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アーサーとロウ

最初の部分の加筆修正投稿です。

  (これで、本当に正しかったのか?)

 丘陵の向こう側に、陽の光を認めながらアーサーは想う。

 大義を掲げ、同じ志の仲間たちと過ごした日々。

 たくさんの出会いと、たくさんの別れ。

 そして……犠牲の上で、手にした勝利。

 名工アダンに造らせし白銀の鎧、盾、剣、世界中でただ唯一自身にしか扱えぬ、魔力を帯びたその品々を身にまとい、戦場を駆け抜け、得た結末。

 アーサーは手にした剣の重さを噛みしめるように握り直し、上空へと目を向ける。

 遥か上空の高みにおいて、アーサーを見下ろしていたロウは、アーサーから向けられた視線に気付き、不敵な笑みを浮かべた。

 双眸にたたえた紫の光が、陽の光を背に中空に浮かぶロウの正体が人間でない事を物語っている。


 「アーサー……事を急いては、全てを失う。そなたの未来を案じる気持ち、わからなくもないが……」

 ロウは中空でそう呟くと、薄く鈍く輝く紫の瞳をカッと見開き、突き出した手の平から火球を連続で撃ちだす。

 「ロウ……」

 アーサーはそう呟くと、撃ちだされた火球をすさまじいまでの鋭い剣さばきで斬り裂く。

 裂かれた火球の一部は、地上のあちこちに飛び散り、爆音を轟かせた。

 「グリモアは……あの魔道書は止まりはしない。封印も一時凌ぎだけのものだ。いま……いま破壊しなければ!」

 薄く透きとおるような細い銀髪が爆風に激しくたなびかせながら、アーサーの澄んだ瞳は、ロウを捉えて離そうとはしない。

 「破壊だと愚かな……出来ぬゆえ封じたのだ。それに……あれを封じるのに、我らが何を犠牲に差し出したか忘れたのか」


静かに語るロウに対してアーサーは無言で剣を強く握りしめると、地を割り砕く強さで蹴りとばし、宙を漂うロウの元へと肉薄していく。

 ロウは肉薄してくるアーサーへ向けて、無数の植物のツタのような物を飛ばし捕えようとするが、

 「そんな事は分かっている。だが……では、我らの後始末を、貴様は未来の……子孫に押し付けるというのか!」

 叫びながらアーサーは剣を振るった。

美しい装飾の柄の中央に、翡翠色に輝く美しい装飾の埋め込まれた聖剣で、迫り来るツタを切り飛ばし、決して自らに近づけさせはしない。

 ロウの攻撃は、アーサーに対して足止めにすらならず、逆にロウの元へとさらに距離を詰めていく。


 「子孫?後始末?アーサーよ、未来の事をその未来に生きる者が対処する……何もおかしくはあるまい。お前はうぬぼれが強いのではないのか?全てを未来に託すのだ」

 ロウは、肉薄するアーサーの事をまるで懐に迎え入れるかのように、大きく両腕を広げる。

 それを見たアーサーは『ちっ』と舌打ちすると、それ以上踏み込む事を諦めてしまう。

 「さすがに、あからさますぎたか……」

 「わたしを舐めているのか?ロウ!」

 ロウとアーサーは視線を交え、互いの次の手を読みあう。

 7日7晩を過ぎた戦いは、すでに8日めの朝を迎えていた。

 よく知った者同士ゆえに、互いの持つ技、魔法の全ては知りつくしている。

 両者の実力は拮抗しているかのように見えるのだが、肩で大きく息をしているアーサーに対して、ロウの方にはずいぶんと余裕があるように見えた。


 「アーサー……あれを見よ」

 ロウの指し示す方角、よく晴れた初夏の空がオレンジ色に明滅を繰り返している。

 「人間と魔族の争いが起きて、もうずいぶんと経つ」

 「ロウ、貴様は何が言いたい?」

 紅蓮の炎が焦がす空の下では、人間と魔族の戦が繰り広げられていた。

 街を破壊し、森を焼き、河川は干あがる。

 人間の使用する道具と、魔族が使用する魔法。

 マナを媒介に使用される強力な兵器と大魔法がもたらした破壊は、大地に深い傷跡を残そうとしていた。


 「アーサー、人間とは愚かな生き物なのだよ」

 紅蓮に燃ゆる空の下の光景を眺めるかのように、目を細めさせながらロウは呟く。

 「魔族には非がないと?ロウ、お前はそう言いたいのか?」

 アーサーの答えに、ロウは一瞬呆気にとられ、次の瞬間には大笑いをし始める。

 「お前の祖母にあたる、ユーリの代からわずかに3世代……。人間の身で、世界の真実にもっとも近付いたお前でさえ、その程度の認識しか持ち合わせていない」

 「ロウ、貴様は何が言いたいのだ……」

 アーサーには、ロウの考えが理解出来ない。

 人間と魔族、その壁を乗り越え共闘してきたが、結局の所、アーサーはロウの事を何ひとつ知らないままであった。

 「アーサー、悪い事は言わぬ。剣を引け……お前はもう、グリモアには関わるな」


 正体不明の魔導書グリモア。

 強力な魔力によって、所有する者に絶大な力を与えるのと引き換えに、所有者の精神を乗っ取り支配する。

 グリモアとの戦いの歴史は、アーサーもよくはわかっていない。

 知っているのは、自分の祖母であるユーリや、今は亡き父トッドがグリモアとそれに憑かれた者たちと激戦を繰り広げたという事だけだ。


 「アーサー、お前の実力は、ユーリよりはるかに劣る……」

 そこまで言うと、ロウはアーサーの反応を確かめるように見つめる。

 「それでも、私は……」

 アーサーには、ロウの言わんとしている事が理解できていた。

 「『敵わないまでも、一矢は報いたい』」

 アーサーの言葉を遮るように、ロウが言葉をかぶせてくる。

 「だが、それは本音ではないな」

 ロウの声色からは、事のすべてを見通している響きがあった。


 ふたりの間に、しばらく長い沈黙が続いた。

 

 「……名残惜しいが、そろそろ終わりにさせてもらうぞ」

 「それは、こちらのセリフだ……ロウ」

 睨み合うふたりの間の大気が、ちりちりと震え始める。空間が歪むほどの魔力がふたりへと集まり始める。


 空間が捻れ、大気が爆発を起こす。地は震え天を貫く。ふたりの体が交錯する……。

 

 戦いは終わった。


 そして――アーサーは英雄となった――

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