メリット
後から起債
「一万ガルドじゃと!?わしの聞き間違えかの?」
「いえ、俺にもそう聞こえましたよ」
爺さんが疑問に思うのも無理はない――男が口にした値段はあまりにも安かったからだ。
まぁ……安いと言っても高いんだが……それにしても、一般の平均年収以下の値段で回路内蔵型の武具が買えるというのは、爺さんでなくても物の価値が分かる者なら誰だって疑問に感じるだろう。
「お主……何か企んではせんか?」
「なっ……なにも企んでやしやせんて!」
爺さんに問い詰められ、男はそれを必死に否定する。
「本当かの?」
「本当のぜったい……だって!もう……勘弁してくださいよダンナ〜」
おっさんが否定すればするほど、嘘くさく思えるのは俺だけなんだろうか?
「じゃがの……わしらにそんな値段で売っても、お主になんの得にもならんじゃろうが」
「確かにダンナの言う通りでさぁ……単純に商売ってだけなら、こんな大損もありやせん……」
爺さんと会話していた男が、おもむろに俺の方へと視線を向けてきた。
「……だが、兄さん……あんたが使うってんなら話は別だ……」
「……俺?」
なんで俺なんだ?そんな俺の胸中を読み取ったかのように、男は話を続ける。
「兄さん……勇者だろ?」
なんで分かったんだ?まぁ……知られて困るって事もないんだが、気になるところではあるな。
「なんで、分かったんだ?って顔をしてますね、兄さん」
「なんで……わかったんです?」
「腰の剣でさぁ……」
「腰の?」
俺は咄嗟に腰に差している剣に手を伸ばす。
「こんな……ニセモノの剣で、俺が勇者って分かるものなのか?」
「ニセモノじゃと!?」
突然マーテルは叫ぶと、腹を抱えるようにしながら笑いだした。
「お主……いきなり何を言いだすかと思ったら……まったく、おもしろい奴じゃ」
いや……どう考えたってパチモンだろうが。
「……まぁ、なんですかね……とにかく、それはいい剣ですぜ、兄さん」
な……なんだよ……おっさんの呆れたような声に、俺は少したじろいでしまう。
「まぁ……なんじゃ……それが本物かどうかは置いといてじゃ、ヒロ殿が勇者である事と武具を安く売る事がどう関係しておるのか、早う説明せい」
爺さんにそう言われて、男は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「まぁ……言ってみれば、名を売りたいって所ですかね……」
おっさんが言うには……旅に出た今のタイミングだからこそ、しがない辺境の武具屋の自分でも便乗できるのではと考えた。
俺が魔族との抗争に完全に終止符を打つ事にでもなれば、アーサーのような英雄になるのは間違いない
その時に……勇者の物語の隅にでも、自分の店が駆け出しの勇者に性能のいい武具を提供したという事実が一文でも載れば、それは末代までの名誉となる――こんな感じの話を力強く語ってくれた。
「なるほどのう……お主の……言わんとしておる事は分かった」
「へい……分かっていただけやしたか」
爺さんに理解されてホッとしたのか、男の肩から力が抜けていくのが分かった。
「うむ……では……お主のその心意気毎、武具の方買わせて頂くとするかの」
まじか……唖然としてしまう俺を外に放っておいて、爺さんとおっさんは支払いと商品の受け渡しの為に店内へと消えていく。
「ヒロどうしたのじゃ?中に入らんのか?」
「いや……こんな簡単に決まっていいのかな……と」
「支払うのはフーベルじゃ。あやつが良いと言っておるのじゃから、それで良いではないか」
まぁ……それはそうなんだが。
「それよりもじゃ!回路内蔵じゃぞ!早く手にとってみたいとは思わんのか!」
こいつ……爺さんの孫の事をすっかり忘れてやがる……。
ひとみをキラキラと輝かせながら子供のようにはしゃぐマーテルを見て、俺は考えるのが馬鹿らしくなってしまったのだった。
あとから……
次回更新12時




