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美女と微熱と少年

 おはようございます。はじめまして。

 いつも、副題を後回しにしてしまうのですが、今回はすぐに決まりました。

 

 よろしくお願いします。

 「遅い……何をやってるんだあいつは……」


 俺はフーベルさんとふたりで、マーテルを待つために宿の出入り口に立っている。


 『すぐに支度を済ませるでな、先に下へ降りておれ』


 そう言われてから、かれこれ30分……。


 「フーベルさん……」


 大事な孫をさらわれながら……なんで、この爺さんはこんなにも落ち着いてのんびりしてられるんだ……。


 「なんじゃ?ヒロ殿」


 爺さんに先程から疑問に思っていることを聞こうとした……。


 ――おおおっ!!


 宿の中から、突然歓声に近い声がいくつもあがった。


 なんなんだ……いったい?


 俺は何事が起きたのかと中を覗いて目を丸くしてしまった。


 目を見張るような美少女が、俺の視線の先にいた。


 少女の動きに合わせて人々の視線が動いていく――そんな中をゆったりとした足取りで、階段を一段一段降りてくる。


 腰までおろした栗色の髪に小さく整った顔。


 細くしなやかでありながら肉付きのいい肉体は健康的で瑞々しく、動きやすそうな衣服が少女のスタイルの良さを際立たせていた。


 ――だれだろ……あの子。


 ――すげぇ……かわいい。


 周りの視線や声が自分に向けられている事に、少女は気づいているはずなのに……それをまったく意に介さない態度で悠然と辺りを見回している。


 それにしても……落ち着きのない子だな。


 先ほどから少女は、誰かを探すような素振りでキョロキョロと身体を動かしていた。


 まだ、陽も高い――彼氏と祭りにでも行くのか……そんな事を考えながら少女の様子を見ていたその時。


 俺は少女と目が合ってしまった。


 少女は俺の顔を少しの間見つめたかと思うと、店内を真っ直ぐ突っ切り俺の方へと歩いてくる。


 「ヒロ~!」


 「えっ!」

 

 思わず叫んでしまった俺に、周囲の視線が集まり――俺は慌ててしまう。


 だが、俺はふと思った。俺の名前は町中にすでに広まっているが、ヒロは俺のあだ名であり、こっちを知ってるのは身近な人間だけだ。


 俺はヒロという名の別人が、自分のすぐにいるのでは?


 ……そう思い自分の周囲を見てみるが、そばにはフーベルトゥスの爺さんがいるだけだ。


 「わしを無視して、何をきょろきょろしておる……ヒロ!」


 「俺……?って……」


 今……この子、自分の事を『わし』って言わなかったか。


 「何を呆けておるのじゃ……わしから見てヒロはお主しかおらんじゃろが」


 自分の顔に指をさした体勢で固まる俺に、少女は近付きながら呆れた口調で話し掛けてくる。


 まさか……いや……しかし……。


 この物言い……この偉そうな態度は……。


 「マーテル……なのか?」


 「ヒロ殿、そなた……何を言うておるのじゃ?」


 小声でそうつぶやいた俺に、爺さんが怪訝な表情で横から話しかけてきた。


 「フーベルさんは、あの子がマーテルだって気付いてたんですか?」


 「気付くも……何も、あれがマーテル殿でないならいったい何だというのじゃ?」 


 俺がおかしいのか?マーテルが言うように、俺は鈍感な人間なんだろうか。


 「ヒロ!聞いておるのか!」


 少女は頬を膨らませると、急に歩く速度を速め……。


 「また、わしの事を無視しおって!」


 俺は目の前まで来た少女に、こぶしで軽く額を叩かれてしまった。


 「マーテル……?」


 「なんじゃ?」


 本当にマーテルなのか……なんだか化かされた気分だ。


 「様子が変じゃの……お主、熱でもあるのではないか?」


 「……!?」


 一瞬……何が起こったのか分からなかった。


 マーテルの両腕が俺の首にゆっくりとまわされ……体がマーテルの方へと引き寄せられて……いや、マーテルが近づいて来てるのか?


 マーテルの顔がゆっくりと近づいてくる。きれいな肌、つぶらな瞳、そして、潤いのある唇……。


 俺の時間はそこで停まった。


 「どうやら……熱はないようじゃの」


 マーテルが身体を離した後も、俺はしばらく動けずにいた。


 「ヒロ!シャキっとせんか!」


 「あっ……うん……」


 まだ、心臓がバクバクいっている。


 「そんなんじゃから、こんな大事な物を忘れていくのじゃぞ」


 マーテルはそう言うと、手にしていたタブレットを俺の胸へ押し付けてきた。


 「……うん」


 まだ、俺の額には、マーテルの額の感触がかすかに残っている。


 「フーベル……こやつはいったいどうしたのじゃ?」


 「わしにもよくわからんのですが、さっきから少々変なのですじゃ」


 「ふむ……これは困ったのう。どうすれば、元に戻せるじゃろうか」


 「……そうですな……驚かせてみるとかは……どうですかな?」


 「驚かせるか……ふむ、それならば良いものがあるぞ」


 マーテルはそう言うと、俺が手にしているタブレットの画面に手を突っ込み何かを取り出した。


 「ほれっ……お主のために用意した、わしからのプレゼントじゃ」


 そう言って手渡されたのは、小さい飾り気のない白い小箱。


 「はよう開けてみい」


 そう言われてもな……爺さんとの会話でこれが何なのかくらいは、幾らボーとしてても分かるというものだ。


 「はようせんか!」


 あからさまにソワソワとしているマーテルを見て、俺は早々に白旗をあげることに決めた。


 「わかった、今あけるよ」


 鬼が出るか……蛇が出るか……。


 『ぺちん!』箱を開けた瞬間、何かが飛びだし俺の鼻にぶつかった。


 気の抜けそうな音を聞いた瞬間……俺はなぜかおかしくなって、場所も考えずに大笑いしてしまった。


 「どっ……どうじゃ……『ぎゃふん』となったか?」


 あぁ……そうだ、こいつはマーテルなんだ。


 子供のように目をキラキラさせているマーテルを見て、俺はなぜかすごくスッキリとした気分になった。


 「俺の負けだよ、マーテル」


 「そうか!『ぎゃふん』となったか!そうかそうか!」


 本当に……いろんな意味でぎゃふんとなったよ。


 「おほんっ!」


 突然、爺さんがわざとらしい咳で、俺たちの注意を引こうとしてきた。


 「おふたり共……周囲の目もある事じゃし……そろそろ行きませぬかな?」


 そうだった……俺はここが町中だということを、すっかり失念してしまっていた。


 「……行こうか、マーテル」


 「おっ調子は戻ったかの?」


 「おかげさまで、スッキリしたよ」


 どんな姿になろうが、マーテルはマーテルなんだ。


 「よしよし……では、ついて来い!ヒロ」


 そう言うと、マーテルはさっさっと歩きはじめる。


 「マーテル……そっちは逆方向だぞ」


 「わっわざとじゃ!そっそれぐらい知っておるわ!」


 顔を真っ赤に強がるマーテルを見て、俺はすごくホッとするのだった。

 最後までお読みいただきありがとうございます。

 次回から武具屋目指して……となります。

 次回更新:10日19時となります

 よろしくお願いします。

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