試作品
おはようございます。はじめまして。
まぁ……タイトル通りです。
よろしくお願いします。
「へへっ……お待たせいたしやした、店に着きやしたぜ」
結構まともじゃないか。
ぱっと見、すぐに武具屋だとは思えない華やかな装いの店舗が建っていた。
外観を見るだけでも、まめに掃除がなされているのが分かる。
看板もピカピカに磨きあげられており『イェッセル武具店』とオシャレな字体で書かれている。
「へへっ……結構いい店でしょう」
確かに……性格はともかくとして、商売は結構堅実にやってるんじゃ……。
「早よう中に案内せんか」
「ととっ……ダンナ、そう急かさないでくださいよ」
そう言って頭を掻く男の背中を、爺さんが急かすように突ついている。
「マーテル……大丈夫か?」
「ん……大丈夫じゃ……ワシのことは気にせんでよい」
まだ……大丈夫という感じじゃないな。
俺はマーテルを、背中に引っ付けたまま店内への扉をおもむろに開いた。
店内は外観とは違い、これが武具屋なのかと思わせる独特の雰囲気が漂っていた。
マーテルがそわそわし始めてるのが背中越しに伝わってくる。
店内通路の両側には、鎧や盾、剣に槍……中には、あれはなんだ?と思わせるような物もあり、マーテルの好奇心が刺激されるのも納得がいくというものだ。
俺は背中にマーテルをくっ付けたまま、順番に商品を見ていく。
価格はピンキリで、外展示の物で500ガルド〜1000ガルドぐらいの値段で、軽装の物から重装の物までバリエーション豊かに揃っている。
ほとんどが鉄製の武具で、革製の物は取り扱いが少ないのか、あまり陳列はされていないようだ。
ケース展示の方はどうなんだろう?
俺は何気なく中を覗いて……思わず絶句してしまった。
「2500ガルド……」
どうも、高級武具の展示ケースだったらしく、趣向を凝らしたデザインと洗練された形状の武具が多く飾られている。
価格も2500〜5000ガルドと高価格帯で、とても手が出るとは思えなかった。
「お主……サービスすると言うておったが、どんなサービスをしてくれるのじゃ」
「へへっ……ダンナ、そう焦らせないでくだせぇ、とっておきを出しますから」
爺さんと男のやりとりが、店内を散策している俺の耳にも入ってくる。
「回路内蔵のすげぇ試作品をお見せしやす……少々待っててくだせぇ」
『回路内蔵』と男が言った瞬間……マーテルが敏感に反応したのを背中越しで感じ、俺は苦笑してしまった。
「マーテル……見たいか?」
「見たい……」
素直なやつだ。
爺さんたちは店の一番奥、カウンターでやりとりをしているらしい。
「フーベルさん、俺たちも見ていいですか?」
「もちろんじゃとも、ヒロ殿もこっちに来なさい」
爺さんはそう言うと、俺たちの方に向いて手招きをしてきた。
「ダンナ……これですぜ」
男がカウンターの奥から出してきたのは、革製の軽鎧一式と、細長い形状の革製の盾……。
あと……もうひとつ……これはいったいなんなんだ?
くの字に曲がった変わった形状の……おそらくは武器なのか?
俺は爺さんと顔を見合わせた。
爺さんなら何か知ってるのではと思ったのだが、どうやら……爺さんの方も俺と同じ状態らしい。
「こいつは……ブーメランっていう名前の……まぁ、投てき型の武器なんでさぁ」
やっぱり武器なのか。
「で……この革製の防具一式も、特別な物でしてね……」
そう言うと男は、自分の腕に盾を通してベルトでしっかりと固定する。
「装着状態で、魔力を流してやると……」
そう言いながら男はカウンターから出て来て盾を前面に構えをとる。
男が魔力を盾に流した途端……細長い形状の盾の周囲が、一瞬だけ輝きを放った。
「おぉ〜!」
俺の背中越しに、様子を見ていたマーテルが歓声をあげる。
「いやいや……姉さん、まだ驚く時じゃないですぜ」
男はそう言うと、盾を装着した方の腕を向けてきて『身体のどこでもいいから攻撃してくだせぇ』と俺たちに向かって言ってきた。
なんか……よくは分からんが……どこでもいいと言うなら……。
俺は敢えて、盾を構えていない場所……ガラ空きの右側側面を蹴ってみた。
普通に当たると思われた俺の蹴りは……しかし、男に届くことはない。
「どうです……?」
「どうって……どうなってるんだ?」
まるで、見えない壁に阻まれたような……。
「見えない壁があるみたいでしょう。これが、この盾に内蔵された回路の仕様で……」
盾の周りに見えない障壁を築く。
止まった状態が一番広く大きく展開でき、動きながらだと基本円状の障壁を前面に展開するに留まる。
後は使用者の力量と加減次第。
男の盾についての説明はこんな感じなのだが……。
「マ……マーテルさん……?」
説明中、じわり……じわりとマーテルが前へ上体を押し出してくる。
男の説明が終わる頃には、俺の背中にマーテルがおぶさったような状態になってしまっていた。
「なんじゃ?」
「あっ当たってるんですが……」
「なにがじゃ??」
「いや……その……胸が……」
俺の背中にマーテルの胸が押し当てられている。
背中越しに伝わる柔らかい感触に、俺はドギマギしてしまう。
「なっ……!?」
マーテルは声にならない声を出すと、両手で胸を抑えながら俺の背中から飛び降りた。
「この……ド!変態が!」
マーテルは『ド』を強調しながら叫ぶと、顔を真っ赤にしながら睨みつけてくる。
「いや……ちょっと待て……今のは……」
「言い訳をするな!この……スケベ!変態!」
すごい言われようだな……。
不可抗力な上に、押し付けてきたのはマーテルなんだが……。
「あのさ……マーテル」
「なっなんじゃ?」
「お前って……結構……その、大きいんだな」
「バカタレ!」
言った瞬間――間髪入れず、マーテルのこぶしが俺の顔面に突き刺さった。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
そろそろ、ヒロの初めての実戦が見えてきました。
次回更新12日19時です。




