可能性の全てを決めさせてしまうのか?」

 「未来って……大げさな」

 俺の呆れた物言いに、マーテルはため息と共に話を続けてくる。


 「お主……最初自分のステータスを見て……『魔王』と書かれているのをどう思ったのじゃ?」

 「思うもなにも……」

 あの時は……その場を誤魔化すのに必死だったしな……。


 「お主は魔王か?」

 「いや……ちがう……」

 俺は魔王なんかじゃない、普通の民間人だ。


 「では、勇者か?」

 「それも……ちがうと思う」

 それだって……周りが勝手に言っている事だ。

 肩書き上はそうだとしか、俺は思ってはいない。


 「そうじゃ……お主は何者でもない。そして、お主が何者であるかを決めるのはお主自身じゃ」

 「でも……タブレットは……」

 マーテルがどう言おうがタブレットは俺の事を魔王だと記述している。


 「タブレットがそう示唆するなら仕方ないと?」

 マーテルはそう言うと、深く息を吐き出す。


 「ヒロ……お主、前を見てみよ」

 言われて俺は視線を前方へと向けた。

 だだっ広い草原がどこまでも広がり……その先、まだ遠くにだが森の輪郭が確認できた。


 「今見ておる景色……この道も引かれておらぬ広大な草原……これが今のお主じゃ」

 「これが?」

 ずいぶんと大げさな気がするが……マーテルの方をちらっとうかがってみる――すごく感慨深い表情をして前を見つめている。


 「お主は……誰かが造った道をただなんとなく歩む……それで満足なのか……」

 「それは……」

 そこまで難しく考えてはいなかった。

 ただ、周りからそう言われたから……そう決められたから……今回の事だって、そういう状況になってしまったから……。


 「実はの……」

 マーテルは一旦言葉を切る。

 しばらくの間……景色を眺め、そして何かを決断したかのようにひとつ頷くと俺の方へと視線を向けてきた。


 「お主のステータス……あれは最初……完成された、文字通り魔王にも勇者にもなれるものだったのじゃが……」

 「……」

 「わしがLVという形でそれに大幅な制限を施した……タブレットの方にもな……」

 「意味があってやったんだろ?」


 俺がそうマーテルに問い掛けた時――強めの風が草原を渡り吹きつけてきた。冬から春に切り替わる時期によく吹く風だ。

 マーテルは寒いのか、自分の両手で身体を抱きしめるような仕草を作る。

 何か掛ける物はと考えて……俺は何も持ち合わせてない事に今更ながら気付いた。

 お金だけじゃない……着のままで出てきた俺は何も持ってなかったのだ。


 「マーテル殿……」

 爺さんが差し出したフキンをマーテルは『すまない』と言って受け取ると、身体に羽織る。

 その様子を見ていた俺は、なんだか……急に自分が情けなくなってしまった。

 最後までお付き合い頂きありがとうございます。


 この回で、ヒロは改めて自分の意思で何も行動できていないと思い知らされます。

 人生には、幾通りもの選択肢があります。

 生き方をどのような形で選択していくかは、その人の自由ではあるのですが、大体の場合、ひとつところでそれなりに安定してしまうと、そこから先へとは中々足を進めたくないと考えがちになってしまうものです。

 アーサーやロウは、結果的として周囲の状況や自身の立場から、そういった選択肢が狭められていったのでしょう。

 マーテルは苦悩するふたりを間近で見てきたからこそ、ヒロに思い込むな抱えるな決めつけるなと言うのではないのでしょうか。


 次回更新19時です。

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