休息
おはようございます。はじめまして。
ついに、戦闘直前まできました。
よろしくお願いします。
宿に戻ってきた俺はマーテルをソファに寝かし、自分も側に置かれていた揺り椅子へ腰を掛けた。
「さて……ヒロ殿疲れてる所すまんが、これから明日の打ち合わせを行いたいと思うのじゃが」
爺さんは机を挟んで真向かいのソファに、丁度俺と向かい合う様な姿勢で腰を落ち着けると、話を切り出してきた。
「フーベルさん……俺もリリイさんの事は気になります……それに……」
「それに……?」
どのみち俺は興奮して眠れないだろうと思っていた。
「……寝ろと言われても、寝れそうにありません」
「それは困ったもんじゃな」
そう言って爺さんはひとしきり笑うと、一転して真面目な表情をつくった。
「ヒロ殿にとっては……これが初の実戦じゃな」
「ええ……」
「緊張するのは分からない事も無いが、身体を休めるのも戦の内じゃぞ」
爺さんは戦い慣れてるんだろうか……そんな事を考えながら、俺は自分の側で寝息をたてているマーテルを見つめる。
こいつも……戦闘の経験があるんだろうか?
寝顔だけ見ていると、本当に無垢で綺麗というよりはすごく可愛い……性格がああじゃなければな……と思ってしまう。
「フーベルさん……体を休めることの大切さは分かりました……で、明日の事なんですが……」
「そう急くな……」
そう言いながら爺さんはハティオで湯を作ると、更にその中に何かを入れてよく混ぜ俺の前へと置いた。
「まずは飲みなされ……心も身体も落ち着くでの」
「はぁ……」
美味い……なんというか……形容し難いんだけど、とにかく……
「……うまい」
「ほっほっ……」
俺が飲み物を飲んでいる姿を見て、爺さんは嬉しそうに微笑む。
「さて……明日の事じゃが……その前にじゃ」
「えっ……」
「ヒロ殿は人間以外の種族について、どの程度知っておる?」
飲み物を飲んで落ち着いてきた俺に、爺さんが真面目な表情で問い掛けてきた。
「えっと……体内に晶石を持っているとか……かな」
実際……学校で習うと言っても教科書の1、2行の説明程度しか他種族の事は載っていないし、そもそも世間一般では、他種族は敵だという認識の方が強い。
結果的に知らない以前に、世間が教える必要さえもないと判断してしまっている感があった。
「あまり……わしらの事を習ったりはせんようじゃな……」
「すいません……」
「いや……ヒロ殿が気にする事ではない」
場の空気が少しだけ、しんみりとしてしまう。
「……ふむ、では少しばかり語るとするかの……」
爺さんは語る。
はるか昔……ここではない世界、その頃はまだ魔族という種族は存在していなかった。
ドワーフ、ノーム、フェアリー、ゴブリン、オーク……妖精や精霊、亜人と呼ばれる種族が存在しており、彼らはロストミスティックと呼ばれる紫晶石によって構成された世界でのみ暮らしていた。
紫晶石……すなわち、この世界における晶石は我らにとって生命の源であった……。
「晶石が生命の源?」
「そうじゃ……わしらは晶石より産み落とされたのじゃ」
「知らなかった……」
「……続けてもよいかの?」
「はい……すいません」
紫晶石には莫大なエネルギーが宿っておった……生命を生み出せるほどのな。
やがて……人は紫晶石を動力とした『道具』を発明するに至る。
同時に……紫晶石の価値もあがってしまい……やがて、徒党を組みロストミスティックより紫晶石を奪い去るようになったのじゃ……。
人はどこまでも貪欲であった。ロストミスティックの住人の体内に紫晶石があることを見つけると、彼らをも狩り……体内の紫晶石を持ち去るようになってしまった。
ロストミスティックに住まう者たちは団結しこれに抗した。
紫晶石を体内に持つ彼らは、身体能力も生命力も人よりまさっておった。
争いは最初……人に圧倒的に不利な状況で展開していた。
苦戦していた人は考えた。そして……人は自らの体内に紫晶石を埋め込む事を編み出したのじゃ。
「晶石を体内に埋め込む!?」
そんな技術、聞いた事も見たこともないぞ……。
「続けるが……よいな?」
紫晶石を巡ってお互い譲らぬまま月日が経ったある日の事じゃ……。
ひとりの人間が、どうやってそこまで行ったのか……閉ざされしロストミスティックの深奥へと行き……禁断の扉を開いてしまったのじゃ。
世界に激震が走った……。
地は割れ……宙に浮き、水は下から上へと流れる……そして、世界は変わってしまった。
紫晶石がロストミスティックよりも外……すなわち、外の世界に放たれた事によって……外の世界と異界であるロストミスティックの境が取り払われ……生態系にも影響を及ぼしはじめた。
体内に紫晶石を埋め込んでいた人も例外ではなかった……。
「もう……分かったじゃろ?」
「はい……魔族とはその昔……体内に晶石を埋め込んだ、元人間なんですね」
今の爺さんの話……すごい内容ではあるんだが……。
「フーベルさん……すごい内容ではあるんですが、それと今回の事がどう関係あるのですか?」
「ふむ……」
爺さんは少し考えるような素振りを見せ……やがて、おもむろに口を開いた。
「わしも……孫のリリイも、晶石と人が混じりあって生じた特異体なのじゃよ……」
「えっ……?」
俺は今聞いた内容をすぐ理解する事が出来なかった。
「ヒロ殿はノームを見るのは初めてかの?」
「はい……というか、ノームを見た事があるって人を探す方が大変だと思いますよ」
俺の言葉に、爺さんは『そうか』とだけ答えると話を続けていく。
「わしも……リリイも身長の低さを除けば、その辺におる人と大して変わらん……」
確かに……そう言われて改めて爺さんを見てみるが、背格好の低い年寄りって感じだ。
「特に……リリイは……あの子は人の部分が強く出てしまっての……」
そう話す爺さんの口調は、なぜかとてもつらそうだ。
「……じゃが、今回はそのおかげで命を繋ぐ事が出来ておる」
「……どういう意味ですか?」
爺さんの言いたい事が俺にはよく理解出来ない。
「ようするにじゃ……外見が人にしか見えん……というより、人でしかない故に……連中も扱いに困っておるようじゃ」
なんか……見てきたような口ぶりだな。
「フーベ……ル……さん……」
あれ?なんだか……急にろれつが……それに、この眠気は?
「効いてきたようじゃの……」
爺さん何を……言って……。
「リリイはここから見て、北の森に囚われておる……ヒロ殿、今日はもう、ゆっくりと休みなされ……」
俺の意識は、爺さんのその言葉を聞いたのを最後にぷっつりと途切れた。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もうちょい、続きます。
次回更新12時




